理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか

興味/1:電車が定刻通りにただいま到着してくれる日本は世界的に見てとても珍しい

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 人類史において、観光の起源はどこにあるのだろうか。それはおそらく、地中海と死海の間に位置する高原都市、3つの世界宗教の聖地である街、エルサレムへの巡礼旅行かもしれない。基本的に土地に縛られていた人々が旅を行うモチベーションと大義名分。その両方を満たすものが、聖地巡礼であった。これは江戸時代の日本においても、伊勢神宮へのお伊勢参りという形で同様の旅行が流行していた。現代の価値観で言えば、聖地巡礼とは観光旅行というよりも特定宗教の信徒による修行のようなものをイメージするかもしれないが、これは実のところ聖地巡礼のごく一部のみしか捉えられていない。確かにそういった理由で自らの信仰心を示すために聖地までの旅を行った人々も居るのだが、実のところそれ以上に、大義名分としてのみ聖地への巡礼を理由とし、実際は現代人さながらのミーハーさを持って旅行を楽しんでいた人が多かったという。その証拠に、このような宗教的聖地の近くには、何故か売春宿が多い傾向にある。もちろんほとんどの宗教が快楽由来の性行為を禁じているはずなのに、である。

 この傾向は日本においては特に露骨であったというから、当時の江戸っ子もなかなか侮れない。江戸における憧れの旅行先は、伊勢と成田山という当時影響力を持っていた宗教的聖地を双璧とし、箱根や草津などの温泉地がこれに続いた。また流行に敏感だった彼等は、当時の芥川直木賞小説とも言える作品、松尾芭蕉の奥の細道や、当時の電撃スニーカーノベル大賞とも言える作品、十返舎一九の東海道中膝栗毛などの影響を強く受け、浮世絵の挿絵を模倣したコスプレで松島や三保の松原をその旅行先に加えたというのだから、今も昔も民衆とはミーハーなものである。

 しかし、そんな旅行は基本的に一生に一度の夢であった。これが年に数回行くようなカジュアルさまで広まった背景には、産業革命に伴う鉄道敷設が絶対条件としてあった。現代旅行文化において、交通機関の発展は不可欠だったのだ。これは後に航空機の一般化に伴いさらなる発展を遂げ、今に見られるような飛行機のチケットと旅先のホテルの連携といった形で進化していく。

 そんな交通機関の話をするならば、日本人として新幹線の伝説は語らざるをえないだろう。高度経済成長期の中、東京オリンピックにあわせて急ピッチで開発された東海道新幹線は日本の復活の象徴であり、当時の科学の最先端だった。後の国鉄民営化に伴い発足したJRにおいても新幹線はドル箱路線であり、大きなブームを作るCM「そうだ、京都へ行こう」は今なお続く日本人にとっての魂の避暑地なのだ。

 理系少女であるシズクは、もちろん新幹線が大好きである。日本の科学技術の結晶である車体はもちろん大好きだったが、荒唐無稽な人型ロボットのデザインの中に組み込まれた車体も好きだった。かつて小学校の修学旅行にて、銀の翼にのぞみを載せた進化の理論を実体験しつつはじめて京都の駅に降り立った時。彼女の目は確かに駅の大階段で暴れる亀の大怪獣の姿を幻視していたし、それまで乗ってきた新幹線のぞみ号が緑の竜巻の中で合体し大雨の嵐山を背後に純正地球産の勇者と戦う姿を幻視していた。

「新幹線はいい……いいよね……」
「どうした急に」
「日本の新幹線は世界一。なのにこの世界進出がうまく行っていない理由は、日本人の技術開発は得意なのに商売が下手くそという国民性がすべてだと思う。もっと適当な嘘をつきとおせるお隣を見習うべき。全部嘘でも契約さえすればこっちのものなんだよ」
「あまり賛同しにくいが、確かにそういう図太さがないよな、日本人」
「そこでカラバッジョだよ」
「ん? バロック絵画の? 確かにあの時代の画家はどいつもこいつも適当な商売してたっていうが」
「違う違う。ヨーロッパ初の日本産車両、イタリア鉄道の新型特急、カラバッジョだよ」
「いや知らんが」
「知らないの? この木なんの木気になる木の会社が作った最新鋭車両。日本の新幹線の技術をベースにしつつも、ヨーロッパの需要にあわせた新規開発された技術の結晶だよ。技術がうまく理解してもらえず売れないなら、誰でもわかるすごい技術を開発するのが日本人。これもう脳筋の真逆、筋肉が脳で出来てるとしか言えないよね。すごいんだよ、カラバッジョは。ね? 乗りたいよね?」
「うん、そう、なのか?」
「私は乗りたい。だから、カラバッジョに乗ることを前提に、お姉ちゃんの受賞にあわせてのヨーロッパ旅行計画をたてようと思います」
「うーん……」

 知らないものは即座にぐぐるというのは現代人のお約束。カラバッジョの通る路線を地図で眺めつつ、リクはため息をついた。

「お前さ。そういう無駄知識はあるのに、ヨーロッパの地図、まるで頭に入ってないだろ。俺たちが行くのはスウェーデン。カラバッジョとやらが走るイタリアは、バルト海の反対側だよ」

 かくして、再びこの日から5日間、リクは研究室の中でシズクから口を聞いてもらえなかった。
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