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31.孤児院①
しおりを挟むそれは孤児院での最後の記憶。
ドォーンと地響きとともに、院長がばたりと倒れ苦しみだし孤児院全体が異変を感じ取った。眠りかけていた赤子は泣き、外では逃げろと鋭い声が聞こえる。
外の様子も気になったが、胸を抑え顔色の悪い院長の様子にノアたちはその場を動けなかった。
「みんなを地下に」
「はい」
息をぜいぜいと吐きながら鋭い声を出した院長の言葉に押し立てられるように、自分たちは地下へと連れていかれた。
「ソフィア先生、フィリップ院長は?」
「心配ないわ。誰かが呼びにくるか、静かになるまでここで息を潜めていて」
できるわね、とノアを含む年長組を見る先生の顔色も悪く、緊迫した様子に誰も反論せずに頷いた。
その間もどんどんと地響きが聞こえ、がたがたと建物が揺れる。
先生はそれぞれの額にキスをし、最後に頷くと地下室から出ていった。
ぎぃっと重い扉が閉められる。
この地下室は外と中と別に鍵をかけられるようになっている。外から鍵をかけた様子はなかったので出ようと思うと出られるが、誰もがその場を動かなかった。
鍵をかけなかったこと、先生の言葉から、もしかしたら助けがこないこともありここから出て逃げなければならない生死に関わる異常事態であることを悟る。
ノアたちは身体を寄せ合い、外の様子に耳を澄ませた。
ぐずっていた赤子はノアが抱くと、ぴたりと泣き止んだ。
いつもノアが抱っこすると泣き止むので終手段として任せられることは多いが、緊急事態なのでノアの担当だ。
「いい子だね」
とんとんと赤子の背を叩き、ゆらゆらと揺らしながらノアは不安で扉を見つめた。
めりめりと大きなものが倒れる音に全員が息を呑む。
続いて先生たちの怒号と悲鳴が聞こえ、さらに身を寄せ合った。年下のチャーリーがぴたりとくっつき、ノアの服をぎゅっと掴んだ。
その手を優しく握り、ノアは固唾を呑んで外の様子をうかがった。
誰も話さない。
声を出してしまうと不安をあおりそうで、特に年長組は年少組を不安にさせないようにきゅっと口を引き結んだ。
「何かに襲われてるわ。先生たち大丈夫かな?」
しばらくして静寂に耐えられなくなったルイサが声を震わせた。
「院長たちは強い。きっと大丈夫だ」
「でも、村全体が襲われているようだったよ。……もしかして魔物?」
魔物のことは習っていた。
村の外は山に囲まれ、ここは特別な魔法で守られた場所で安全だということ。人が住む開かれたところまで行くには魔物と遭遇する可能性が高く、図鑑とともに危険性やその特性とともに教えられた。
ノア以外が魔法の威力がある者たちばかりなので、もし遭遇した時の対処法やそれぞれの特性とともに魔法をコントロールする術を訓練していた。
みんなが訓練しているその時間は、ノアは小さな子の相手やフィリップ院長とともにいた。
院長と一緒に彼らの様子を巡り時に手伝いをしながら、いろいろな話を聞く。
世の中にある魔法や世界の在り方、その中には精霊の話や院長自身の家族の話もあった。
あまり自分のことを語ることはなかったけれど、院長の兄弟の話をするときはノアを見てどこか懐かしそうに話していたのは印象的で記憶に残っている。
ノアにとって院長は孤児院の守護者で誰にも変わることのない絶対的な存在。けれども、その時間だけは父親がいたらこんな感じなのだろうかと何度か考えたことはあった。
ここに来る前の苦しそうな院長の顔を思い出し、ノアは眉根を寄せた。
怒ると怖いけれどその怒る態度にもいつも余裕があって、ここの子供たちだけでなく村人から慕われ頼りにされていた。
そのフィリップ院長の余裕のない姿は初めてで、状況とともに時間が経てば経つほど不安は最高潮に達した。
ソフィア先生と思える悲鳴が聞こえ、続いて静かになった。
それからいくら耳を澄ませても、人とは思えない唸るような咆哮と地響き以外の音が聞こえず一人が声を上げた。
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