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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか
恋愛感情と信頼感情/3:それでも回っている地球は本当に存在していたか曖昧になる今、21世紀に地動説が否定される可能性も否めない
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「どうして、付き合ってくれてるんだ?」
日が沈み、最初のキャンプを整えるまでの8時間。3度の魔物の襲撃に伴う連携確認以外で、二人は口を利かなかった。イルマは相変わらず不機嫌だったし、リクも自分がこれまでイルマに頼り切っていたという負い目があったのか、どうにも自然な会話ができないでいたのだ。
実際、どこか関係が冷え込んでしまい、会話がしにくくなるということは日常生活でよくあることである。そんな時、もしも相手との関係改善を望むのであれば、飯に誘うのがいい。お互いの心に「しこり」が残っていたとしても、美味しいご飯を食べながらの会話は心の氷を溶かしてくれる。なお、アルコールとまで行くと逆にここまで溜まった感情が一気に流れ出てしまう危険性があるため、酒の注文はしっかりと打ち解けた後の方がいいだろう。
火を起こし、ヨセタム湖から大滝とは逆方向へ進む川に流れる水を汲んで来て沸騰させる。背中に背負った大カバンから取り出したのは、シズクの新作、カップラーメンである。くり抜かれた手のひらサイズの木の実の容器にお湯を注ぎ、毒のない葉で蓋をする。3分待てば、名店の味である。
当初は不慣れだった箸にもすっかり慣れたイルマ。仏頂面で3分間を待っていたが、一度ラーメンが口に運ばれると明確に表情を柔らかくした。と、このタイミングで冒頭の声掛けに繋がる。
「……とても、罰当たりで酷いことを言います。嫌わないでくれますか?」
「俺がイルマのことを嫌うはずがないだろ。話してくれ」
少しの間の逡巡が感じられたが、もう一口を運んだ後で、恐る恐る言葉を切り出した。
「隣町の人たちが、絶望に苦しんでいればいいなと思ってるんです」
「……それはどうして?」
予想もしなかった言葉に少し驚いたことは事実である。だが、嫌わないと約束した以上、その感情を押し殺し、できるだけやさしい声で聞き返した。
「だって、もしもそうなっていたら、シズクさんは絶対助けようとしますから」
それは信頼であり、同時に、祈りでもあった。
「あぁ。そうだな。あいつはそういうやつだ。それで?」
これで終わりではないことは、イルマの喉にまだ何かが詰まっている様子で見て取れる。軽く口を開きそれを吐き出そうとしては再び閉じる小さな唇。リクはそれを急かすでもなく待った。その待ち時間は、少なくとも3分よりは短かったはずである。
「……そうやって、他人の不幸を期待している自分が、最低だなって」
改めて思う。イルマは本当に良い子なんだ、と。この子なら、シズクを理解できる。わかってやれる。今までは自分1人しかいなかった、あいつの隣でいっしょに笑い会える人間になれる。そう信じて、リクは改めて口を開いた。
「なら、その最後まで出なかった言葉こそが、イルマの本心で、シズクに向けるべき気持ちなんじゃないのか?」
「それはどういう……?」
「あいつがバカやれるのは、あいつの周りが平和ってことだろ。それを喜び、バカをやるあいつを応援してやるべきなんじゃないのか?」
「でも! 魔王は人間を根絶するための計画を少なくともあと5つ、世界のどこかで!」
「それは、どこで行われている、どんな計画なんだ?」
「わかりませんけど! でも絶対に!」
「イルマ。俺はあいつほど教えるのがうまくないから、詳しい話はバカな俺のために聞くのをやめてくれ。そう前置きをした上で、俺たちの世界の最新科学が導き出しつつある1つの真実を伝えようと思う。この世界は、人間が居るから存在しているんだ」
「それは……どういう……?」
「観測者がいないなら、世界は存在できない。俺たちが世界を見ているから、世界がある。俺たちが見れていないところに、世界はないんだよ」
それを完全に信じ切っているという透き通った目で言い切ったリクに、思わずイルマは強い苛立ちを覚えた。嘘だ。詭弁だ。そんなもの、神様の言葉を借りて人に幸せの借金を貸し付ける宗教従事者となんら変わらない。思わず立ち上がり、全力で否定の言葉を叫んだ。
「嘘です! それでも世界は動きます! 信じられません!」
だがリクはその怒りを受け流すように、ゆっくりと優しく言葉を返す。
「あぁ、そうだろうな。そうだろうし、俺も信じられない。でもさ概ね、科学ってやつが見つけたことは、信じられないことばっかりだったんだ。世界が丸いことも。地球が太陽の周りを回ることも。人間が猿から進化したことも。宇宙の果てにはブラックホールがあることも。そして、この世界の力の根源はすべて同一のものであることも。最初は誰も信じてなくて、言い出したやつはバカにされた。いや、バカにされたなんてかわいい話じゃない、村八分にされ、殺されかけたことだってあった。そんな中で『それでも』と言い続けた人のおかげで、俺たちの世界は作られていったんだ。だから俺は、どんな突拍子もない理論でも、それを説明しようとする科学者がいる限り、信じることにしている。たとえ世界中の知識人がその人を迫害しようとしても、俺だけはその人を信じてやりたいんだよ」
イルマは気付く。気付いてしまう。そして、これまでにほぼすべての科学者が、一度気付いたことに対する証明行動を止められなかったように、口から出る言葉を抑えられなかった。
「好き……なんですか?」
その実験結果を、緊張と共に待つ。その時間はわずか数秒だったのかもしれないが、3分よりも遥かに長い時間に感じられた。そんなイルマの思いにも気付かず、リクは軽い嘲笑を自分に向けた後で、その言葉を否定する。
「いや。俺が好きだったのは、あいつのお姉様だ」
最初の否定にほっと胸を撫で下ろしたが、それに続く言葉でそれまで息を潜めていた苛立ちが再び顔を出した。シズクが熱にうなされる中で何度も口にした、姉なるもの。自分の知らないその誰かに、この人もまた、囚われているのか。いや、しかし。
「だった……?」
「あぁ。初恋でさ。告白して、とっくに玉砕済みってわけ。笑えるだろ? でも、青春なんだよ」
よくわからないけど、わかるような気がした。
「まぁでも、断られてよかったって今では言えるのかな。俺とあのお姉様とじゃ、とても釣り合わない。今を思えば当時の俺は、ほんと何にもわからないガキだった。あのお姉様の凄さも、その人に告白なんてしちまった自分の愚かさも、告白するって行動に対する恐怖もな。知識は人を強くするが、同時に人を縛る。本当の勇者はバカからしか転職できないって気付いたのは、だいぶ先のことだ。だから俺はもう、勇者になれない。怖いんだ、なんかすげぇ考えで人類を滅ぼそうとしてる魔王も、その魔王に立ち向かうシズクが苦しい思いをするのも。どうしようもなく弱くて、卑屈で、カッコ悪いクズ野郎が俺なんだ。そんな俺なのに、あいつは俺の名前を呼んでくれるし、隣に居ても嫌な顔をしない。だから俺は、あいつの隣に居続けたい。バカなことばっかりしやがりながらも、ずっと笑顔で能天気に笑ってる、あいつの隣にさ」
そういって一人ですっきりした顔をするリクの顔を見て、イルマは顔を落とし、小さく呟いた。
「うそつき」
自分が憧れる人と、自分が何故か惹かれる人。その間に見えた特別な感情が、どうしようもなく羨ましくて、イルマはそれから朝まで、口を開かなかった。
日が沈み、最初のキャンプを整えるまでの8時間。3度の魔物の襲撃に伴う連携確認以外で、二人は口を利かなかった。イルマは相変わらず不機嫌だったし、リクも自分がこれまでイルマに頼り切っていたという負い目があったのか、どうにも自然な会話ができないでいたのだ。
実際、どこか関係が冷え込んでしまい、会話がしにくくなるということは日常生活でよくあることである。そんな時、もしも相手との関係改善を望むのであれば、飯に誘うのがいい。お互いの心に「しこり」が残っていたとしても、美味しいご飯を食べながらの会話は心の氷を溶かしてくれる。なお、アルコールとまで行くと逆にここまで溜まった感情が一気に流れ出てしまう危険性があるため、酒の注文はしっかりと打ち解けた後の方がいいだろう。
火を起こし、ヨセタム湖から大滝とは逆方向へ進む川に流れる水を汲んで来て沸騰させる。背中に背負った大カバンから取り出したのは、シズクの新作、カップラーメンである。くり抜かれた手のひらサイズの木の実の容器にお湯を注ぎ、毒のない葉で蓋をする。3分待てば、名店の味である。
当初は不慣れだった箸にもすっかり慣れたイルマ。仏頂面で3分間を待っていたが、一度ラーメンが口に運ばれると明確に表情を柔らかくした。と、このタイミングで冒頭の声掛けに繋がる。
「……とても、罰当たりで酷いことを言います。嫌わないでくれますか?」
「俺がイルマのことを嫌うはずがないだろ。話してくれ」
少しの間の逡巡が感じられたが、もう一口を運んだ後で、恐る恐る言葉を切り出した。
「隣町の人たちが、絶望に苦しんでいればいいなと思ってるんです」
「……それはどうして?」
予想もしなかった言葉に少し驚いたことは事実である。だが、嫌わないと約束した以上、その感情を押し殺し、できるだけやさしい声で聞き返した。
「だって、もしもそうなっていたら、シズクさんは絶対助けようとしますから」
それは信頼であり、同時に、祈りでもあった。
「あぁ。そうだな。あいつはそういうやつだ。それで?」
これで終わりではないことは、イルマの喉にまだ何かが詰まっている様子で見て取れる。軽く口を開きそれを吐き出そうとしては再び閉じる小さな唇。リクはそれを急かすでもなく待った。その待ち時間は、少なくとも3分よりは短かったはずである。
「……そうやって、他人の不幸を期待している自分が、最低だなって」
改めて思う。イルマは本当に良い子なんだ、と。この子なら、シズクを理解できる。わかってやれる。今までは自分1人しかいなかった、あいつの隣でいっしょに笑い会える人間になれる。そう信じて、リクは改めて口を開いた。
「なら、その最後まで出なかった言葉こそが、イルマの本心で、シズクに向けるべき気持ちなんじゃないのか?」
「それはどういう……?」
「あいつがバカやれるのは、あいつの周りが平和ってことだろ。それを喜び、バカをやるあいつを応援してやるべきなんじゃないのか?」
「でも! 魔王は人間を根絶するための計画を少なくともあと5つ、世界のどこかで!」
「それは、どこで行われている、どんな計画なんだ?」
「わかりませんけど! でも絶対に!」
「イルマ。俺はあいつほど教えるのがうまくないから、詳しい話はバカな俺のために聞くのをやめてくれ。そう前置きをした上で、俺たちの世界の最新科学が導き出しつつある1つの真実を伝えようと思う。この世界は、人間が居るから存在しているんだ」
「それは……どういう……?」
「観測者がいないなら、世界は存在できない。俺たちが世界を見ているから、世界がある。俺たちが見れていないところに、世界はないんだよ」
それを完全に信じ切っているという透き通った目で言い切ったリクに、思わずイルマは強い苛立ちを覚えた。嘘だ。詭弁だ。そんなもの、神様の言葉を借りて人に幸せの借金を貸し付ける宗教従事者となんら変わらない。思わず立ち上がり、全力で否定の言葉を叫んだ。
「嘘です! それでも世界は動きます! 信じられません!」
だがリクはその怒りを受け流すように、ゆっくりと優しく言葉を返す。
「あぁ、そうだろうな。そうだろうし、俺も信じられない。でもさ概ね、科学ってやつが見つけたことは、信じられないことばっかりだったんだ。世界が丸いことも。地球が太陽の周りを回ることも。人間が猿から進化したことも。宇宙の果てにはブラックホールがあることも。そして、この世界の力の根源はすべて同一のものであることも。最初は誰も信じてなくて、言い出したやつはバカにされた。いや、バカにされたなんてかわいい話じゃない、村八分にされ、殺されかけたことだってあった。そんな中で『それでも』と言い続けた人のおかげで、俺たちの世界は作られていったんだ。だから俺は、どんな突拍子もない理論でも、それを説明しようとする科学者がいる限り、信じることにしている。たとえ世界中の知識人がその人を迫害しようとしても、俺だけはその人を信じてやりたいんだよ」
イルマは気付く。気付いてしまう。そして、これまでにほぼすべての科学者が、一度気付いたことに対する証明行動を止められなかったように、口から出る言葉を抑えられなかった。
「好き……なんですか?」
その実験結果を、緊張と共に待つ。その時間はわずか数秒だったのかもしれないが、3分よりも遥かに長い時間に感じられた。そんなイルマの思いにも気付かず、リクは軽い嘲笑を自分に向けた後で、その言葉を否定する。
「いや。俺が好きだったのは、あいつのお姉様だ」
最初の否定にほっと胸を撫で下ろしたが、それに続く言葉でそれまで息を潜めていた苛立ちが再び顔を出した。シズクが熱にうなされる中で何度も口にした、姉なるもの。自分の知らないその誰かに、この人もまた、囚われているのか。いや、しかし。
「だった……?」
「あぁ。初恋でさ。告白して、とっくに玉砕済みってわけ。笑えるだろ? でも、青春なんだよ」
よくわからないけど、わかるような気がした。
「まぁでも、断られてよかったって今では言えるのかな。俺とあのお姉様とじゃ、とても釣り合わない。今を思えば当時の俺は、ほんと何にもわからないガキだった。あのお姉様の凄さも、その人に告白なんてしちまった自分の愚かさも、告白するって行動に対する恐怖もな。知識は人を強くするが、同時に人を縛る。本当の勇者はバカからしか転職できないって気付いたのは、だいぶ先のことだ。だから俺はもう、勇者になれない。怖いんだ、なんかすげぇ考えで人類を滅ぼそうとしてる魔王も、その魔王に立ち向かうシズクが苦しい思いをするのも。どうしようもなく弱くて、卑屈で、カッコ悪いクズ野郎が俺なんだ。そんな俺なのに、あいつは俺の名前を呼んでくれるし、隣に居ても嫌な顔をしない。だから俺は、あいつの隣に居続けたい。バカなことばっかりしやがりながらも、ずっと笑顔で能天気に笑ってる、あいつの隣にさ」
そういって一人ですっきりした顔をするリクの顔を見て、イルマは顔を落とし、小さく呟いた。
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