ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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14.過去と始まり②

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 数分後。身体も気分もさっぱりしてバスルームから出ると、テーブルの上を片付けていたブラムウェルに手招きされる。
 ノアは頭を拭いていたタオルを首にかけ、ブラムウェルの前に立った。

「綺麗にしてくれてありがとう」
「一緒に食事をしたのだから当然だ。それと場所がわからないものもあるから教えてくれると助かる」
「わかった」

 全くそういったことを期待していなかったというかそこまで考えられていなかったが、ブラムウェルは積極的に家事も参加するつもりのようだ。
 美形で強さも能力もあっても偉ぶらないし、家事も率先とかいい男すぎる。冒険者ではなくどんな職業でも有能タイプだ。

「それよりもまだ髪が濡れてる。ノア、そこに座って」

 言われるままソファに座ると、ノアの前に立ったブラムウェルが首にかけていたタオルを取り優しい手つきで水分を拭き取っていく。
 いい力加減の指圧が気持ちよくて頭も一緒に動く。

「ああ~、なんかいいね。二度寝したくなるよ」
「寝てもいいけど、今日は朝から出かけよう」
「買い出しとブラムの荷物を取りに行くだけだよね? そんなに時間はかからないと思うけど?」

 朝から張り切らなくてもと言うと、ブラムウェルは手を止めた。

「俺の荷物を取りに行って、ノアの買い出しはもちろんだけどここで世話になる分いろいろ揃えさせてほしい。さて、魔法かけるよ」

 仕上げに温風魔法をかけられる。
 風と熱を同時に扱えるのは魔法のレベルが高い証拠だ。ブラムウェルなら納得だなと心地よさに目を細めた。

「そんなにいっぱい買うつもり? あと、乾かすのがうまいね」
「幅をとるものはノアに確認を必ず取るから安心して。この魔法は初めて人に使ったけどよかった。これからはノアの髪は毎日俺が乾かすから」
「毎日は贅沢すぎるし、ブラムも依頼によっては帰ってこられない日もあるだろうから遠慮しとく。……でも、たまにはお願いしようかな」

 断りの言葉を並べると表情が曇っていくので、ノアは慌てて言葉を付け足した。
 甘えたではあるけれど、世話焼きでもあるようだ。

 ノアも覚えがあるのだが、世話を焼かせてもらえるのは相手が心を許しているからだ。
 どんなにこちらがよくしてあげたいと思っても、嫌がられては近寄りもできない。

 だから、もしかしたらノアがどれだけ許してくれるかをブラムウェルはこうして計っているのかもしれない。
 いわば、そうして甘えてもいるのだろう。自分が甘えるための相手の許容を増やすために相手も甘やかすということもある。

 童顔の部類で大人になっても年下扱いされることが多いが、孤児院では下の子の面倒を見ることが多かった。
 なので、ちょっと拗ねた態度を見せるのも、素直に甘えられるのも、逆に世話をやこうとするのも、すべてが慕われているから。そう思うと嬉しくなる。
 
「それにしてもすごいね。そんな魔法が使えるなら初めから乾かしたほうが早いのではないかと思うけど」

 乾かし終わった後も手で髪を梳かれ小さく頭を揺らすと、耳たぶを遊ぶようにつままれる。
 こそばゆさに肩を竦めると、襟足に指を動かしてようやく離された。

「無駄に魔力を使っていざという時に足りないということは避けたい。できることは身体を使ってするほうがいい。魔道具だってあるし、この国では圧倒的に魔法を使えない者のほうが多い。そういった感覚を忘れないためにも日常生活では最低限にしているんだ」
「へえ。あればあるほど使い放題かと思っていたよ」

 しっかりした考えにノアは感心する。

「魔法を安売りするつもりもないし、使いどころはちゃんと選んでる」

 そう語ったブラムウェルは機嫌よさげに笑みをこぼしながらも目が真剣だ。
 その双眸を見てノアは納得する。

「能力はブラムのものだし、利用されないためにもそれがいいね」

 魔力が一般人の標準しかないノアからすれば魔法を使えるだけでもすごい。それだけで無敵とは言わないけれど、普通の人からすれば特別だ。
 だから、ブラムウェルと話していると優れた魔法使いでも気を配るところが意外とあるのだなと勉強になるし、淡々として見えてしっかりと考えているところに好感が持てた。

 自然とブラムウェルの頭に手が伸びてひと撫でしてからはっとする。
 孤児院での夢を見たからか、はたまたブラムウェルの言動からか。気づけば年下の子たちにするように頭を撫でてしまっていた。

「ごめん」

 慌てて手を離すと、ぱっとその手を掴まれて戻される。

「もっと触って」

 まさかの返しに一瞬止まったが、髪を乾かしてもらったしとしばらく撫でた。
 甘えられると拒めない。

「ブラムは結構甘えただね」
「ノアにだけだよ」
「だったら、たくさん甘やかさないとね」

 本当のところはわからないが、甘えられる相手になれるのは光栄だ。
 この一週間、本部ギルドは大人しいがこのままのはずはないし迷惑をかけるかもしれないし、少しでもブラムウェルがくつろげるならそれでいい。

 互いに笑みを浮かべていると、いつの間にか昇った太陽の光が部屋に差し込む。
 その日は予定通りブラムウェルは荷物を持ち込み買い出しに繰り出し、二人の生活が穏やかにスタートした。


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