最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

文字の大きさ
174 / 303
夏休み

ギルド依頼消化

しおりを挟む


 「うーむぅ・・・」


 ベレー帽を被った一人の少女が机の上に置かれた何十枚か重なった紙を眺め、腕を組んで唸っていた。
 ここはルノワール学園の近くにある街、クルトゥのギルド。
 屈強な風貌の戦士などが滞在するその中で、明らかに不釣り合いな雰囲気の少女が受付をしていた。


 「どうしたの・・・ってああ、それかー・・・」


 そんな彼女に近付くもう一人の背が高めの女性がやってくる。
 彼女も重なった紙の一番上を見ると顔を歪めると同時に溜息を吐く。


 「誰も受けてくれない依頼書ね・・・」

 「はい。大体の内容が面倒なものや危険なものだったりする割に報酬があまり良くありませんし、急を要するものだったりで誰もやりたがらないんですよね。期限が近いものや急ぎのものもあるのに・・・」

 「そうなのよねぇ・・・」

 「そーなのかー」


 そう呟いて溜息を吐いた。
 違和感を感じた女性二人がバッともう一つ溜息がした方へ顔を向ける。
 そこには黒ずくめのローブを纏った高身長の男が依頼書を覗くように見ていた。


 「アヤトさん!」

 「いらっしゃいませ。今回はどのような用件でしょうか?」

 (切り替え早っ!?)


 一人はアヤトの突然の出現に驚いていたが、もう背の高い方の女性は素早く切り替えていたのにも驚いてしまっていた。


 「用件って程の事でもないよ。普通に冒険者として依頼を受けに来たんだ」

 「そうですか。アヤト様程の方でしたら、丁度良い内容のものがあちらにーー」

 「その依頼、解消できてないんだろ?俺が受けよっか?」


 アヤトがそう言うと、その後方で冒険者たちが「おぉ!」と声を上げる。


 「えっ!?で、でも・・・」

 「内容は薬草採取のものや、少ない報酬での盗賊討伐などもありますがよろしいでしょうか?」

 「ああ、構わない。とりあえず見せてくれ」


 ベレー帽の少女が「はい」と言って積まれた依頼書を全て渡す。
 アヤトは「ふむ」と呟きながら二つに仕分けしていく。
 受付の二人がその行動に疑問を感じつつも見ていると、仕分けし終わったアヤトが後ろを振り返る。


 「おーい、お前らも来い!」


 アヤトが後方に控えさせていた者たちを呼ぶと数人の少年少女たちがやって来る。


 「コレをお前たちでやってくれ。こっちを俺がやるから」


 そう言って仕分けした少ない方の依頼書を一人の少年に差し出した。


 「え、ちょ、ちょっと待ってください!?」

 「ん?何か問題でも?」

 「問題も何も・・・この子たちってまだ成人してない冒険者ですよね?保護者がいないと依頼は受けられないんですよ!?」

 「ああ、知ってる」

 「え?・・・えーっと・・・保護者って貴方じゃないんですか?」

 「それくらい把握しといてくれ。保護者は俺と、少し前にこっちのミーナも登録した筈だが?」

 「・・・・・・」


 アヤトの言葉に目を見開く少女。
 するともう一人の女性が分かっていたと言わんばかりに一枚の用紙を少女の目の前に差し出す。
 そこの保護者という欄には「アヤト」の下に「ミーナ」とあった。


 「ちなみにミーナさんという方は・・・」

 「ん」


 少し伸びた黒髪に猫耳の付いた少女が一歩前に出る。


 「・・・はい。冒険者ランクCのミーナ様ですね、失礼しました・・・ではお気を付けて行ってらっしゃいませ」


 申し訳なさそうにしながら頭を下げる少女。
 しかしミーナはそんな事を気にせずにアヤトに振り返る。


 「じゃ、行ってくるね」

 「行ってきます、師匠」

 「おう。一応ここら近辺の薬草採取や弱い魔物相手だが気を付けて行け。無理だと判断したらいつも通り全力で逃げとけ」

 「了解です」

 「俺もアヤトと行きたいんだけど・・・」

 「こっちを早く終わらせて合流するから。それまで我慢して雑草でも抜いといてくれ」


 アヤトの言葉を聞いたメアは「あいよー」と渋々承諾して、カイトたちと共にギルドから出て行った。
 それを確認した受付嬢たちは呆れ気味に溜息を吐く。


 「溜息吐いてばっかだな、あんたら」

 「ストレスの溜まる職場ですからね。それから大事な薬草を雑草扱いしないでください」

 「それにそんな量の依頼を今日中に終わらせられるんですか?」

 「ああ、問題ない。どれもここからそんなに離れてないし」

 「一つ一つを見たら「ギルドここから離れてない」というだけで、全部を回ろうとしたらかなりの距離になりますよ・・・」


 すると突然出入り口の扉が勢い良く開き、一人の幼い少女が駆け込んで来た。
 その出来事に辺りが一瞬騒然としたが、一人のヘラヘラとした男が少女に近付く。


 「おいおい、嬢ちゃん?ここはお前のような子供が来る場所じゃないぞ?」

 「助けておじさん!!」

 「お、おじ・・・どうしたんだ?」


 涙をポロポロと流す少女の尋常じゃない様子に、(おじさんと言われた)叫びに戸惑いながらも男は事情を聞こうとした。


 「おねーちゃんが悪いおじさんに連れて行かれちゃったの・・・!」

 「悪いおじさんに・・・?それってどんな人だったんだ?」

 「えっとね、みんなお顔が分からないの。そのオオカミの人たちが来たらみんなのおとーさんとおかーさんが赤いのがぶしゃーって・・・それでねーー」

 「お、おう・・・?」


 全員、その幼過ぎる言動が何を伝えようとしているのか理解できなかった。
 ただ一人を除いて。


 「・・・・・・」

 「どうしたら良いのでしょう・・・あら、アヤト様?」


 アヤトは神妙な顔付きをして無言で少女に近付き、同じ目線の高さに屈んだ。


 「なぁ、その「オオカミの人」ってなんでオオカミなんだ?」

 「え?えっとね、ここにオオカミがあったの!」


 そう言って少女は自分の左肩を指差した。


 「・・・なるほどな」

 「何か分かったんですか、旦那!?」

 「多分、盗賊か何かだろう。肩に狼のエンブレムを付けた有名な盗賊みたいな奴らっているか?」

 「いえ、私は知りませんが・・・」

 「・・・まさか」


 そう言って受付嬢の一人が奥へと行き、バサバサと紙が散らばるような音が聞こえたと思うとすぐに帰って来た。
 そのまま少女の元へ向かい、一枚の紙を見せた。


 「もしかしてこんな絵をしてたかな?」


 さっきまでの堅い口調を砕いた話し方で語り掛ける女性。
 そしてその絵をみた少女はコクリと頷く。


 「・・・そう、やっぱり」

 「その絵は?」

 「少し昔に暴れていた名のある盗賊団の紋章です。通称「ウルフズ」」


 ざわりと周囲が動揺する。
 その中からは「マジか」「嘘だろ・・・」という声が飛び交う。


 「数年前にとある国から依頼が舞い込み、ギルド内にて大規模な討伐隊が組まれたのです。そしてその国の騎士と合同で向かったのです」

 「随分大掛かりだったんだな。それだけ向こうも大人数だったってことか?」

 「はい。それこそ街一つ分の・・・いえ、事実盗賊たちだけの街が作られていました。そこに向かわせましたが・・・結果は痛み分け。向こうにも相当の被害を与えましたが、こちらも甚大なものを受け、しかも頭領を逃がしてしまいましたのです。実質、討伐は失敗。しかし最近は鳴りを潜めていたのですが・・・」

 「動き出したって事は・・・まさか準備が整ったって事ですか!?」


 受付の少女の一言で騒めく声が更に大きくなる。


 「ふーん、ウルフズねぇ・・・ちなみにその盗賊たちがねぐらにしてたって場所は?」

 「え?・・・ここです、けど・・・?」


 聞かれた女性は地図を取り出して指を指すと、アヤトは「おっ」と声を漏らす。


 「あんま遠くないな。じゃあ、ついでに行ってくるか」

 「「えぇっ!?」」


 今度はアヤトの一言で全員が驚き、さっきまでの喧騒がなくなり静まり返る。


 「なんでそんな近所に買い物に行く軽さなんですか!?」

 「しょうがないだろ、近いんだから。それに必ずそこにいるとは限らないんだし」

 「そうでしょうけども・・・」

 「おにーさん!」


 立ち上がったアヤトの足元で少女が何かを訴えるように見つめる。


 「どうした?」

 「コレ!ほしゅー!」


 少女はそう言っていくつかのビー玉を差し出した。
 アヤトはその中の一つを摘み取り、ニッと笑って少女の頭を撫でた。


 「な。補習なんて絶対学生に聞かせちゃダメだぞ?・・・じゃ、俺も行ってくるかな」


 アヤトはそう言ってギルドを出て行った。


 「ほとんど報酬無しでウルフズ討伐を請け負うなんて・・・やっぱ流石だぜ、旦那は!!」


 誰かがそう言った次の瞬間、ギルド内の冒険者たちが叫び盛り上がりお祭りのような活気に包まれ、受付嬢たちは呆れていた。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。