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第二次カイヨー解放戦
真夜中の奇襲参戦
しおりを挟む「玄海躑躅の月。
剣合国軍はカイヨー解放の為に出陣した。世に言う第二次カイヨー解放戦である。
あの御方とナイツは互いの部隊を率い、水路にてカイヨーを目指した。
遜康南東部のシンシャク川上で承土軍の油郡艦隊と遭遇するも、廃棄予定艦を盾にして攻撃を防ぎ、その間に後続のフォンガンが油郡艦隊の背後を奇襲。これを半壊させた。
カイヨー東部の戦いに於いても、剣合国軍は殷撰の船団と油郡艦隊の残党を撃破。
特に飛蓮隊の危機を救い、フォンガン軍到着後の反撃、あの御方の魔弾制裁にまで繋がる働きを示した楽瑜の武功は、後述の手柄も合わせて一際大きなものだと言える。
この水上戦を切っ掛けに飛蓮隊と楽瑜隊の仲は改善され、あの御方が見せた満開の笑みに曇天は晴れ間を見せ、そこから可憐な天使が舞い降りたという。
余談になるが、ナイツは天使の存在を強く否定していた。あんな咖喱臭い天使を可憐と表現するならば、世の中の殆どは可憐であり、無精髭の生えた男は絶世の美男子に当たると。
それでも私は、あの御方の言葉を信じている。語りながら私に見せたあの御方の笑みが、それはきっと素敵な天使であったに違いないと思わせるからだ」
カイヨー東部に上陸した輝士隊・涼周連合軍は、李洪とメスナの部隊を港の守備に残し、それ以外の者が二手に別れて進軍する。
一手はナイツと韓任が率いる騎馬隊。構成員は二千の輝士兵と一千のカイヨー騎兵だ。
彼等は北上し、前線でナイト達と相対している承土軍本隊の裏をかく。
二手目は涼周軍一万二千。
西進して手薄なカイヨー城の攻略と、承土軍の退路を絶つ役割を持つ。
「全軍、武運を祈る! 楽瑜と飛蓮! 任務もそうだけど、何より涼周の事を頼むよ!」
「承った!」
「承知致しました」
別々の進路をとる寸前、ナイツは改めて涼周軍へ檄を送り、楽瑜と飛蓮を筆頭とする各隊の隊長達も拳を重ね合わせてそれに答える。
「俺達騎馬隊は疾風迅雷を以て敵の背後へ回る! 皆、一騎たりとも遅れるな!」
続けて自らが率いる騎馬隊にも檄を送り、一気に馬速を跳ね上げる。
水上戦に参加せず、この時に備えて体力を温存していた騎兵達は容易に応える事が可能であり、殷撰の敗北を報された敵本隊が対応に移るよりも早くに切り込む為、駆けに駆けた。
敵軍の大体の布陣や場所は予め安楽武から知らされており、土地勘に長け且つ馬術にも心得のあるカイヨー騎兵を同行させる事で、ナイツ隊は最短経路を突き進む。
そして、カイヨー騎兵の案内をもとに二時間ほど駆けた頃、ナイツ隊三千は遂に承土軍本隊を視界に収めた。
「ふははっ! 流石は父上と軍師だ! 俺達の来襲を信じてもう始めてる!」
剣合国軍六万と承土軍八万は既に交戦状態にあった。
戦況は互角。ナイト隊は鉉彰隊と、槍丁・槍秀の親子隊は魏儒隊と、メイセイ隊はシセン隊と、亜土雷・亜土炎の兄弟隊は荀擲隊と刃を交えている。
「全騎突撃! 東端に布陣しているシセン隊の背後に切り込むぞ!」
ナイツ隊は戦場に姿を見せるや否や、安楽武の指示に従って防衛陣地の東部を攻める。
そこは猪突猛進・浅慮抜群と噂される猛女のシセンが守っている場所であり、混乱を加速させるに彼女ほど攻め易い部隊は他にない。
「もう来たか。予定より二刻も早いが……仕方ない。迎え討て」
だが、ナイツ隊の迎撃に移ったのはシセンではなかった。彼女の西隣に布陣し、承土軍の副将を務めている魏儒だった。
彼は殷撰隊が輝士隊と交戦したと知った時点で剣合国軍の狙いを見抜き、視野が極端に狭いシセンを補助する為に、自身の配下を急いで備えさせたのだ。
「くっ……もう備えが出来ている!」
「いえ、見た所まだ万全ではない様子。勢いを糧に強行突破しましょう。さすればシセン隊の背後へ回れ、メイセイ殿が真っ先に呼応してくれます」
迎撃に現れた二千の重装兵を見て僅かに動揺するナイツを、韓任は即座に落ち着かせる。
「私が戦端を開きます。ナイツ様は後に続いて下さい!」
ナイツ以上の武力と破壊力を持つ韓任が先頭に回り、初撃から全力勝負を挑んだ。
魔力が込められた彼の矛は一振りで三十名近い承土軍兵を薙ぎ払い、泥土ごと吹き飛ばす。
その豪快さはナイトやフォンガンに引けを取らないが、あまり騒ぐ事のない韓任本人の性格も相俟って、先述した二名よりも重厚かつ静かなものだった。
ナイツ騎馬隊三千は、魏儒兵の迎撃を前に速度を若干落とした程度。反して勢いは韓任の勇姿が影響して増すばかり。
「強い! 我等でも抑えきれんとは……。魏儒様に救援要請を送れ! 急ぐのだ!」
守備に定評のある魏儒隊の重装兵を以てしても、ナイツ騎馬隊の足は止まらない。
突入から十分程しか経過していないにも拘わらず、重装兵長は援軍を要請。シセン隊の背後を守る重要性を理解しているだけに、一切の余念がなかった。
「弓隊一千、新手の騎馬隊に側射攻撃を仕掛けろ。本陣守備の騎馬隊四百、急ぎシセン隊の背後へ回って壁を厚くしろ。予備兵一千、騎馬隊の後に続け」
そして魏儒も出し惜しみなく、部隊を繰り出した。指示を出し終えた後に重装兵長からの援軍要請が届く事からも、彼の迅速さと視野の広さが窺い知れる。
「……魏儒隊の増援か! 邪魔をするな!」
韓任は変わらぬ猛進を見せて敵の戦列を切り崩す。
「無理に側面の敵と当たるな! ただ韓任に続いて、敵中を突破すれば良い!」
仮に韓任の矛を免れたとしても、次の瞬間にはナイツの刃が振り下ろされる。
騎馬隊の進路上にある承土軍兵は枯れ芝の如く簡単に追い散らされ、討ち取られる。
「むっ!? ……貴様は!」
然し順調に突き進んでいたナイツ騎馬隊を、もとい先頭の韓任を止められる将が現れた。
「銹達様だ! 銹達様が来てくれたぞ!」
それは槍丁隊との最前線で戦っている筈の、魏儒の副将・銹達である。
重装兵の中を割って入り韓任の左前方から現れた彼は、間合いの外から得物の槍を突き出し、魔力で生成した弾丸状の衝撃波を放ってきた。
一方の韓任は矛を振り切る寸前でそれに気付き、咄嗟に刃の軌道を上げる事で防ぐ。
「ナイツ様、先に行って下さい! 奴は私が止めておきます!」
「分かった! 韓任隊はここに留まってくれ! 他は俺に続け!」
予想外の敵と遭遇した韓任はナイツを進めさせる為に銹達と相対する。
「韓任は俺達が止める! 重装兵はひたすらにナイツを阻め!」
直属の二百騎が合流するとともに、銹達は韓任との間合いを縮めた。
この男、守勢を基本戦術とする魏儒の副将なだけあって遊撃戦や救援作戦に定評があり、持ち前の武勇と度胸、魏儒の下で養われた知略を兼ね備えた良将だった。
それだけに韓任は面倒な敵が現れたと思い、言葉にこそ出さないが槍丁の不手際を恨んだ。
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