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第H章:何故倒された魔物はお金を落とすのか
毒と薬/4:歯磨きでの出血を確認した彼女は困ったように頭をかいてから死神を呼んだ
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翌日、晴天。シズクは特に問題なく目を覚ました。日は既に高く登っている。これまでがやむにやまれぬ状況であっただけで、本来の綾崎シズクは特に必要がなければ10時頃まで平気で二度寝を繰り返すような人間であり、そういった意味では久々にしっかりしたベッドで惰眠を貪ることができた彼女は幸せであると言えるだろう。朝のラーメンをすすった後、なんとなしに隣の壁を叩くと、イルマからのみ回答があった。
「おはよう」
「本当に不思議ですね。この時間の挨拶は別物であるはずなのに、早朝の挨拶として翻訳されて私に聞こえています。どのような仕組みになっているのかとても興味があります」
「うん。未知への探究心なら100点。私への嫌味なら赤点。リク君は?」
「早朝から、れべるあげ、というものにいかれました」
「ゲーム感覚だなぁ。イルマは何してるの?」
「この前聞いたお話を参考に、シズクさんの手でカビを培養しています」
「さすが。後で結果聞かせて。手が足りない時はいつでも言ってね」
なお、これは日本語の慣用表現ではないので、問題なく翻訳が通る。
「それで、体はまだ問題ありませんか?」
「うん。まだ大丈夫」
「では、何か必要なものなどありますか?」
「そうだなぁ。適当に替えの服と、歯ブラシがほしいかな」
「わかりました。あとで買ってきて、部屋のドアの前に置いておきます」
ちなみに、歯ブラシの起源は11世紀の中国だが、歯を磨く道具としては紀元前6世紀のインドに既に歯木と呼ばれる木片が既に存在している。この「歯ブラシ」という単語がどのように翻訳されイルマが理解する形で伝わったのか、そして、実際に現れる歯ブラシがどのような形をしているかは、シズクの好奇心を刺激するには十分である。
「そうだ。イルマ、もう雨の水って調べた?」
「はい。リクさんには内緒で、溜まっていた水を汲んでおきました」
「さすが。リク君に内緒にするあたりもわかってるね。それで?」
「だいぶ拡大して見てみたのですが、中に異常な細菌は確認できませんでした。少なくとも、私の知っている通常の雨水と同じに見えました。なお、もう処分済みです」
「ふむ。まぁイルマが見られる倍率だとわからないか。成分分析をかける道具もないし。せめてリトマスゴケに似た地衣類を探さないとなぁ」
「それが見つかるとなにがわかるのですか?」
「よし。じゃぁこれからその辺の授業をしちゃおうかな。それが一段落したら、今度はイルマから私に魔法を教えてほしいな」
「わかりました」
かくして、夕方にリクが戻るまで二人の壁越しの授業は続く。その後入れ違いで、イルマは自分たちの食料に加えて歯ブラシと着替えを調達に行くのだが、この時、とても小さな声で「とんこつラーメン食べたいけど、我慢」という言葉が聞こえ、シズクはこっそりと笑った。
それから2日。初日と同様に昼前に起床し、夕方までイルマに授業が行うという間で、体には特にこれといった問題が起きなかった。はたして本当に呪いなど存在するのか。そんな疑念がシズクにもわきつつあった3日目の起床時、事件は起きる。
「うわ……」
先程の話の回答なのだが、シズクの元に届いたものは見知った形の歯ブラシではなく、手に持って口に入れられるサイズの木片だった。ともあれ、これでも歯磨きはできる。その木片を利用して、寝起きの後の歯磨きを行っていた最中、シズクの歯茎からかなりの量の出血が確認された。
歯磨きの際の出血というのは珍しい話ではない。ただこれは、日頃歯磨きをしない習慣のある人間の歯茎が歯槽膿漏気味になっているためであり、しっかりとした歯磨きメンテナンスを行っていれば出血は発生しない。この世界にやってきて10日ほど歯磨きをサボったシズクであるが、元はしっかりと毎日起床時と食後の歯磨きを徹底しており、このような出血はしない健康な歯茎だったはずである。というかそもそも、昨日歯磨きを行った際には、出血は発生していない。
「すっごい嫌な予感がするんだよなぁ、これ」
困ったという感情を表すように自身の頭をがさがさとかいてみるシズクであるが、このモーションは意図的なものである。多少の祈りをこめつつ、頭をかいた手を恐る恐る目の前で開くと、明らかに20代女子には似つかわしくない量の抜け毛が確認された。改めてベッドを確認するが、枕にもかなりの量の抜け毛があった。シズクは深く、とても深くため息をつくと、同時に軽く咳き込むことになる。普段は感じない喉の違和感に、咄嗟に抑えた手を、やはり恐る恐る開くと、吐血を確認。ここで壁を叩く。
「イルマ、お願い」
かくして、部屋のドアを開けると同時に、イルマの魔法がシズクを焼き尽くした。
「おはよう」
「本当に不思議ですね。この時間の挨拶は別物であるはずなのに、早朝の挨拶として翻訳されて私に聞こえています。どのような仕組みになっているのかとても興味があります」
「うん。未知への探究心なら100点。私への嫌味なら赤点。リク君は?」
「早朝から、れべるあげ、というものにいかれました」
「ゲーム感覚だなぁ。イルマは何してるの?」
「この前聞いたお話を参考に、シズクさんの手でカビを培養しています」
「さすが。後で結果聞かせて。手が足りない時はいつでも言ってね」
なお、これは日本語の慣用表現ではないので、問題なく翻訳が通る。
「それで、体はまだ問題ありませんか?」
「うん。まだ大丈夫」
「では、何か必要なものなどありますか?」
「そうだなぁ。適当に替えの服と、歯ブラシがほしいかな」
「わかりました。あとで買ってきて、部屋のドアの前に置いておきます」
ちなみに、歯ブラシの起源は11世紀の中国だが、歯を磨く道具としては紀元前6世紀のインドに既に歯木と呼ばれる木片が既に存在している。この「歯ブラシ」という単語がどのように翻訳されイルマが理解する形で伝わったのか、そして、実際に現れる歯ブラシがどのような形をしているかは、シズクの好奇心を刺激するには十分である。
「そうだ。イルマ、もう雨の水って調べた?」
「はい。リクさんには内緒で、溜まっていた水を汲んでおきました」
「さすが。リク君に内緒にするあたりもわかってるね。それで?」
「だいぶ拡大して見てみたのですが、中に異常な細菌は確認できませんでした。少なくとも、私の知っている通常の雨水と同じに見えました。なお、もう処分済みです」
「ふむ。まぁイルマが見られる倍率だとわからないか。成分分析をかける道具もないし。せめてリトマスゴケに似た地衣類を探さないとなぁ」
「それが見つかるとなにがわかるのですか?」
「よし。じゃぁこれからその辺の授業をしちゃおうかな。それが一段落したら、今度はイルマから私に魔法を教えてほしいな」
「わかりました」
かくして、夕方にリクが戻るまで二人の壁越しの授業は続く。その後入れ違いで、イルマは自分たちの食料に加えて歯ブラシと着替えを調達に行くのだが、この時、とても小さな声で「とんこつラーメン食べたいけど、我慢」という言葉が聞こえ、シズクはこっそりと笑った。
それから2日。初日と同様に昼前に起床し、夕方までイルマに授業が行うという間で、体には特にこれといった問題が起きなかった。はたして本当に呪いなど存在するのか。そんな疑念がシズクにもわきつつあった3日目の起床時、事件は起きる。
「うわ……」
先程の話の回答なのだが、シズクの元に届いたものは見知った形の歯ブラシではなく、手に持って口に入れられるサイズの木片だった。ともあれ、これでも歯磨きはできる。その木片を利用して、寝起きの後の歯磨きを行っていた最中、シズクの歯茎からかなりの量の出血が確認された。
歯磨きの際の出血というのは珍しい話ではない。ただこれは、日頃歯磨きをしない習慣のある人間の歯茎が歯槽膿漏気味になっているためであり、しっかりとした歯磨きメンテナンスを行っていれば出血は発生しない。この世界にやってきて10日ほど歯磨きをサボったシズクであるが、元はしっかりと毎日起床時と食後の歯磨きを徹底しており、このような出血はしない健康な歯茎だったはずである。というかそもそも、昨日歯磨きを行った際には、出血は発生していない。
「すっごい嫌な予感がするんだよなぁ、これ」
困ったという感情を表すように自身の頭をがさがさとかいてみるシズクであるが、このモーションは意図的なものである。多少の祈りをこめつつ、頭をかいた手を恐る恐る目の前で開くと、明らかに20代女子には似つかわしくない量の抜け毛が確認された。改めてベッドを確認するが、枕にもかなりの量の抜け毛があった。シズクは深く、とても深くため息をつくと、同時に軽く咳き込むことになる。普段は感じない喉の違和感に、咄嗟に抑えた手を、やはり恐る恐る開くと、吐血を確認。ここで壁を叩く。
「イルマ、お願い」
かくして、部屋のドアを開けると同時に、イルマの魔法がシズクを焼き尽くした。
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