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29.指輪と信仰②
しおりを挟む「だいたい話し終えたが、そもそもどうやってノアの居場所を突き止めたんだ? 普通に調べるだけではわからないよう細工されていたが、あの場所は侯爵が所有する建物だった。あそこで後ろ暗い取引が行われていたようで余罪を問われているところだろう」
ブラムウェルのおかげで今後の犯罪も防げたようだ。
やはり高ランク冒険者は動くだけで功績を残すのだと誇らしい気分にもなる。
「追跡魔法です」
「追跡魔法? とことん規格外だな。保護魔法に加えてそれもか……」
そこでランドルフが呆れたようにブラムウェルを見てぐっと眉根を寄せ、続いてノアに視線を移したのでノアは肩を竦めた。
すべてはブラムウェルの意向なので、こちらを見られても困る。
「もともと俺に監視がつけられていたので、しつこい彼らの策に乗ったふりをして離れることにしました。保護魔法もちょうど施せたし、追跡魔法もあればノアを救えますから。何もなしで動くなんてありえない。ただ、実際にノアを傷つけようとした者は許しませんが」
その時の苛立ちを思い出したのか、すぅっと表情をなくしていく。
ランドルフもその表情に納得顔で頷いた。
二十四歳の男にどちらも過保護すぎるのではと思うけれど、心配してくれている人がいるのはこそばゆい。
ノアは小さく笑みを浮かべるだけにとどめた。
「そうか。ブラムウェルのおかげでノアが助かったのだな。ノアの保護者として礼を言う。ありがとう」
「いえ。当然のことですから。これからは俺が絶対ノアを守ります」
「ということは、追跡魔法は解除していない?」
「もちろんです。今後、何があるかわかりませんから。冒険者を続け、ノアもギルドで働く以上、これが最善です」
そういうことらしい。
お互いに違う仕事をするのならこれは絶対で、もっと完璧に守るための魔法を考案中でブラムウェルはどこまでも追及していくようだ。
「ノアはそれでいいのか?」
エイダという優秀な魔導士とずっと行動を共にしてきたしギルド長ともあれば魔法にも詳しく、監視要素を心配しているのだろう。
追跡魔法や保護魔法のほかに何を掛け合わせようとしているのかはわからないけれど、もう好きにしてくれたらいいと思う。
それで安心と安全が手に入るなら、今を手放さないで済むのならむしろ感謝すべきことだ。
「はい。ブラムなら心配ないですし、ブラムがそれで安心するならいいのかなって。今回のことも助かりましたし」
「ノアがいいならいいが……。まあ、これくらいの男がいるほうがノアは安心、か? そのことに関してもし何かあれば必ず言えよ」
「はい」
「もしなんてありません。指輪だけど、ノアの存在は知られてしまった以上つけるほうがノアを守ってくれると思う。つけてもいい?」
ランドルフの言葉にすかさずブラムウェルは言い切り、ノアの右手を取った。
何か事情を知るらしいし、精霊関係というのならつけて悪いことはないだろう。
「うん」
母がつけて大切にしていた、そしてランドルフがずっと持ってくれていたものを、ブラムウェルにはめてもらう。
生まれる前から大事にされてきたこと、そして今があることが、この瞬間に最高に幸せだと思った。
ノアの手にも太いと思った指輪ははめた瞬間、ノアの指にあつらえたような大きさと太さになる。
「うわっ」
「その指輪は持ち主に合うように設計されているのだろう。彼女がしていた時は女性もので違和感なくはまっていたが、外した途端にその形になったからな」
驚いた声にランドルフがにやっと笑った。
どうやらノアを驚かせたかったらしい。
「それならそうと言ってくれていれば」
「ノアの母親なら黙っていそうだと思ってな」
確かに聞いた母親像ならその可能性もあった。
とにかく終始真面目なだけでなく、普段の雰囲気を交えてなのはノアの心を軽くする。
手を掲げて指輪をまじまじと眺めていると、同じように眺めていたランドルフが口を開いた。
「変わったことは?」
「特にわかりません」
「まあ、そう簡単に何かあっても困るしな。俺もその指輪はノアを守るものだと思うから、大事にするんだな」
「はい。これまでありがとうございます」
「これでお別れのようなやり取りはやめろ。ノアはこれまで通りギルドで活躍してくれないとな」
「わかっていますが、ちゃんと母の分までお礼を伝えておきたくて」
母の願いを聞き入れてくれて、自分たち親子を気にかけてくれて、指輪も売らないでいてくれたこと。それがそんなに簡単ではないことはわかっている。
母が信じたランドルフだから、こうしてノアは生きていて指輪を手にした。
「まあ、これからは俺ではなくてそこの旦那が守るようだから、一度礼は受け取っておく。ただ、これからも何かあれば頼れよ」
「はい。もちろん頼りにしています」
指輪の効果はわからないが、母の形見ともいえる指輪が手に戻り、絶対自分を離さないであろうブラムウェルがいる今なら何でも受け入れられると、ノアは穏やかな笑みを浮かべた。
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