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15.日常と予兆①
しおりを挟むブラムウェルと一緒に生活をするようになって十日が経った。
その間、本部ギルドのワイアットは来たがいつもより軽めの嫌味で帰っていき、今のところ大きな厄介事はなく平穏に過ぎていた。
依頼や討伐を受けてきた冒険者が少しずつ増え始めた夕刻。
受付カウンターの前でノアは首を振り、男が採ってきた魔力のこもった魔植物を前に戻した。
「残念ですが、この状態でしたらこの査定額以上は無理です」
「うそだろ。おい。お前、新米だろ? だからわかっていないんだな。俺が持っているこの剣はゴブリン戦士を倒して得た剣だ。そいつを倒すだけの実力が俺にはある」
「そうですか。ですが、今回の依頼とは直接関係ありませんよね?」
男が胸を張って、腰に携帯している剣を持ち上げた。
いかにもな装飾は、確かにそこら辺に売られている安物の剣とは違う。
男が以前に倒したゴブリン戦士の剣を使っているらしい。
人間が使っていたものをゴブリンが使い、それを倒して目の前の冒険者のものになったようだ。剣の性能的にC級でも上のほうだ。目の前の冒険者はC級なので実力的に使いやすいだろう。
レベルに関係なく魔物を退治してくれるのはありがたい。
その分、人は平和に暮らせる確率が上がるので、彼らの活動には職員としても一般市民としても感謝している。
だが、ここまで威張られると見下しているわけではないが、「でも、C級ですよね?」と言いたくなる。
なにせ長年懇意にしているのはここのギルド長であり、最近ではドラゴンをも退治することができるブラムウェルが身近にいる。
淡々と難関の依頼や討伐をクリアしてくるため、ゴブリン戦士でここまで威張られてもと思ってしまう。
ギルド職員に理不尽に手を出せば冒険者たちは評価が下がり、仕事を回してもらえないこともあるので実際に暴力を振るわれることは滅多にない。
ノア自身も余計な争いを生まないためにも、丁寧な言葉でこちらに比が生じないように対応することを心掛けている。
いい加減、この手の輩にも飽きてきたなと、ノアはにっこりと笑顔を浮かべた。
下手に自信があり周りが見えない者ほど難癖をつけてくる。
「無理なものは無理です」
今回の依頼は魔植物のモーレ採取だったのだが、カウンターに置かれたものは強引に引き抜き途中でちぎれているものや葉が変色しているものもありすべてに何かしら不備があった。
肝心の依頼品がこれでは困る。
採取は簡単だが、そこまでの道のりが厳しいためC級以上のレベルが要求される依頼だ。
魔植物は採取と保管の仕方が植物によって違う。
逆に言えば生息地に行き見つけて帰ってくる実力があるなら、扱いについて事前に仕入れ注意を怠らなければ失敗しないはずの依頼だ。
しかもモーレは害を及ぼす類いのものではないので比較的簡単だとされている。
「俺のレベルに不満があるのかよ」
「レベルは把握しておりますよ。C級冒険者のピーターさん。ですが、それとこれは別です。残念ながら依頼は失敗になります」
「なんでだよ。ちゃんと三十本採ってきただろうが!」
目の前で大きな声で怒鳴られ、耳をふさぎたくなったがぐっと我慢する。
ノアはこそっと溜め息をつくと、何もわかっていない男に伝わるように説明した。
「依頼主が求めているのはいい状態のもののみなので、これらは依頼主の求める品質に応えられていません。モーレの葉は毒を打ち消すために使われますが、少しでも損傷していればその効果は半減します。お持ちいただいたどの葉も傷んでいますので半値、もしくはそれ以下になります。こちらとしてはせっかくなのでほかに回してのこの値段です」
こっちは素材が無駄にならないよう、双方にとって良い提案をしての値段だ。むしろ、文句より感謝されてもいいくらいだ。
それ以上文句をつけるなら上司を呼ぶぞと、ノアは階段のほうへと視線をやった。
「なんだよ。ここなら薬草、魔植物系は割がいいって言ったからわざわざこっちに来てやったのに」
王都ギルドの横やりがあって、少しでも欲しているいい素材は高めに買うようにしていたが、黄昏の獅子のおかげで今はそうする必要はなくなった。
その時の噂が回っていてやって来たらしいが、どのように聞いたのか知らないが粗悪なものをそのままの値段で買い取るわけがない。
これだけ説明してもわからないのなら、この冒険者とは一切取引はしなくていい。
「それでしたら、他所にもっていっていただいてもかまいませんよ」
年齢より下に見られ、東支部を利用する初めての冒険者にはたまにこうして絡まれる。御しやすいと思われ声を荒げられることは日常茶飯事だ。
毅然とした態度でこれ以上の交渉は受け付けないと告げると、男はこぶしを振り上げ思いっきりカウンターを叩いた。力自慢がしたいようだ。
「はぁ? こっちが優しく言ってやってるのに。いいか。俺はいつかA級になる男だ。今から懇意にして損はない」
あからさまに忖度を強要する相手に呆れる。
確定のない未来を語られて、いつものことだと見守っていた常連の冒険者がはははっと笑う。大抵はノアがそのまま押し通すので、彼らもよほどのことがない限りは入ってこない。
「何がおかしい。俺のバックには……」
周囲に馬鹿にされたように笑われ、男が唾を吐き出しながら声を上げる。
バック? 大口を叩くのも、買値の噂を聞いたというのもそう簡単な話ではなのだろうか。
ノアが眉を寄せて考え込んでいると、ギルドの扉が開き見慣れた二人が入ってきた。
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