ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

文字の大きさ
59 / 66

29.指輪と信仰②

しおりを挟む
 
「だいたい話し終えたが、そもそもどうやってノアの居場所を突き止めたんだ? 普通に調べるだけではわからないよう細工されていたが、あの場所は侯爵が所有する建物だった。あそこで後ろ暗い取引が行われていたようで余罪を問われているところだろう」

 ブラムウェルのおかげで今後の犯罪も防げたようだ。
 やはり高ランク冒険者は動くだけで功績を残すのだと誇らしい気分にもなる。

「追跡魔法です」
「追跡魔法? とことん規格外だな。保護魔法に加えてそれもか……」

 そこでランドルフが呆れたようにブラムウェルを見てぐっと眉根を寄せ、続いてノアに視線を移したのでノアは肩を竦めた。
 すべてはブラムウェルの意向なので、こちらを見られても困る。

「もともと俺に監視がつけられていたので、しつこい彼らの策に乗ったふりをして離れることにしました。保護魔法もちょうど施せたし、追跡魔法もあればノアを救えますから。何もなしで動くなんてありえない。ただ、実際にノアを傷つけようとした者は許しませんが」

 その時の苛立ちを思い出したのか、すぅっと表情をなくしていく。
 ランドルフもその表情に納得顔で頷いた。

 二十四歳の男にどちらも過保護すぎるのではと思うけれど、心配してくれている人がいるのはこそばゆい。
 ノアは小さく笑みを浮かべるだけにとどめた。

「そうか。ブラムウェルのおかげでノアが助かったのだな。ノアの保護者として礼を言う。ありがとう」
「いえ。当然のことですから。これからは俺が絶対ノアを守ります」
「ということは、追跡魔法は解除していない?」
「もちろんです。今後、何があるかわかりませんから。冒険者を続け、ノアもギルドで働く以上、これが最善です」

 そういうことらしい。
 お互いに違う仕事をするのならこれは絶対で、もっと完璧に守るための魔法を考案中でブラムウェルはどこまでも追及していくようだ。

「ノアはそれでいいのか?」

 エイダという優秀な魔導士とずっと行動を共にしてきたしギルド長ともあれば魔法にも詳しく、監視要素を心配しているのだろう。 
 追跡魔法や保護魔法のほかに何を掛け合わせようとしているのかはわからないけれど、もう好きにしてくれたらいいと思う。
 それで安心と安全が手に入るなら、今を手放さないで済むのならむしろ感謝すべきことだ。

「はい。ブラムなら心配ないですし、ブラムがそれで安心するならいいのかなって。今回のことも助かりましたし」
「ノアがいいならいいが……。まあ、これくらいの男がいるほうがノアは安心、か? そのことに関してもし何かあれば必ず言えよ」
「はい」
「もしなんてありません。指輪だけど、ノアの存在は知られてしまった以上つけるほうがノアを守ってくれると思う。つけてもいい?」

 ランドルフの言葉にすかさずブラムウェルは言い切り、ノアの右手を取った。
 何か事情を知るらしいし、精霊関係というのならつけて悪いことはないだろう。

「うん」

 母がつけて大切にしていた、そしてランドルフがずっと持ってくれていたものを、ブラムウェルにはめてもらう。
 生まれる前から大事にされてきたこと、そして今があることが、この瞬間に最高に幸せだと思った。

 ノアの手にも太いと思った指輪ははめた瞬間、ノアの指にあつらえたような大きさと太さになる。

「うわっ」
「その指輪は持ち主に合うように設計されているのだろう。彼女がしていた時は女性もので違和感なくはまっていたが、外した途端にその形になったからな」

 驚いた声にランドルフがにやっと笑った。
 どうやらノアを驚かせたかったらしい。

「それならそうと言ってくれていれば」
「ノアの母親なら黙っていそうだと思ってな」

 確かに聞いた母親像ならその可能性もあった。
 とにかく終始真面目なだけでなく、普段の雰囲気を交えてなのはノアの心を軽くする。
 手を掲げて指輪をまじまじと眺めていると、同じように眺めていたランドルフが口を開いた。

「変わったことは?」
「特にわかりません」
「まあ、そう簡単に何かあっても困るしな。俺もその指輪はノアを守るものだと思うから、大事にするんだな」
「はい。これまでありがとうございます」
「これでお別れのようなやり取りはやめろ。ノアはこれまで通りギルドで活躍してくれないとな」
「わかっていますが、ちゃんと母の分までお礼を伝えておきたくて」

 母の願いを聞き入れてくれて、自分たち親子を気にかけてくれて、指輪も売らないでいてくれたこと。それがそんなに簡単ではないことはわかっている。
 母が信じたランドルフだから、こうしてノアは生きていて指輪を手にした。

「まあ、これからは俺ではなくてそこの旦那が守るようだから、一度礼は受け取っておく。ただ、これからも何かあれば頼れよ」
「はい。もちろん頼りにしています」

 指輪の効果はわからないが、母の形見ともいえる指輪が手に戻り、絶対自分を離さないであろうブラムウェルがいる今なら何でも受け入れられると、ノアは穏やかな笑みを浮かべた。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ
BL
 僕はロローツィア・マカロン。日本人である前世の記憶を持っているけれど、全然知らない世界に転生したみたい。だってこのピンク色の髪とか、小柄な体格で、オメガとかいう謎の性別……ということから、多分、主人公ではなさそうだ。  それでも愛する家族のため、『聖者』としてお仕事を、貴族として人脈作りを頑張るんだ。婚約者も仲の良い幼馴染で、……て、君、何してるの……? 女性向けHOTランキング最高位5位、いただきました。たくさんの閲覧、ありがとうございます。 ※総愛され風味(攻めは一人) ※ざまぁ?はぬるめ(当社比) ※ぽわぽわ系受け ※番外編もあります ※オメガバースの設定をお借りしています

聖女ではないので、王太子との婚約はお断りします

カシナシ
BL
『聖女様が降臨なされた!』 滝行を終えた水無月綾人が足を一歩踏み出した瞬間、別世界へと変わっていた。 しかし背後の女性が聖女だと連れて行かれ、男である綾人は放置。 甲斐甲斐しく世話をしてくれる全身鎧の男一人だけ。 男同士の恋愛も珍しくない上、子供も授かれると聞いた綾人は早々に王城から離れてイケメンをナンパしに行きたいのだが、聖女が綾人に会いたいらしく……。 ※ 全10話完結 (Hotランキング最高15位獲得しました。たくさんの閲覧ありがとうございます。)

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

何もしない悪役令息になってみた

ゆい
BL
アダマス王国を舞台に繰り広げられるBLゲーム【宝石の交響曲《シンフォニー》】 家名に宝石の名前が入っている攻略対象5人と、男爵令息のヒロイン?であるルテウスが剣と魔法で、幾多の障害と困難を乗り越えて、学園卒業までに攻略対象とハッピーエンドを目指すゲーム。 悪役令息として、前世の記憶を取り戻した僕リアムは何もしないことを選択した。 主人公が成長するにつれて、一人称が『僕』から『私』に変わっていきます。 またしても突発的な思いつきによる投稿です。 楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけるとありがたいです。 2025.7.31 本編完結しました。 2025.8.2 番外編完結しました。 2025.8.4 加筆修正しました。 2025.11.7 番外編追加しました。 2025.11.12 番外編追加分完結しました。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました

カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」 「は……?」 婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。 急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。 見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。 単品ざまぁは番外編で。 護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け

処理中です...