ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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訳あり女性 sideランドルフ①

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 その女性と知り合ったのは二十五年前。後にも先にもあんなに勝手で自由に見えて、羽ばたききれないどうにも放っておけない印象的な女性はいない。
 依頼を遂行し終え王都に戻ってきたばかりのランドルフは、一人店で飲んでいると女性に声をかけられた。

「ねえ、あなたは名のある冒険者と聞いたのだけど私の依頼を引き受けてくれないかしら?」
「悪いが依頼は冒険者ギルドを通してくれ」
「それだと困るの。私は誰にも知られず王都を出たいのよ」

 断りもなくランドルフの前に勝手に座り、肘をついてにこっと笑みを浮かべる姿は図々しくも華があってあまりにも自然だった。
 文句を言う気も失せ、ランドルフはグラスを煽りまじまじと女を観察した。
 服は平民が着るものだが指先一つとっても整えられ肌艶もよく、行儀悪く肘をついても高貴さが漂う所作に一目で貴族のお嬢様だとわかった。

「あんたが来るところではないと思うが?」
「お金は十分に用意できるわ。誰でもいいというわけではないの。ギルドを絶対通す必要があるというなら、あなたからギルドに通してくれたらいいわ。とにかく誰にでも目につく依頼は無理だしそう簡単なものでもないからあなたくらいのレベルでないと」
「わがままだな」
「そう? 誰だって大事なものを失わないためには譲れないものはあるわ」
「…………話を聞こうか」

 女の真剣な目が気になった。
 ここでは注目を浴びると、寝泊りしている宿に女を連れていく。

 冒険者が出入りするような宿に入るのは初めてのようで、女は物珍しそうにきょろきょろと視線を動かす。
 あいにく座るところがないからベッドを進めると、「ありがとう」と座りその感触を確かめるようにぽんぽんと叩いた。
 あまりに無邪気なその動作に、ランドルフは嘆息した。

「あんた警戒心というものがないのか?」
「あら。身体も必要? 困っていなそうだけど。それで引き受けてくれるなら私はいいわよ」

 苦言を呈するとあっけらかんと言われ、もともとそういうつもりはなかったが女性として見る気は完璧に失せた。
 魅力うんぬんの前に、どうしても笑みを浮かべながら必死さが伝わる双眸を無視できない。

「いらない」
「まあ! やっぱり私の見る目は確かね。依頼はあなたが引き受けてくれないと」
「勝手だな」
「だって、無事王都を出られるかどうかで未来は大きく変わるんだもの。勝手でもなんでもそのためにはできることがあるなら手段は選ばないわ」

 譲る気はないようだ。
 そもそも話を聞こうとした時点で彼女のペースだと、ランドルフは深く息をついた。

「……ややこしいのは嫌なんだがな」
「私の全財産をあなたたちにあげる。ちょおっと遠いから拘束時間長くなっちゃうけど悪くないはずだわ。だから、引き受けてちょうだい。あと、私はお腹の中に赤ちゃんがいるからそういうのは無理だけどね」

 まだ平べったいお腹をさする女は、そこで愛おしそうに目を細めた。

「はっ? それでよく誘ったな」
「でもあなた断ったじゃない。だから、私ってば見る目があるわねって話。それにあなたのパーティには女性の魔導士がいると聞いたから今後のことも含めて私たちの未来を託せるのはあなたたちしかいないのよ。だからお願い」

 私たちというのはお腹の子供のことも含めてなのだろう。
 面倒事の匂いがするが、放っておけない何かが女にはあった。

 それからパーティ全員で相談し、辺境の村まで彼女の護衛を引き受けることにした。
 事情は語られないが文字通り全財産だろうものを提示され、女の必死な様子はお腹にいる子供のためなのだろうと思うと断り切れなかった。

 今まで衣食住に関して苦労をしてこなかった貴族の令嬢が、子供のために家から、王都から身を隠す理由を考えるとせめて彼女の望むことをしてやりたかった。
 初めから名前も身分も明かさなかった女は、自分の身の上を話さない以外は実に気持ちのいいほど豪快で貴族だからといって厚遇を求めなかった。

「あんたでいいわ。名前は知らないほうがお互いにいいと思うから」

 名前を含め、自分の身の上に関して情報を一切話さなかった。
 おそらく人生初めてであろう野宿も文句を言わず、お腹の赤子を心配する時以外は弱音も吐かず常に楽しそうに新しいことに挑戦する。

 そんな姿に自分たちは彼女にほだされ、できるだけ気遣いながら先を進んだ。
 旅も中盤になりもうすぐ産まれるということで一時移動を中断した際に、こんな時くらいしか話すことはないだろうとランドルフは気になっていたことを訊ねた。

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