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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか

恋愛感情と信頼感情/2:電子メールが特殊相対性理論でタイムラグを起こすなら別世界線との間の距離が測れるはず

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「なるほど。それでこの腕を持って、隣町まで行って欲しいと」
「そ。そこでその腕をポータルにタッチしてから、ポータルを使わずに帰ってきて欲しいの。それでその後、私がポータルで隣町まで行ければ成功」
「確かに、理屈はわかります。腕を切り落とせるのはシズクさんくらいでしょうけど。一般人でも髪の毛は定期的に切りますし、もしも髪の毛1本でもポータルに触れることができればそこが利用可能になるのであれば、今後世界の流通は飛躍的発展を遂げるでしょうね」
「あー、そうか。それなら髪の毛一本の方がいいね。それなら大勢の情報が一度に運搬・登録ができるから、初期投資のコストがかなり抑えられる。わざわざ腕切り落とすことなかったかぁ。なんか損した気分」
「返しませんよ」

 イルマはだいぶ落ち込んでいたが、シズクの腕がもらえると多少機嫌が良くなった。大事そうに少し骨が見えている腕を掴んで離さないその姿は狂気的でこそあるが、なんだか犬みたいで少しかわいいと思ってしまったことはリクの秘密である。なお、これを切り落とす過程で自身のキルスコアを増やした際、一瞬シズクが普段はあげない悲鳴をあげたような気がするのだが、すっかり殺しに慣れたイルマがシズクを苦しめるような魔力調整ミスを犯すとは考えにくく、おそらく気の所為である。気の所為であってくれ。いや、こいつは少し痛い目にあった方がいい気もしてきたが。

「一応心配だし、俺もついていっていいか?」
「うん。お願い。でも、できるだけ道中でも魔物狩りはしてきてね」
「ホテルを建てる費用、まさか全部俺に稼げと言うとは思わなかったぜ」
「その程度のオーダーも果たせないなんて、もうメインの呼び名を無能君に改めた方がいいかな、リク君」
「せめて俺の名前は忘れないようにマジックで手のひらに書いておいてくれ」
「き、も、い、って?」
「口噛み酒にフェティシズムを覚える変態ってだけであの監督の書く絵は最高だろ!」
「きれいな絵を書くアニメーターに変態が多いのって、有意な相関ある?」
「だまれロリコン伯爵。火傷するぞ」

 おそらく小学校の時、自分の机に穴を掘って以来の使用となる彫刻刀を片手に、初歩的な活版印刷機を発明しようと試行錯誤を繰り返すシズクを一人村に残し、二人は地図に記された隣町であるムーンシスコへの往復82kmと比較的長めの小旅行へと旅立った。
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