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武人祭
束の間の休息
しおりを挟む「なぁ、学園長?あんま放送で呼ばれると俺がやらかしてばっかの印象がここの生徒たちに植え付けられるんだが・・・」
一コマ目の授業終わりに俺の名が放送で呼ばれて学園長室にノワールとココア共々いる。
俺の言葉が気に入らなかったのか、ムスッとした表情の学園長が目の前にいる。
「実際やらかしてるじゃないか。学園内の問題児ではなく、世界的な問題児として。まぁ、学内でも多少のいざこざは起こしているみたいだけれども、それくらいならよくある事さ。だけど今回は規模が違う」
そう言って一枚の紙を取り出した。
前に見せられた脅しの手紙かと思ったが、内容が違うものだった。
「・・・ラライナが正式にレギナンから宣戦布告を受けたらしい」
「・・・そうか」
「そうかって・・・相変わらず軽いね、君は」
「何事も経験だ」
「戦争の経験なんて僕も一度はしているけど、君は何度経験して慣れたんだか・・・」
「こっちと違って向こうはあっちこっちでやってるからな。経験する機会が多いんだよ」
もっとも、日本から出たとしても早々経験するもんでもないけど。
「・・・って事はアレか。学園が始まって早々長期休暇取って向こうさんの相手をしなきゃならんのか」
「いや、そんなすぐにってわけでもないさ。通常宣戦布告を通達してから準備期間が設けられるからね。それは規模にもよるけど、アヤト君の言う通り向こうが本気で挑もうとしているのなら半年の猶予がある筈だ」
「半年も?随分時間を空けるんだな」
「各国への助力要請の通達や食料の用意、武器や防具の手入れ、そして戦いに向けて更なる兵の拡大などなど。村同士の争いじゃないんだ、国が大きければ大きい程準備が長引く」
「奇襲はされないのか?」
「されないよ。【戦争をする時は堂々と】それが僕らの世界の神様が定めた「ルール」の一つだから。反故にすれば要請する筈だった同盟国ですら敵に回す事になるだろうね。コーヒーはいるかい?」
説明しながら何かをしてると思ったらコーヒーを煎れようとしていたらしい。
「ああ、貰うよ。・・・シトかぁ」
「僕は彼が神様だなんて未だに信じられないんだけどね」
学園長はアハハと苦笑いしながらそう言った。
「もしアレが神じゃなかったとしても、俺をこの世界に呼んだアイツは少なくとも「神に近いナニカ」ってなるだろうな」
「彼がこの世界の神なのは事実ですよ。あの胡散臭い性格ですから信憑性がないのも頷けますが・・・」
「この世界に魔法を・・・いえ、正確には私たち精霊をお創りになったのもあの方ですわ」
「そして人間が増え過ぎてあの神が定めた「ルール」にほとんどの人間が従っているのです」
「それが法律とはまた別のルールっていう事か?タイミング的にありがたいな」
これから半年、更にカイトたちを鍛えれば自分を守る術くらいは身に付けさせる事ができる筈だ。
「僕としては先生・・・しかもこの学園全体の責任者だから生徒を守らなくちゃいけないんだけど・・・僕にできるのはここを守る事だけだ。昔と違って好きに動けなくなったのは歯痒いね」
「それでいいさ。元々ラライナもこの学園も俺が巻き込んじまったんだ。この問題は俺たちだけで何とかする」
「あまり派手な魔術をぶっ放して地形を変えたりしないでおくれよ?」
「相手の出方による」
「おいおい・・・」
「冗談で言ったのにできるのかい・・・」と学園長は呆れながらも微笑む。
その困った子供を見守る笑顔は、やはり年齢相応に大人らしい。
「・・・だけど、同じ生徒だからあまりこういう事は言いたくないけど、メアさん・・・は立場上仕方ないとして、カイト君やレナさんのような一般の生徒を巻き込まないでおくれよ」
「カイトたちは俺に関わったせいでもうすでに一般の範囲から逸脱してると思うんだがな」
全員で魔族大陸に行ったし、カイト一回死んでるし。
学園長は「そうは言ってもねぇ・・・」と言って納得できない様子だった。
納得というよりは放っておいても問題ない俺やノワールと比べて「普通」だから心配なのだろう。
「・・・まぁ、巻き込まれるかどうかはアイツらの判断に任せるさ。元々俺はアイツらを強くさせたいから弟子にしたわけであって、人を殺す戦争に参加させるためじゃないからな。あくまで巻き込まれても最低限自衛できるくらいにするだけだ」
「・・・彼らが「参加したい」と言ったらさせるのかい?」
「させる。実践は何よりも経験になるからな。守る事はするが、過保護にはしない」
「彼らの親には何て言うつもりだい?子が戦争に参加するなんて知ったら卒倒するだろうし、絶対に止めに入るよ」
「それも含めて本人たち次第さ。親を心配させたくない、親の言う通りにするというなら安全な場所で大人しくしててもらう」
「・・・分かった。君の言葉と実力を信じるとしよう」
微笑んだままそう言ってコーヒーを口にする。
俺も淹れたてのコーヒーを飲む。
「・・・甘い?」
砂糖を入れた覚えも学園長が入れた様子もなかったのに、コーヒーが甘く感じたのに驚いた。
「どうだい、驚いただろ?これにはコガーというコーヒー豆に似た豆を使っているのだが、普通の豆と違って最初から甘いんだ。しかも砂糖を使ってなくてコレだから、飲み過ぎなければ虫歯や病気になりにくいらしい」
「へぇ、凄いもんもあるんだな・・・」
味はコーヒーというより、カフェオレやコーヒー牛乳に近い感じがした。
うちの甘いもんが好きな連中に買ってやったら喜びそうだな。
「これは普通に売られてるのか?」
「うーん・・・普通っちゃ普通かな?近辺の街には売ってないから、僕はいつもレウタナって街の店から取り寄せてるんだよ」
「ああ、あんたが飲んだくれたところか」
「・・・なんで知ってるの?」
「ミランダが愚痴ってた」
「アイツめ~」と恨めしそうに呟きつつコーヒーもどきを一口啜る学園長。
実際にその場で一緒に飲んでいたミランダは「あの小さい体のどこにそんな入るんだかな・・・」と別の意味で感心していたのを思い出す。
「どうせなら君の分も取り寄せてあげようか?」
「いや、店の名前だけ教えてくれれば、あとは地図で確認して自分で行くわ」
「そっか、分かった。そのお店の名前は「豆の木」って言うんだ」
「豆の木ねぇ?じゃあ・・・」
豆の木と聞いてあの童話を思い出す。
「店主はジャックか?」
「あれ?彼を知ってるの?」
「え?」
「え?」
ただの冗談だったのにどうやらあたったようだ・・・偶然とは怖いものだな。
・・・まさか向こうから来た奴が作ったんじゃないよな?
そんな事を考えているうちに学園長が話を切り出す。
「ま、そうだね。いつまでも辛気臭い話をしていてもしょうがない。他に僕にできるの事があれば手伝うけど、あとは任せるよ。それよりも先に学園の行事を楽しんでくれ」
「ああ、そういえば武人祭なんかもあったか。いつだ?」
「十四日後。一ヶ月後学園祭もあるしね」
「学園祭・・・だと・・・!」
なんというか、学校の行事らしい行事もあるんだなと思ってしまった。
生徒の集まる所なのだから当たり前だというのに。
まぁ、もしかしたら内容は以外とのファンタジーな要素もあるかもしれない。
「学園祭は何をするんだ?」
「色々さ。各部活の者たちが今までに培ってきたパフォーマンスを見せてくれたり、クラス毎に出し物をしてお店を開いたりだね。だけど一番の「召喚獣バトル」かな?」
「召喚獣バトル?」
「高等部が召喚した魔物たちに特技を覚えさせて戦わせる催し物さ。「君に決めた!」なんて言ったりしてね!参加は任意だよ」
ポケ◯ンかよ。
「あとは泊りがけでやり通したりするから、中庭でキャンプファイヤーをして食べたり踊ったりするよ」
「つまり後夜祭か。良かったよ、学生らしい行事ばかりで。召喚獣バトルを目にするのは初めてだが」
「君も学生なら学生らしい行事を楽しんでくれ。・・・ああ、多分心配ないとは思うが、召喚獣バトルにノワール君を出場させるのは控えてくれよ?召喚されたとは言え人の形をした者を戦わせるわけにはいかないし、彼も立派な生徒の一人なんだから」
「分かってるよ。ノワールも別にいいだろ?参加しなくて」
「えぇ、子供と戯れる趣味はありませんので」
ニッコリと答えるノワール。
学生たちの召喚獣バトルなどノワールの言葉を借りて言うなら「児戯にも等しい」のだろうからな。
「ミーナやメアのはいいのか?」
「あー・・・そうだね、メアさんのは良いとして、ミーナさんのも竜とはいえ子供だし・・・まぁ、構わないよ」
「それは良かった。俺はいいとして、アイツらが出たがってるのに出られないんじゃ可哀想だしな」
「フフッ、まるであの子たちの保護者だね」
「見てて危なかっかしいのは確かだな。俺も人の事言えないんだろうけど・・・あ、そうだ。一つ頼みたい事があるんだがいいか?」
「それは・・・戦争の事でかい?」
さっきまで笑顔だった学園長の顔に少しだけ不安の色が出る。
「大丈夫、全く関係のないものだ」
俺はそう言って学園長にあるお願いを聞いてもらった。
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