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30.解放①
しおりを挟むランドルフの話を聞き終え、ノアたちは指輪について話し合うべく家に戻った。
「ブラム、この指輪について何か知っていることがあるなら教えて」
一息つこうとコーヒーをテーブルに置き席に着くと、考えるように真剣な顔をしていたブラムウェルはノアを安心させるように微笑んだ。
普通にしているつもりだったけれど、もしかしたら表情は硬いのかもしれない。ノアは意識して深呼吸をした。
「まず、それはノアを守るものであっていると思う」
向かい合った手を握られ、ノアも握り返す。
大きな手はひどく安心して、時間が経てば経つほど今一緒にいれること、ずっと忘れずにいてくれたことの喜びがじわりと胸に広がる。
「どうしてわかるの?」
「ノアから感じる波動が孤児院にいた時と同じになった」
「孤児院の?」
意味がわからないと首を傾げると、ブラムウェルは言葉を重ねた。
「俺が旧ロゴニスタの王族の血を受け継いでいると話したよね? ギルド長の話にもあったように、旧ロゴニスタは精霊信仰の国だ。ただの妄信はなく、王族の一部は精霊の力を感じる能力を授かっていた」
「ブラムもそうなんだね?」
ブラムウェルが確証もなく言い切ることはないので、ノアはすんなりとそれを受け入れた。魔法がある時点で、精霊が実在していても不思議ではない。
それはそれでなんだか壮大なことだが、それと自分とにどう関係するのか。
「王族間での争いも王太子がその力を引き継いで信じ切れていなかったことも大きかったようだ。王や父は感じることができたので、精霊の存在を否定し精霊信仰を捨てることは反対していた。父が王太子の力を退けた後、連れていかれた祭壇にはノアの指輪と同じような模様が施されていた」
「……でも、精霊といえば自然を思い浮かべるからこの指輪の模様も偶然という可能性はあるよね?」
「確かにその可能性はあるけれど、ノアの放つ空気は他の人と違う。孤児院でもノアは誰に対しても特別だった。それは精霊が関係していると言われれば俺は納得する」
納得と言われてもと、ノアはじっと指輪を見つめるがそこから特別な何かを感じなかった。
「自分では何もわからないけれど」
「ノアがいるだけで癒やされる。ノアは魔力が多いのに、魔法は一般人レベルで孤児院の他の子と違って特別な訓練もしていなかったのが不思議だった。だけど、精霊に関係する力なのだとしたら、やはりあそこでもノアは特別だったんだ。人が魔法を使えるようになったのは精霊のおかげで、それから独自に発展しての今があると父から聞いた。だから、精霊の力が強いということはノアの魔力は純粋なものに近いのだろう」
「やっぱりぴんとこないのだけど、精霊と人が使う魔法は質が違うということかな?」
「そう。精霊は世界の調和のために存在する。だから、ノアの力は浄化など守護することに特化していて、孤児院での暴発気味だった子供たちもノアのそばでは比較的落ち着いて魔法が使えていたはずだ」
昔から当たり前のように生活していたので自分の訓練に関して不思議に思ったことはなかったが、言われてみれば思い当たる節があった。
院長にそういうものだと言われてきたので、何も疑問に思わなかった。
「ブラムウェルも?」
「俺もそうだ。むしろ、精霊の力が見える分より影響はある」
すべてのことに理由があった。
母が今はなき旧ロゴニスタの辺境の村を選んだことも、その国の王族の血筋であるブラムウェルとあの場で出会ったのも、ランドルフたちに保護されたことも、なら指輪が戻ってきたこともきっと理由がある。
「そっか……。ならこの指輪は? なぜ、侯爵は指輪を欲しがったのかな?」
侯爵が欲しがったこととどう繋がるのか。
「その指輪は影響力がありすぎるノアの力をコントロールしてくれるものだと思う。蔦はコントロールという意味で掘られたと聞かされた」
ノアはまじまじと指輪を見た。
繊細で美しいとは思うけれど、母から譲り受けたという意味以外やはり特別感はない。
う~んと首を捻っていると、ブラムウェルが長い指でゆるりと指輪を撫でた。
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