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シェイマスの腕に絡みついてきたのは、アリスだった。
「アリス様!」
黄色い声を上げたのは、もちろんイーディスである。
それにアリスは天使のような笑顔で応えると、小首を傾げた。
「シェイマスってば、また女性を口説こうとしていたの?」
「こら、アリス、失礼だろ。そんなんじゃないよ。
落としたハンカチをお渡ししただけさ」
「あら、そうなの。私はまた、てっきり……」
アリスは言いかけたが、ネリーとイーディスが自分を見ているのに気がつくと
「あら、ごめんなさい。1人で喋りすぎてしまいましたわね。
お二人とも初めまして……で、よろしかったでしょうか?」
「は、はい。お話をさせて頂くのは、初めてです。
イーディス・ボーデンと申します。それから、こちらはネリー・ディアス伯爵令嬢」
イーディスに言われて、ネリーも腰を屈める。
「イーディス様にネリー様ね。どうぞよろしくお願いいたします」
アリスも優雅に腰を屈めたが、名乗ろうとはしなかった。
わざわざ言わずとも、誰もが自分のことを知っているという自信があるのだろう、とネリーはぼんやりと思った。
それはもちろんその通りなのだが、だからと言って名乗らないのも失礼ではないか……とモヤモヤと考えていたのだったが
「シェイマス・パウエルです。
名乗るのが遅くなり、失礼致しました。
それから、こちらがアリス・マイヤーズ子爵令嬢です」
と、意外なことにシェイマスが言ったのである。
有名な幼なじみ3人組とは言っても、彼はアリスとは違うらしい。
ネリーがそんなことを考えていたからだろうか。
「なんだよ、2人とも!
黙っていなくなったから、随分探したんだぞ」
と声がして、アリスとシェイマスの間に割り込んできた者があった。
とうとう、3人組の最後の1人までもが飛び込んできてしまったのである。
「またうるさいのが増えて、申し訳ありません。
ネリー様、イーディス様。こちらはマーティ・エドウィン男爵令息です」
もちろん、そう言ったのはシェイマスである。
マーティは笑顔を浮かべて軽く頭を下げて見せたが、すぐにアリスに向き直った。
「そろそろ行かないと。間に合わなくなるぞ。
劇場に行くんだろう」
「ええ、そうね。行きましょうか、シェイマス」
「ああ」
シェイマスは頷くと、
「では、これで失礼致します」
小さく会釈すると、アリスとマーティを促して背を向けた。
妙にキラキラしたオーラを纏った、騒々しい3人組からようやく解放されて、ネリーは深く息を吐き出す。
「ああ、あの御三方に声をかけて頂けたなんて、夢みたいだわ……」
隣ではイーディスが夢見心地で呟いていたが、ネリーはどっと疲れてしまって、もう立っているのもやっとだった。
「私達も、もう行きましょう。すっかり疲れたわ」
と、重い足を引きずるようにして、馬車へと逃げ込んだのであった。
「アリス様!」
黄色い声を上げたのは、もちろんイーディスである。
それにアリスは天使のような笑顔で応えると、小首を傾げた。
「シェイマスってば、また女性を口説こうとしていたの?」
「こら、アリス、失礼だろ。そんなんじゃないよ。
落としたハンカチをお渡ししただけさ」
「あら、そうなの。私はまた、てっきり……」
アリスは言いかけたが、ネリーとイーディスが自分を見ているのに気がつくと
「あら、ごめんなさい。1人で喋りすぎてしまいましたわね。
お二人とも初めまして……で、よろしかったでしょうか?」
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イーディスに言われて、ネリーも腰を屈める。
「イーディス様にネリー様ね。どうぞよろしくお願いいたします」
アリスも優雅に腰を屈めたが、名乗ろうとはしなかった。
わざわざ言わずとも、誰もが自分のことを知っているという自信があるのだろう、とネリーはぼんやりと思った。
それはもちろんその通りなのだが、だからと言って名乗らないのも失礼ではないか……とモヤモヤと考えていたのだったが
「シェイマス・パウエルです。
名乗るのが遅くなり、失礼致しました。
それから、こちらがアリス・マイヤーズ子爵令嬢です」
と、意外なことにシェイマスが言ったのである。
有名な幼なじみ3人組とは言っても、彼はアリスとは違うらしい。
ネリーがそんなことを考えていたからだろうか。
「なんだよ、2人とも!
黙っていなくなったから、随分探したんだぞ」
と声がして、アリスとシェイマスの間に割り込んできた者があった。
とうとう、3人組の最後の1人までもが飛び込んできてしまったのである。
「またうるさいのが増えて、申し訳ありません。
ネリー様、イーディス様。こちらはマーティ・エドウィン男爵令息です」
もちろん、そう言ったのはシェイマスである。
マーティは笑顔を浮かべて軽く頭を下げて見せたが、すぐにアリスに向き直った。
「そろそろ行かないと。間に合わなくなるぞ。
劇場に行くんだろう」
「ええ、そうね。行きましょうか、シェイマス」
「ああ」
シェイマスは頷くと、
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隣ではイーディスが夢見心地で呟いていたが、ネリーはどっと疲れてしまって、もう立っているのもやっとだった。
「私達も、もう行きましょう。すっかり疲れたわ」
と、重い足を引きずるようにして、馬車へと逃げ込んだのであった。
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