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30.解放②
しおりを挟む「推測の域を出ないが、ノアがつけるとコントロールすることのできる指輪は、代々血筋に流れる血に反応して力を増幅させていたのだと思う。あの男がほかの指に付けていた指輪はすべてそういう類いのものだった。中には邪な気を放つものもあったから、元々の気質もあり長年精神が蝕まれてああなったのだろう」
だからあの異常行動なのか。
侯爵という立場であの様子は心配になるほどだったが、ノアがこの指輪を持っている可能性に感化されて一気に邪気が増したのだろう。
「怖かったもんね」
「指輪の影響はあったとしても、その気を呼び込んだのはあの男だ。ノアの母親が逃げたのもその資質も含めその場にとどまることができないと判断されることがあったのだろう」
「こっちまで病みそうなくらい指輪のためなら何でもしそうな狂気を感じたし、母は身ごもったことで身の危険を感じたのかもしれない」
例えば、女性なら譲り渡すことができる能力で赤子が男の子だったら譲ることができないなど、侯爵にとって不利な何か、母親が逃げるに値することが起こったのだろう。
本当のところは母に聞かないとわからない。永遠にわからないままかもしれない。
大事なのは、母がその魔の手から逃れられたということ。自分も守ってくれたということ。
侯爵は余罪も追及されるということだし、それに関してはブラムウェルもランドルフも強固として断罪すると言っていたので、しっかりとあるべき形で社会的に制裁されれば指輪どころではないはずだ。
ノアとしては侯爵家のしきたりなどに巻き込まれず、今まで通りただのノアとして過ごしていければそれでいい。
そこに、母から譲り受けたこの指輪が大事なものの一つに加わった。特別な力はまだよくわからないけれど、母の意志を守る。それだけだ。
「ありがとう。だいたい考えはまとまった。僕は僕なりにこの指輪を大切にしていくことにするよ」
「それでいいと思う。あと、右手の中指なのかまではわからないけれど、子供のころキスした場所もそこだった。きっとそれも精霊に関係していて、俺があの時にしたからまた出会えたのかもしれないとも思っている」
ブラムウェルは、唇を誰にも許さずきたことといい案外ロマンチストだ。
だけど、その考えはすごく好きだと思った。
遠く離れた地で出会い、またこうして出会った。直接関係はなくても精霊に導かれてだとしたら、この縁も強固なものに感じさらに愛おしい。
「そうだったらいいね。いつか精霊にも会ってみたいし、孤児院があった村にも行ってみたい」
その地に眠る皆に会いにいきたい。
これまでは懐かしみ追悼する気持ちはあっても、失った地を訪れることは考えたこともなかった。
指輪をしていたら導きがあると思えるのは、ブラムウェルのおかげだ。
侯爵家のことで不安要素はあるけれど、彼がいるなら大丈夫だと思える。
「院長だが、ノアと同じような力の持ち主なのではないだろうか。子供の時はただすごいことしかわからなかったが、あの結界はノアの力と通ずるところはあるし、いまだに攻撃外の力であれほどの持ち主は見たことがない」
「フィリップ院長は……」
自然と名前が出てきた。
今までは院長とだけで名前が出ないことに疑問もなかったけれど、今ははっきりと目じりのしわや怒ったらげんこつが降ってくることも思い出した。
それが呼び水になったのか、忘れていたであろう記憶が溢れ出す。
「ノア?」
固まってしまったノアを心配して、ブラムウェルが顔を覗き込んでくる。
その美しく輝く金の瞳を見つめながら、感情が高ぶり涙がこぼれた。
つぅっと頬を伝い、それを指で拭われノアは微笑む。
立ち上がったブラムウェルにぎゅっと抱きしめられ、悲しいけれど、今、一人ではないことを教えてくれる存在に身体を預けた。
――院長、みんな……
「思い出した。思い出したよ」
どうやって生き延びたのか。
あの地で失ったものの重さから逃げたくなるけれど、それでも得た大切なものたちをノアは思い出した。
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