ゼロになるレイナ

崎田毅駿

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3.レイナ・ディートンは消える

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 僕が体調万全なら一緒に出向くんだけどな。
「分かってるわ。カメラ付きのインターフォンがあるし。待っててね」
 レイナが言って、部屋を出て行った。玄関まではちょっと離れており、しかも廊下を二度か三度、曲がらねばならない。故に僕のいる部屋からは、仮にドアを開けて頭を出しても玄関は見えない。もちろん声だって聞こえない。
 代わりに僕は窓際へ寄ってみた。ガラスに顔を押し付けるようにして左を向くと、ぎりぎり見えるのが門から玄関へと続く小径の様子。草花のせいで一部遮られてしまうが、玄関を出入りする人物を目撃できると思った。
 その玄関先の道路には、車が停めてある。青みがかったグレーのステーションワゴンだ。訪問者は、あれに乗って来たのは間違いない。
 息を飲んで見ていると、三分ぐらい経ったろうか、ソフト帽を被った中年男性が、キャスター付きの大きな鞄を大事そうに押して現れ、玄関から道路へと出て行った。どこかで見たことのある顔だと思ったら、だいぶ前に目撃していた。レイナのお母さんに声を掛けていたセールスマンだ。そのまま車のそばまで来ると、バックドアを開け、旅行ケース並に大きな鞄を載せた。バックドアを閉めるとしっかりロックして運転席に向かう。横顔がちらと見えたが、やけに緊張している風だった。
 改めて物を売りにやってきたが肝心の奥さんが留守で、仕方なく引き返した……という情景に感じられた。車は静かに発進し、遠ざかっていった。
 それから二分近くが経過しても、レイナが戻って来ない。
 おかしいな?
 僕は微熱の残る額に手をやってから、頭を振ると、意を決して部屋を出た。
「レイナ?」
 滅多に呼び捨てにはしないのだが、このときはすぐにそう呼んだ。だが、それでもレイナは姿を現さない。いやそれどころか、声や物音一つ聞こえやしない。
「レイナ! どこだ!」
 玄関口まで来た。誰もいなかった。玄関ドアはぴたっと閉じてある。念のため、手でノブをがたがた言わせると、鍵が掛かっているとしれた。靴だってきちんと揃えてそこにある。
「レイナ! レイナ・ディートン! どこにいる? 隠れてるのか?」
 一瞬、あのセールスマン風の男の他にもう一人いて、そいつが強盗として入り込んだ可能性が思い浮かんだ。そいつから逃げるために、レイナは家の中のどこかに身を隠した? だけどそれも変だ。人に押し入られたら、レイナの靴が乱れていると思う。加えて、その強盗の気配を全く感じないのもおかしな話だ。
 インターフォンの使い方が分かれば、ひょっとしたら訪問者の映像が録画されていて、再生できるのかもしれない。だが、残念ながら僕には操作方法が分からなかった。
 これは異常かつ緊急事態ではないか。警察への通報が頭をよぎるが、まだソフト帽の男が去ってから五分も経っていない。通報はいくら何でも早すぎるか? だけどその一方で、男が押していた大型鞄がまぶたの裏に焼き付いてる感じで、嫌な想像をしてしまう。
 そうだ。レイナのお母さんに連絡を取れないだろうか? 僕はレイナのお母さんの携帯端末番号を知らないし、レイナの携帯端末は見当たらない。だが、この家には固定電話があったはず。そこの短縮ボタンにレイナのお母さんの番号が登録されていないだろうか。
 そんな風に考え、固定電話を探していると、急に呼び鈴が聞こえてドキッとした。
 鼓動の高鳴りがある程度落ち着くのを待ってから、玄関に行く。何故だか、忍び足を心掛けた。
 さっきのセールスマン風の男が戻ってきた、なんてことはあり得ないと思いつつ、僕はインターフォンの画像を見た。
「……あれ?」
 副担任のリチャード先生が映っていた。
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