ゼロになるレイナ

崎田毅駿

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2.近所づきあい

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 これまた近所での目撃談になるんだけれども、セールスマンか何かがやって来て、庭にいるレイナのお母さんに「奥さん、ちょっとお時間よろしいでしょうか」なんて声を掛けたことがあった。それとなく見ていた僕は、前のことがあるから、その程度の声では聞こえてないよおじさん、なんて思っていた。ところが、レイナのお母さんは即座に振り向いて、応対を始めたのだ。たまたま耳の調子がよくて聞こえたのかなと思った。

 またしばらくすると、レイナの悪い噂は消えた。イーデンの協力が効果を発揮したのもあろあうが、それ以上にレイナにも変化があった。
 背後からでも名前を呼べば振り返るようになったし、ちゃんと返事をするようにもなった。耳が悪かったんだとすれば、手術をして完治したんだろうなって思えるくらいに、普通の人と変わりなくなっていた。
 そうして彼女が転校してきてから一年近くが経った頃。日曜日の昼下がりだった。
 僕の一家は前日の土曜の朝から旅行に出掛ける計画を立てていたのだけれども、僕はその数日前より風邪でも引いてしまったらしく、体調がすぐれない。いつもなら中止するところだが、今回は特別で、両親の結婚記念日だった。僕は別に行けなくてもかまわないから、お父さんお母さんには楽しんできて欲しい。
 そんな思いを伝えたけど、うちの両親は「それじゃ行ってくる」と受け入れるタイプでは全然なかった。体調不良の一人息子を置いて行けますかってことらしい。
 ならばと僕は友達の家に厄介になれないか、男友達に電話を掛けまくった(学校は休んでいたので、電話かメールしかない。即座の返事が欲しかったから電話にした)。でもただでさえ難しいお願いである上に、数日後の週末からっていうのはかなり急な頼みだ。どこからもOKはもらえなかった。
 するとその翌日、レイナがそのお母さんと一緒に訪ねてきた。よろしかったら旅行の間、お子さん(僕のことだ)の面倒をみますよ。使っていない部屋がたくさんありますからって。それまでにもうちとディートンさんとはご近所付き合いが結構あって、物の貸し借りは無論のこと、夏から秋にかけてはバーベキューパーティを開いて、行き来した。そのよしみで、申し出てくれたみたい。ちなみに、僕のせいで旅行が中止になりそうだって話は、レイナが学校で耳にしたとのこと。
 僕の両親は頭が割と固い方なのか、それとも礼儀なのだろうか、「とんでもない、よそ様にそんな迷惑を掛けてまで」と断ろうとした。しかし最終的には折れてくれて、僕は土日をレイナの家のお世話になることに決まった。正直、嬉しい。
 と、こういう訳で、日曜日の昼間、僕はレイナの家にいた。
 レイナのお母さんは図書館司書で、日曜も近くの公立図書館に勤務しに行くことが多いそうなんだけど、この日は休みだった。
 昼ご飯のあと、夕食の材料などを買いに行く必要があるからと、ディートンさんは車で出掛けた。四十分ぐらいで戻るから、その間はレイナと僕とで留守番だ。
「口に合った?」
「うまかった。タコがあんなにうまいなんて、知らなかったな」
「本当はタコ、嫌いなんでしょ」
「うまければ食べる」
「ふふふ。好物をママに伝えておいたから、夜は期待して。お父さんとお母さんが帰ってくるのって、九時の予定だよね?」
「うん」
 そう答えたときだった。玄関の呼び鈴が鳴ったのは。
「誰か来た」
 レイナが立ち上がって、部屋のドアを開けた。
「お客さん? 一応、気を付けて」
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