最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

予想以上

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 「・・・・・・」


 ゾンビゲームよろしく、不規則な動きをしてカイトを襲う影の群れを眺めている。
 この世界にもゾンビはいるらしく、カイトはすぐにコイツらの弱点を突いていた。

 というか、何気に会話を聞かれていたのか。
 失敗したな・・・今度の奴は弱点を別の場所に移すか・・・?

  そんな事を考えていると遠くから地鳴りがする程の咆哮が聞こえてきた。


 「・・・今のは?」

 「おや、意外と早かったですね。あの追い掛けさせた影が特定の条件が揃った時に形態が変わるようにしておきました」

 「それはアレか?追い詰められたらグロテスクに巨大化したりするとか?」

 「ご明察。身体能力も向上します。一応修行という事である程度力をセーブさせていますが、あの程度の者たちにまず負ける事はないでしょう」


 ノワールがそう言った直後、遠くの方から大きな地響きと鋭く巨大な氷塊が立てられたのが見えた。
 あれだけ立派なものが立てれるのはフィーナくらいだろう。
 それはそれとして、カイトたちに目を向ける。
 レナは俺が作ってやった大弓で矢を放ち、カイトはエンジンが掛かったように影を倒しまくってる。
 ユウキ?邪魔にならないように自ら木陰で寝そべっている。
 アイツは本当に何しに来たんだろうかと思う。
 しかし、カイトの戦っている姿を見て疑問を感じる。
 
 それはまるで、俺が一回見せた「領域」に似ていた。
 一回見せただけで教えた覚えもないソレを、カイトは不完全ながらも使っているように見えた。
 そしてそろそろ十分が経過する。次の影を用意して放ってもらう。


 「んじゃ、ノワールとランカ、もう五十頼んだ」

 「はい、ここに」

 「了解です。いやー、それにしてもこれが人のために役に立つ時が来るとは思いませんでしたよ」


 すでに影の準備をしていたノワールと違いランカはのんびりと準備を始めていた。


 「そこは同意します。闇の魔術など光と違い、他者に死を与えるものですから。良くて死を弄ぶ・・・人の成長に一役買うなど初めてです」


 クフフと笑うノワール。
 ランカも準備が整い、カイトへ放たれる。


 「カイト、十分経過だ。追加するぞ」


 俺の言葉を合図に後ろに待機していた影が最初から走ってカイトに襲い掛かりに行った。
 ノワールを見るとニッコリと微笑んでいた。


 「レベルアップ、というやつですね」

 「私はそのままですよ?」

 「そうか。ならワンパターンじゃなくなっていいんじゃないか?」


 影が向かった先にいるカイトは、ペースを落とす事なく一定の距離に入った奴から迎撃し続けている。
 流石に背後からの攻撃には反応が遅れているが、しっかりと倒している。
 レナもカイトの動きを邪魔しないように外回りの奴だけを仕留め、たまにカイトが頭を下げた一瞬に奥の奴を狙い撃ちしていたり、漏れた何匹かを慌てる事なく一矢で二匹の頭を撃ち抜いたり、同時に二矢を放っていたりとしていた。

 前から思っていたが、レナの射撃精度だけはすでに達人の域に行きそうなんだよな・・・。

 そうして順調に数を減らし、十分直前にカイトたちは影を全て倒してしまっていた。


 「ハァ・・・ハァ・・・フゥ・・・」


 服に染みる程に全身から汗が垂れ流しているカイト。
 レナも少なからず汗を掻いて疲労の色を見せていた。
 一息吐いたカイトたちに「よくやった」と声を掛けようとしたところで地面が揺れる程の足音が近付いて来た。
 遠くから見えたのは二足歩行で走って来た犬みたいな巨人のナニカ。

 ・・・犬?犬だよな、アレ?

 向かわせたのが犬型だったから犬っぽいと思ったけど、よく見たら犬の原型が耳しか残ってないから、正直「犬のような」と付けていいかも分からない。


 「・・・もしかしなくても、ノワールが言ってたのってアレの事?」

 「はい♪」


 これまた嬉しそうな笑みを浮かべて答えたノワール。
 もしノワールが故意にあの形にしたと言うのなら、相当良い性格をしている。
 そして、更によく見ると怪物のその両手にはフィーナとメアとあーしさんが、まるで子供がオモチャを握り締める時のような持たれ方をしていた。
 負けるとは言われていたが、フィーナたちが力無く頭を垂れるような持ち方をされているその光景を見ていると哀れ以外の感想が出てこなかった。


 「■■■■■■・・・」


 何かをボソボソと呟く怪物はある程度こっちに近付くと、メアたちを丁寧にその場に置いた。
 持ち方はアレだが意外と紳士なのかもしれない。
 するとカイトがソイツの存在に気が付き、戦闘態勢に戻る。


 「「・・・・・・」」


 お互い無言で向き合う。
 カイトはまだ熱が冷めないのか、明確な敵意で睨み付けていた。

 普段温厚なカイトからは考えられない態度。もしかしたら見た事のない奴がメアたちを持って来たから敵と認識したのだろうか?

 そして怪物がピクリと動いた瞬間、カイトが行動を起こす。
 今までにない速度で動き、影の顎っぽいところに蹴りを入れて倒した。
 意外な威力に思わず「おぉ」と声が漏れる。
 無意識に身体強化のスキルを使ったんだろうが、それでも俺の予想を超えた攻撃をした。
 その事が嬉しくて少しニヤけてしまう。


 「どうしたんですか?気持ち悪い笑いなんかして」

 「いやなに、弟子の成長がこんなに嬉しいとは思わなくてな」

 「いや、あの・・・皮肉でもいいから返してください。普通の返答で返されて無視されると少し悲しいです」


 なんだ、この構ってちゃんは・・・。 


 「弟子にしてまだ一ヶ月も経ってないんだぞ?夏休み中色んな事があったとは言え、かなりの成長速度だ。やっぱ魔法とか使える世界だと便利だから修行が捗る捗る♪」


 この感情はユウキが自分のお気に入りキャラを育てているワクワクした感じと同じだろう。
 そしてカイトの方で進展があった。
 倒れていた怪物が起き上がり、四つん這いになった。犬型の時の名残りだろうか?
 怪物は手足に力を入れ、弾丸のような速さでカイトに向かって行った。


 「ッグ!?」


 カイトはギリギリで体を反らして避ける。
 怪物が方向転換しようとしたところで頭に矢が突き刺さった。
 レナの矢だ。
 再び弾丸のように飛び出す怪物だが、レナが的確にヘッドショットを当てていく。

 なんなのあの子?本当に達人直前じゃないか。

 数発当てられ転げる怪物にカイトが突っ込み、ジャンプして上から剣を突き刺す。


 「■■■■■■ーーッッッ!!」


 剣を突き刺した場所が偶然弱点だったのか、怪物が空気が震える程の叫びを上げた。
 しかしカイトとレナは苦痛の表情を浮かべるが、構わず攻撃を続ける。


 ーーーー


 戦闘が始まって二十分が過ぎた頃ころ。
 体勢を立て直した怪物はカイトたちを翻弄して襲っていたが、レナがカバーしながらカイトが素早い剣戟で怪物にダメージを与えていき、ついには勝利してしまっていた。


 「「・・・・・・」」


 ピクリとも動かなくなった怪物とその上で剣を突き刺すカイト。
 その光景を驚いた表情で見るノワールとランカ。


 「流石に、驚きを隠せませんね」

 「まさか・・・もうそこまで成長していたとは。侮りましたか」

 「まぁ、これがいつもの調子なら何も言う事はないんだがな」


 怪物から下りて膝を突いて息を切らしながら上を見上げるカイトを見て呟く。
 常にそのポテンシャルを維持してもらわければ、もし今回の事で「俺はこんなに強かったのか」などと勘違いされて、その後で「今日はたまたま偶然調子が良かったから」なんて負けた言い訳をされても困る。

 ・・・いや、言い訳ができる状況ならまだマシか。命を落としてからじゃ遅い。

 一応そこのところは言い聞かせてあるから心配はないとは思うが。
 二人に近付いて今度こそ言葉にする。


 「よくやったなカイト、レナ。正直ここまでできるとは思わなかったぞ」

 「えぇ・・・?できると思ったからこういう課題を出したんじゃないんですか・・・?」


 カイトは先程までのピリピリした雰囲気はなくなっていて、代わりにもう一歩も動きたくないといった感じだった。


 「いや、俺の考えだとゾンビのアレをもう五回追加してクリア、もしくは手が追い付かなくてやられるのどちらかだった。メアたちがいなくなって後者の可能性が濃くなったと思ってたけど、まさか一回追加だけで全滅させて、尚且つコイツも倒しちまうなんて思わなかったよ」

 「俺もこんなのを相手にさせられるとは思いませんでしたよ・・・」

 「別に相手しなくてよかったんだぞ?」

 「・・・え?でも先輩たちが・・・」

 「見た目は変わってるが、コレは追い掛けさせた犬だ」

 「・・・あっ」


 ちょっとだけ残ってる犬の面影に気付き、「そう言われれば」という感で声を漏らすカイト。


 「一応貴方たちが倒せるレベルにはしていなかったのですが・・・嬉しい誤算、というわけですね」

 「そうだな」


 俺とノワールの会話を聞いたカイトが少し照れ臭そうにしていた。
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