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武人祭
クラスメイトたち
しおりを挟む☆★カイト★☆
まさかの風紀委員を利用して無事に教室に辿り着いた俺たち。
傍から見たら連行されてるようにしか見えなかったのだろう、道中ずっと可哀想なものを見る視線が向けられていた。
しかし実際はただこちらの都合で付いて行ってただけで何もないというのが真実なのだが。
そうして教室に入ったところで、いきなり肩を組まれ話し掛けられる。
「おーっす!久しぶりカイト!夏休みはどう・・・え?か、カイト!?」
クラスが一緒になって仲良くなった男友達がそこにいた。
身長は少し高めで茶髪、いつも気さくに話し掛けてくれる「シン」だ。
「おう。どうした、シン?」
「「どうした?」じゃねえよ!?むしろお前がどうしたって話よ!なんでお前の髪こんな黒くなってんの!?」
「髪・・・?あ、ああコレね。夏休み中に色々あってな」
流石に魔族大陸に行って一度死に掛けたとか言えるわけがない。
「色々って・・・いや、それになんか雰囲気も変わってね?なんと言うか・・・目付きが鋭くなったな」
「目が?」
「ああいや、目というか・・・前のゆったりした感じがなくなった?みたいな。今にも死にそうな情けない感じがなくなってる」
「うるさい、余計なお世話だよ」
シンは俺の言葉を受け流して首を傾げてうーんと唸る。
そんなシンに「多分だけど」となんとなく心当たりのある事を口に出す。
「・・・最近、師匠に鍛えてもらってるからその影響じゃないか?」
「え・・・お前誰かに教えてもらってんの!?いいなー!」
話をしながら机に座るとその横にコイツが座り、項垂れながら塞ぎ込む。
「っていうかさー?宿題終わんなくね?あんなの・・・」
「俺は終わらせてあるぞ」
「マジかよ!?アレだぞ?計算問題の山と魔法を一つでも使えるようにする課題!俺たちには必要ないと思ったから剣技の方を取ったのによぉ・・・」
「どっちも。俺、仮の冒険者登録したし、みっちり扱かれたから魔法もちょっと覚えたよ」
「・・・ん?って事は魔術師の先生?」
「一人は武術の師匠。魔法は別の近くにいた人に教えてもらった」
「うーわー・・・ズルいわー」
「なんだよズルいって・・・」
「だって宿題も終わらせて課題もできて、その上彼女まで作って・・・コレをズルいと言わずなんと言うか?」
「・・・ちょっと待て。彼女?誰が?」
シンがニヨニヨと気持ちの悪い笑みを浮かべていたが、その意味が本当に理解できなかった。
シンの視線がチラッとレナの方を向く。
「しらばっくれんのか?あの髪で顔隠した地味目の女の子だよ。レナちゃん!一緒に登校して来ただろ?」
「あ?・・・あー、それなら違うよ。レナも俺と同じ師匠を持ってるってだけだ」
「へー・・・え?でもカイトは剣でレナちゃんって確か・・・」
「俺の師匠は何でもできるんだよ。ちなみに魔法魔術は教えるのは下手だけど、色々できてかなり凄いぞ」
「どんな凄い人先生にしたの・・・?まぁ、いいや。お互いまだ春が来てないようで何よりーー」
シンが何か言い掛けた時、扉が壊れるのではないかという勢いで開けられた。
「カイト君!(ココアちゃんの)お手製弁当忘れてるわよー♪」
その扉の向こうからはチユキさんがお弁当を二つ持って、満面の笑みを浮かべてこちらに手を振っていた。
名前を呼ばれて少し恥ずかしながらもチユキさんのところに行くと、レナの方も手招きで呼ばれた。
「どうしたんですか?ここの学生になった・・・ってわけじゃないですよね?」
「えぇ、ただお弁当届けに来ただけよ♪アヤト君が「学食は人混みで面倒だから」って。昼休みになったら迎えに行くらしいから待ってて欲しいみたいよ?」
「そうですか。わざわざすいません」
「クフフ、いいのよ。学園ってところも見てみたかったところだし。本当に子供がいっぱいねぇ・・・」
チユキさんは頭を傾け、教室にいる生徒たちを見て呟いた。
「じゃあ、届ける物も届けたし、私は捕まらない内に帰るわ♪」
「チユキさんが捕まるところなんて想像できませんけど・・・一応気を付けて」
「ん、ありがと。・・・あ、そうそう!もう一つあげるものがあったんだったわ」
「え?他にも何かーー」
チュッ・・・と、チユキさんの顔が急激に近付いて来て頬に温かくしっとりとした感覚を感じる。
思わず後ろに飛び退いてしまったが、チユキさんは自分の唇に指を当てて艶めかしい笑みを浮かべ、クフフと笑いながら背を向けて去って行った。
振り返る際に「レナちゃんも頑張ってね♪」と呟いたような気がしたが、それどころではなかった。
もちろん夏休み中に何回もされているのに慣れていないというのもあるが、それ以上にーー
「「おおぉぉぉぉい!!??どういう事だカイト!!」」
「お、おおう?」
クラスの男子から迫られ責められ問い詰められ、女子からはキャーキャーと騒ぐ声が聞こえる。
「なんだよ今の可愛い子は!?彼女か?彼女なのかぁ!!」
「嘘だろ・・・女より女々しいと言われたカイトに彼女だと!?」
「しかも俺たちに見せ付けるように初々しいチッスゥをぉ・・・」
「カイト貴様この裏切り者めがぁぁぁ!!」
シンを先頭に首を掴まれ揺すられ、他の奴らからも憎悪の目で見られたり泣かれたり脛を蹴って来たりされた。
「痛っ!おま、ちょっ・・・うるせえやめろっ!」
しつこく首を揺すってくるシンの腕を掴み、思わず投げてしまった。
投げられたシンは弧を描くように宙を舞い、べタンと黒板に叩き付けられる。
「・・・グッフゥ」
「あ・・・」
シンが地面に落ちると教室中が静まり返り、その場に「やっちまった感」が充満する。
しかしすぐに女子たちがやって来て、集まっていた男子が押し退けられてしまった。
「ねえねえ、今の可愛い人誰?本当にカイト君の彼女なの?」
「確かに小さかったけど可愛いっていうより綺麗じゃなかった?」
「どこであんな子捕まえたの?どっちが先に告白したの?もうやる事はやっちゃったの!?」
最後の子の一言で女子たちから「キャー」と興奮した甲高い声が発せられた。
ある意味男子に問い詰められるより辛いと感じる。
それから先生が来るまで俺は無言を貫き通した。
ーーーー
☆★レナ★☆
前略、お父さん、お母さん、お姉ちゃん。
あれだけ私と同じくらい消極的だったカイト君が女の子に囲まれています。
モテている・・・わけではないのだろうけど、凄くモヤモヤします。
「・・・・・・」
「おっと!そんな「顔」してどうしたんだィ、レナっち?」
「ひぅっ!?」
急に声を掛けられ、ポンッと腰を叩かれてびっくりしてしまった。
恐る恐る振り返るとフードを深く被った人がいた。
「・・・ジジリさ、ん」
「ヨッ!相変わらずビビり屋さんだネ」
顔は分からないけど、「ω」の形をして笑っている口だけが見えているのが分かる。
こんな私の唯一の友達。
・・・「最近までの」が頭に付くけど。
今ではアヤト先輩の近くにいるおかげでいっぱい友達ができたのだけれど、少し前まではこの人だけしか私に話し掛けていなかった。
だけどある意味お似合いかもしれない。
傍から見たら二人共顔が見えないくらい隠しているのだから。
「どうやらレナっちにも春が訪れようとしているようダナ?かなり前途多難っぽいケド」
「え・・・もし、かして、バレて、る?」
「もちろん。オイラの情報収集能力は世界一ィィィ!!・・・なんてね」
その叫びは前にユウキさんがアヤト先輩に言った言葉に似ていた。
確かにあの近くには私たちしかいなかった筈だけど・・・どうやって知ったのか凄く気になる。
「悪いけど、オイラの情報収集手段は企業秘密ダヨ♪」
「ふぇ・・・?そ、そんなに顔に、出てた?」
ジジリさん思っていた事に答えられて驚いてしまう。
私の表情は髪で隠れて見えにくい筈なのに、何故か分かるようだった。
「二ヒヒ、レナっちのかわゆーい顔で何をしたいかなんて一発で分かっちゃうよン♪更に言えばレナがカイト君を好きな事も、カイト君が誰を好いているかも、オネーサンに掛かれば一発サ!」
「えっ!?」
私がカイト君を好きな事がバレていたのも驚いたけど、それよりも気になったのが、「カイト君が誰を好いているか」という言葉だった。
「ナハハハハ!レナっちはホントに素直で分かりやすいナ~♪まぁ、そんな急くなっテ。とりあえず、君が知りたいのは「カイト君が誰を好いているのか」カナ?それとも「カイト君がレナっちを好いているのか」・・・なのカナ?」
口だけでも分かるニヤリとした意地悪な笑みが見えた。
そんなジジリさんに対する私の答えは・・・
「いいえ、やめて、おきます・・・」
「オヨ?どちらも知りたくないのかイ?」
「知りたい、です。でも・・・どちらも知る勇気は、私にはない、から・・・」
「そっか・・・まぁでも安心したヨ。どの道オイラは知らないカラ」
「・・・えっ?」
あっけらかんと言うジジリさん。
「残念ながら判断材料が足りなくてね。不確定な情報は与えられないのサ。だけどカイト君は君の事を嫌ってはいない。コレだけは絶対に言えるから安心シナ」
「あ・・・うん、ありがとう」
慰めなんだろうけど、それでもそう言ってくれる事が嬉しかった。
(ま、本当は知ってるケド。人の好き嫌いをバラすのは野暮ってもんダロ)
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