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3.黄昏の獅子
しおりを挟む次の日、ノアは身支度を済ませいつも通りにギルドに出勤した。
徐々に身体のほうの違和感も気にならなくなり、半日を終え休憩時間を一緒に取っていたウォルトが通りにあるパン屋のサンドウィッチを頬張りながら口を開いた。
「そう言えばさ、昨日の朝、黄昏の獅子が東支部に顔を出したよ」
「そうなんだ? 本部ではなくこっちに?」
がめつい本部ギルドが金と名声を運ぶ実力者に声をかけていないわけがないだろうが、彼らはその誘いに乗らなかったようだ。
東支部で育てた優良冒険者を何度も強引に取られてきたので、思惑が外れた本部ギルドのことを考えるとちょっぴり胸がすく。
「なんでもこっち側の宿をとったようだね。彼らにとっては手続きできたら本部も支部もかわらないんじゃないかな」
「確かに彼らの動きは名声よりも利便性重視だからそう言われたら納得」
ここ最近、実力はほぼS級なのではと言われるA級冒険者二人組が目ぼしい辺境のダンジョンを攻略し、やっと王都にくると話題が持ちきりだった。
『黄昏の獅子』と通り名で呼ばれる彼らは、国境付近のダンジョンの攻略をメインにしていた。
「利便性か。あれこれ伝手を使って彼らとの接触を試みただろう本部ギルドもざまぁだよね。一昨日のことがあったから、彼らがここに顔を出した時思わずガッツポーズしちゃったよ」
「その気持ちわかるな。黄昏の獅子には意図なんてないだろうけどね。それがまたいいよね。それにしてもずっと辺境で活躍していた冒険者だから王都にいると言われてもぴんとこないけど、僕も拝見できるのが楽しみだよ」
最初は彼らの通り名だった『黄金の獅子』は、見た目と強さからつけられた。
そして、二人が正式にパーティを組む時にそのままパーティ名として使用された。理由は考えるのが面倒だったからというのまで噂で回ってきている。
二人とも金髪の美丈夫の魔剣士。
彼らが通ったあとには、赤く染まった魔物の血が残っていることからきたと言われている。
剣の力も魔法の威力もずばぬけており、二十二歳の碧眼のマーヴィンと二十一歳の鮮やかな緑色の瞳のブラムウェル。
ほかのジョブの助けを必要としないほど、彼らは圧倒的な力を有していた。
彼らが活躍するたびにギルド職員、冒険者たち、特に異性には人気で必ず話題に出すほどの有名人だ。
なので、ノアも顔は知らないが特徴と年齢くらいは知っている。
「こっちで依頼受けるって言ってたから近いうちに見れるんじゃないかな。噂通りの美丈夫で、女性職員たちの間では誰が担当するのか昨日からずっと話し合いが行われているよ」
「ははっ。拠点を決めていないから王都にずっといるとは限らないし、実力者は担当を指名ができるからこちらで決めたところで仕方がないのにね」
新人相手ならこちらからメインの担当を決めることもあるが、名のある冒険者はほぼ相手の意向に沿うことになる。
活躍する彼らの担当は当然仕事の量が増えるし、その土地で長く活動する場合は自分に合った者を見つけて担当を決めるのが定番だ。
たまたま並んだ場所で担当していた者がそのまま継続することもあるし、仕事を評価されて抜擢されることもある。
理由は様々だがこちらが騒いで決めたとしても、思い通りになるわけではない。
「まあ、それくらい彼女たちは舞い上がってるんだよ。実力と容姿が優れた相手と少しでも接点を持ちたいと考えるのはわからないでもないけどね」
「そうだね。何がなんでも担当したいとまでは思わないけれど、どんな人たちなのかは僕でも興味あるよ」
ノアも彼らの活躍を楽しみに聞いていた一人である。
「だよね。僕も昨日遠くから見ただけだけど、周囲が騒ぐのもわかる人たちだったよ。それはもうギルド全体が色めきだって収拾つけるのが大変だったよ。見ることができたよりも、いつか見られるなら初日は休みだったらよかったって思った。サンドラなんか今日は朝から女性職員の中で一人出遅れたとずっと僕が責められてたんだよ。シフト決めたのは僕じゃないのに」
「それは大変だったね」
サンドラは上級志向の女性で、冒険者相手だったらB級以上しか相手にしたくないと公言している。そんな彼女がA級冒険者と出会う初日を逃したのは悔しかっただろう。
疲れた顔をして溜め息をつくウォルトを労うため、休憩用に忍ばせていたチョコレートを数個そっと差し出した。
「甘いもの食べて疲れとばそっか」
「ありがとう」
さっそく包装を開けるウォルトを見ながら、ノアもコーヒーカップに口つける。
黒髪黒目の美人顔のウォルトは、その見た目に反してよく食べる。
「ノアといると和むよねぇ。ギルドでもノアがいるのといないのでは空気違うから、僕は全部のノアと同じ勤務日にしたいよ」
「そう? 僕もウォルトといると心強いよ」
吸い込まれるようにウォルトの口の中に消えていくチョコレートを眺めながら、ノアは笑う。
一昨日のようなことがあった後でも、同僚にいてほしいと言われるのは嬉しい。
馥郁たる香りにほっと息をついていると、同じく息をついたノアがそういえばと声を上げた。
「そうそう。今朝からサンドラに捕まって忘れてたんだけどさ。黄昏の獅子は昨日ギルドに活動報告しに来たんだけど、その時に人捜しをしているって言ってて」
「人捜し?」
意外な内容に首を傾げると、ウォルトが真面目な顔で頷いた。
「どうして捜しているかまでは聞いてないけれど、僕のような身長体型で茶色の髪と瞳の華奢な青年と聞いて、僕はノアが浮かんだのだけど心当たりある?」
「ないよ。それに茶色の髪に瞳なんてほとんどの人がそうだから。そもそも黄昏の獅子の顔も知らないし」
「だよねぇ。悪い意味で捜している感じではなかったし、真剣そうだったからちょっと気になって」
人捜しね。
そういえば、一夜をともにした男性も金髪だったし細見ではあったが筋肉質な体形は冒険者の可能性もある。
――……まさかね。
そこでノアは首を振った。
夜の相手に困らないであろう有名な冒険者が自分と一夜を過ごし、ましてやいなくなったから捜すなんてあり得ない。
もしくはよほど反感を買ったかだが、宿代は置いてきたし後腐れはないはずだから捜される理由はノアにはない。
一瞬浮かんだ疑問に、自分ではないなとあっさりとノアは記憶から消去した。
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