最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

ハザード的な感じのアレ

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 ☆★カイト★☆


 「ッ!!」


 目の前に迫っていた筈の影ゾンビ(今命名)の頭が突然に消える。
 何かが俺の後ろから通り過ぎたのだ。
 多分それは後ろにいるレナが放ったもの。

 そうだ、まだレナがいた!

 少しだけ希望が戻り、足を一歩踏み出して目の前に溢れる程向かって来る影ゾンビの頭を先頭から斬り飛ばす。


 「レナ!もっと後ろに下がってから援護してくれ!」

 「・・・!わわ、分かった!」


 レナは師匠から貰った黒い大弓を抱えて後ろに下がる。
 今になって分かったけど、さっきの一撃だけで四、五体の影ゾンビを貫いて倒してしまう強烈なものだったらしい。
 それを見て俺は自分も新しい武器が欲しかったな、と少しだけ羨ましく感じた。

 確かに一応服と篭手を貰ったけど・・・


 「ん?」


 一瞬疑問、というか、何かを勘違いしているのではないかと思い返した。
 何故剣士である俺に篭手を渡したのかと。


 「■■■■■■ッ!!」

 「ッ!?」


 そんな事を考えてると次から次へと襲って来た。
 いつの間にか周囲は囲まれていたらしい。
 一匹倒してもすぐ次がやって来て、もう剣を振る速度が追い付いていない状態になる直前だった。


 「あ、そうそう。ソレに噛まれても死ぬ事はないけど、死ぬほど痛い激痛に襲われるようにしといたから」


 追い打ちを掛けるようにそんな事を良い笑顔で言い放つ師匠。
 それでも尻込みしそうな気持ちを抑えてなんとか影ゾンビを迎撃する。
 そしてついに攻撃速度が追い付かなくなったところで影ゾンビの顔が目前まで近付いて来てしまった。


 「うおっ!?」


 驚いた拍子にその顔を剣を持ってない拳で殴ってしまった。
 するとブチッという音が聞こえ、影ゾンビの頭が吹き飛んだ。


 「あれ・・・ッと!」


 思いの外脆く感じて唖然としたが、他の奴らが襲って来て呆ける時間をくれない。
 とりあえず「何故」という疑問を頭から捨て、殴っても倒せると分かった今、左手に逆手に持った剣を、右手をフリーにした戦闘スタイルに変える。
 二体同時に来た影ゾンビに対し、一体は剣で頭を跳ね飛ばし、もう一体の頭を鷲掴んで地面に叩き付ける。
 その頭はブチャッと生々しい音を立てて潰れ、その頭の無くなった影ゾンビの足を持って他の影ゾンビたちに投げる。
 何体か崩れるように倒れて時間稼ぎをし、他の影ゾンビに目を向ける。
 同族がやられても気にした様子もなく襲って来る。
 他も同様、斬る、蹴る、殴る。
 なるべく頭を狙い、足払いで崩して地面に倒れたところを踏み付けて潰したりする。

 一匹一匹、素早く、確実に。

 倒せば倒す程感覚が研ぎ澄まされる気がした。
 斬り込みは鋭く、踏み込みも力強く。
 目の前の事だけに集中して他を一切気にしない。耳にも影ゾンビたちの呻き声や叫び以外が入ってこない。
 死体は元々が影なので残ったりせず消えて邪魔になる事はないので、更に集中できる。
 そして影ゾンビをただの人形相手ではなく、それぞれ一つの生物だと考え、「生き物を殺す」と意識する。
 そして、眼前の敵だけでなく後ろからも襲って来る敵にも注意を向け、掌底を当てる。
 一瞬だけ空いた時間に呼吸を整え、次に備える。
 その間に一番近い奴の頭をレナが射抜いてくれた。

 流石レナだ、あんな遠くから当ててくれた。

 二秒か三秒、たったそれだけの時間だったが、一呼吸できただけで十分だ。
 構えを取る事はしない。時間が惜しいから。
 その場から動く事もしない。体力が惜しいから。
 攻撃の動きを最小限に、全神経を研ぎ澄ませ、全ての「敵」を排除する。


 「オオォォォォォッ!!」


 ーーーー


 ☆★フィーナ★☆


 「ハァ・・・ハァ・・・冗談じゃ・・・ない!」

 「グルルルルルルゥ・・・」


 息を切らしても走る事を止める事ができない。止めさせてくれない。
 後ろの犬みたいな奴らが。
 アレは多分・・・いや、絶対にアヤトがけしかけた奴だ。
 後ろをチラ見すると目も鼻もない犬の形をした黒いものが口だけ開いて美味そうな獲物を追うように涎を垂らして追い掛けて来る。
 横にはメアとエリが泣きながら併走していた。


 「だ、ダメだって・・・あーしホラーとか苦手だし!」

 「俺だって無理だ!あんな気持ち悪いのの相手なんて・・・コイツらだって口だけの犬とか!」


 あたしとエリは逃げ続けているせいで疲労が見え始めていたが、メアはまだ余裕がありそうだった。


 「それよりも早くなんとかしないと追い付かれるわよ!?」

 「分かってるし、そんな事!でもこれ立ち止まったら・・・」


 もう一度エリと一緒に後ろを振り返る。
 もし立ち止まれば二十、三十はいそうなこの犬の群れの中に入る事になる。
 そうなったらきっと体中を食いちぎられる事だろう。
 そう考えたら背筋がゾッとした。


 「とにかく、アイツらを少しでも足止めするしかないわ!」


 後ろに向けて鋭く尖った氷塊の魔術をいくつか放つ。
 何匹かを仕留めたが、まだまだ数はいる。
 次に氷の壁を作る。

 こんな多少木々が生い茂ってるだけの広い場所で作っても効果は薄いだろうけど・・・。

 効果は「薄い」。そう思って壁を作ったのに、奴らは軽快にその壁を飛び越えて来た。
 そう。「薄い」のではなく「無い」、だった。

 嘘でしょ・・・?


 「・・・アヤトォ!後で絶対に文句言ってやるんだから!!」

 「あんま叫ぶと走る体力無くなるよ?」

 「うっさい!こうなったら・・・■■ーー」


 詠唱しながら走り、詠唱が終わるのと同時に足を止めて地面に手を着け、魔術を発動する。


 「ーーアイスルーム!」


 地面から白い冷気と共に大量の氷が生成され、犬の群れに向かって放つ。
 その魔術は直接当たることはなく二手に分かれ、群れの前後左右、そして上まで全方位を囲み閉じ込めた。


 「おぉ、ナイス!」

 「すげー、これが魔法・・・あれ、魔術?もう分かんないし・・・」

 「あぁ・・・疲れた・・・」


 魔力を使うという事は精神を摩り減らすという事。
 走ったのと苦手なものに追い回されてすでに減っていたところに大量の魔力を消費する技を使ってしまった。

 でも、これで


 「今のうちに逃げるわよ」

 「え?もうコレ倒したんじゃないの・・・?」


 エリが「そんなバカな」という表情でこっちを見てくる。


 「だといいんだけどね。あの魔術はノワールとランカ・・・つまり悪魔と元魔王が召喚したものよ。ソレをこんなもので足止めできたらーー」


 ーードゴォン!!


 「ッ!?」


 あたしが話してる途中、犬の群れを閉じ込めている氷の半球体の中から轟音と共に全体が揺れる程の衝撃が走る。


 「ーーいいわよねぇ・・・」


 音を聞いたメアとエリが顔を青くする。
 一定間隔で轟音は鳴り響き、半球体にヒビが入る。


 「ヤバい・・・逃げーー」


 急いで逃げようとしたが、足に力が入らずその場に崩れ倒れてしまう。

 魔力が・・・!?
 いや、まだ余裕があるから枯渇はしてない。なら単純に体力の問題か・・・。


 「「フィーナ!?」」


 二人が心配して駆け寄ってくれる。
 でもこのままじゃ本当にヤバい。


 「あたしの事はいいから先に行きなさい!どうせ修行なんだし、死ぬ事はないんだから!!」

 「それでもだ!いくら修行内容だからってフィーナを置いてくなんて・・・」

 「いいから早く!」


 流石に気圧されたのか、戸惑いながらも二人は背中を向けて走り去って行った。
 そしてその背中が見えなくなったのと同時に包んでいた半球体の氷が爆発するように破壊された。
 中から出て来たのはーー


 「ーー■■■■■■ッ!!」

 「・・・何よ、それ・・・」


 唖然とした。するしかなかった。
 さっきまでの犬の群れは消えていて、代わりに犬の面影が微妙に残ったグチャグチャな巨人のようなものが現れたのだから。
 意味不明な叫びに似た咆哮を上げ、ソイツはあたしを認識した。


 「・・・いいわ、やってやろうじゃない・・・!」


 再び、地面に手を着けて氷を発生させてあたしを含んだ周囲を半球体で包み込む。
 これがあたしたちのバトルフィールド。
 ガクガクと震える足を押さえ付けて立ち上がる。
 疲れだけではない。コイツから感じるプレッシャーで体が嫌だと拒否反応を示し、恐怖している。
 でも心はすでに覚悟を決めている。
 修行なら修行らしく、できないから逃げてやられるより、挑戦して負ける方を選んでやる。
 手を前に出して「掛かって来い」と挑発行為をする。
 悪魔だろうが魔王だろうが知ったこっちゃない。


 「覚悟しなさい。絶対にただじゃ通さないんだから!」
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