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25:ダニエルの揺れる心①
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「はあ……」
ダニエルは深々とため息をついた。
本当は、ジュリアのいる席になど戻りたくない。
このままルイーズのところへ移動できたら、どんなに良いか。
しかし、本当にそんなことをしてしまえば、ルイーズに何と言って怒鳴られるか分かったものではない。
怒鳴られて済めば良い方だ。
もしかしたら機嫌を損ねた彼女に、もう二度と会いたくないとまで言われかねない。
そんなことになれば、もう生きていけないではないか。
ブルッと体を震わせたダニエルは、気合を入れるように大きく頷くと、勢いよくボックス席の扉を開いた。
と同時に、パッとこちらを振り返ったジュリアと目があった。
その瞳が期待に輝くのを見ると、チクリと胸が痛む。
しかし、そんなことには気づかなかったフリをして、ダニエルは素早く席についた。
「席を外してしまって失礼しました。
もう始まりますね」
「ええ、楽しみですわね」
横目で窺うと、ジュリアは頬を上気させて、嬉しそうに微笑んでいる。
ダニエルが席を外した失礼に怒りを覚えるでもなく、心からこの時間を楽しんでいるのだろう。
けれども今から自分は、その笑顔を消し去らなければならないのだ。
ダニエルは深く息を吸うと、ジュリアの方へと体を乗り出しながら
「あの……」
と言いかけたのだったが。
ちょうどその時、会場の明かりが消えたのである。
そして次の瞬間には舞台に明かりが灯り、演奏が始まったものだから、拍子抜けしてしまった。
「なんてタイミングの悪い……」
と吐き捨てるように呟く。
しかし、すぐに思い直して首を振った。
ルイーズに囁かれたことを実行するのは、かえって、この薄明かりの中の方がやりやすい。
ダニエルは手探りしながらジュリアの方へと、腕を伸ばしていった。
幸い彼女は舞台に集中していて、こちらの動きには注意を払っていない様子である。
これはチャンスだ。
ダニエルはルイーズに言われた言葉を思い出していた。
『いい?ダニエル。
ジュリアみたいな真面目なお嬢様はね、婚約者に体を触られたら悲鳴をあげて怒り出すに決まってるわ。
……出来るわね?』
じりじりとジュリアとの距離を詰めていく。
そして頃合いを見計らって、剥き出しの彼女の肩に指をかけた。
「きゃっ……」
小さなジュリアの悲鳴が聞こえた。
しめた、とばかりにダニエルは指を動かすと、それに反応するようにビクンと彼女の体が跳ねる。
しかしダニエルは構わず、スルスルと手を腰まで滑り下ろしていった。
嫌われるのが目的なのだから、遠慮している場合ではない。
それに、今だってルイーズとケインがこちらを見ているに決まっている。
ここで止めるわけにはいかなかった。
ところが……
「ダニエル……様……」
不意にこちらを振り向いたジュリアと目が合うと、不覚にも手を止めてしまったのである。
なにしろ、じっと見返してくる彼女の目は、薄明かりの中でも分かるくらい潤んでいて。
そのキラキラと輝く瞳に、思わず見入ってしまったのだった。
ダニエルは深々とため息をついた。
本当は、ジュリアのいる席になど戻りたくない。
このままルイーズのところへ移動できたら、どんなに良いか。
しかし、本当にそんなことをしてしまえば、ルイーズに何と言って怒鳴られるか分かったものではない。
怒鳴られて済めば良い方だ。
もしかしたら機嫌を損ねた彼女に、もう二度と会いたくないとまで言われかねない。
そんなことになれば、もう生きていけないではないか。
ブルッと体を震わせたダニエルは、気合を入れるように大きく頷くと、勢いよくボックス席の扉を開いた。
と同時に、パッとこちらを振り返ったジュリアと目があった。
その瞳が期待に輝くのを見ると、チクリと胸が痛む。
しかし、そんなことには気づかなかったフリをして、ダニエルは素早く席についた。
「席を外してしまって失礼しました。
もう始まりますね」
「ええ、楽しみですわね」
横目で窺うと、ジュリアは頬を上気させて、嬉しそうに微笑んでいる。
ダニエルが席を外した失礼に怒りを覚えるでもなく、心からこの時間を楽しんでいるのだろう。
けれども今から自分は、その笑顔を消し去らなければならないのだ。
ダニエルは深く息を吸うと、ジュリアの方へと体を乗り出しながら
「あの……」
と言いかけたのだったが。
ちょうどその時、会場の明かりが消えたのである。
そして次の瞬間には舞台に明かりが灯り、演奏が始まったものだから、拍子抜けしてしまった。
「なんてタイミングの悪い……」
と吐き捨てるように呟く。
しかし、すぐに思い直して首を振った。
ルイーズに囁かれたことを実行するのは、かえって、この薄明かりの中の方がやりやすい。
ダニエルは手探りしながらジュリアの方へと、腕を伸ばしていった。
幸い彼女は舞台に集中していて、こちらの動きには注意を払っていない様子である。
これはチャンスだ。
ダニエルはルイーズに言われた言葉を思い出していた。
『いい?ダニエル。
ジュリアみたいな真面目なお嬢様はね、婚約者に体を触られたら悲鳴をあげて怒り出すに決まってるわ。
……出来るわね?』
じりじりとジュリアとの距離を詰めていく。
そして頃合いを見計らって、剥き出しの彼女の肩に指をかけた。
「きゃっ……」
小さなジュリアの悲鳴が聞こえた。
しめた、とばかりにダニエルは指を動かすと、それに反応するようにビクンと彼女の体が跳ねる。
しかしダニエルは構わず、スルスルと手を腰まで滑り下ろしていった。
嫌われるのが目的なのだから、遠慮している場合ではない。
それに、今だってルイーズとケインがこちらを見ているに決まっている。
ここで止めるわけにはいかなかった。
ところが……
「ダニエル……様……」
不意にこちらを振り向いたジュリアと目が合うと、不覚にも手を止めてしまったのである。
なにしろ、じっと見返してくる彼女の目は、薄明かりの中でも分かるくらい潤んでいて。
そのキラキラと輝く瞳に、思わず見入ってしまったのだった。
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※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載
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