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16.イレギュラーな解答
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<早速……早速でもありませんが、最初は“二枚舌”への入札をお願いしまーす。制限時間は五分以内。これを過ぎると、今回入札しなかったことになります。四つあるカードの内、少なくとも一つには入札をしてください。もし入札しなかった場合、お手持ちのディテクを全て没収いたします。くれぐれもご注意くださーい。それでは入札開始!>
桐生は進行役の声が甲高い割に耳障りではないなと感心しつつ、入札について、このゲームについて考えていた。
「桐生さん、どうする?」
「ああ、一応、ずっと考えていた作戦がある」
「ふうん? 聞かせてちょうだい。時間がないわ」
「ほしいカード一種のみに対し、全額百万ディテクを入札する」
「……何を言っているのかしら」
相談相手からの小馬鹿にしたような物言いに、桐生は思わず微苦笑を浮かべていた。
「百万しかないのにそんな入札、許されるはずないでしょう」
「これまでの入札ゲームならね。でも今回から導入された新ルールでは、入札額イコール支払額じゃあない。実際に支払う額は二番目の値だ。それは二位である限り、僕らの入れる百万ディテクより確実に少ない数値だから、支払える。さらに入札ゲームのこれまでの常識を当てはめると、カード一枚に対する相場は下はだいたい二十万から高くても六十万ぐらいだろ? 八十万や九十万を付けることはまずない。だから百万入札をすれば、ほぼいつも通りの落札額でほしいカードがゲットできる。あくまで可能性だけど」
「……そういうこと。なるほどね」
時間がない中、少し考える様子を見せる。アバターでの表現はどこまで現実を投影しているのか知らないが、首を傾げる様が愁いを帯びていて悪くはない。
「桐生さんに比べて、他の人達はどのくらい劣っていると思います?」
「へ? いや劣ってるなんて。それぞれ得意分野があるだろうし」
「この入札ゲームに限ったら? 今あなたの言ったのと同じ思考に辿り着くと思いますか?」
「……ああ、そうか。百万ディテクで被る恐れが生じるってことだね。それはあり得るなあ。でもそうなったとしたって無効になるだけで、やり直しが利く。失う物はないんだからとりあえずこの作戦でいいんじゃないかと思うんだけど」
「……二チームのみが被って、残り一チームが漁夫の利を得ることも考えられるのでは?」
「うーん。意外と心配性だね、片薙さん。アイドルなんて浮き沈みが激しい仕事を選んだ割に」
「ち、違う、違います。今はこのゲームに勝つために言っているのであって」
「はいはい、分かっているよ。時間が迫ってきたし、決めなくては。で、二チーム被りのケースだけど、そのときはそのとき。カードは取られてしまうけれども、ディテクは丸々残るんだから御の字じゃないかな?」
「……分かりました。お任せするわ」
「どうも~」
元々そのつもりだったけどねと、桐生は心の中で付け足した。
(何せ、探偵ゲームでのキャリアは僕の方が圧倒的に上なんだし、文句は言わせない)
そして彼は慣れた手つきで入力を行い、送信した。スタジオではタイムリミットまで残り十五秒のカウントダウンが始まっていた。
<――はい、タイムアップ! 入札ゲームのラスト、四枚目の“ノーライ、ノーライフ”のカードへの入札はただいまをもって締め切りとさせていただきましたー>
司会のサイレント真実は手元のパネルを見る仕種をすると、<これから結果を確定するためのチェックに入りまーす>と続けた。
<本当はね、入札が全部終了した段階で結果は出ているんだけれども、念のために人の手を介していこうっていうね。機械を信用してるんだかしてないんだか。ま、この時間を取ることで、見ている人達や参加している皆さんをはらはらどきどきさせようっていう魂胆も、あるにはあるんですけど。
ああっと、そうこうしている内に結果が確定したみたいですよ。気を持たせることなく、ちゃっちゃっと発表しちゃいましょうか>
「ちょっと待ってくれ」
桐生は流れにストップを掛けるべく、鋭く言って手を挙げた。尤も、まだボックス内にいるのだから、主催者側に彼の仕種が伝わったのかどうかは定かじゃない、が、声が届けば充分だろう。
<何でしょうか、桐生真也君>
「えーっとどう言えばいいのかな。今回のゲームって、本当に入札だけでいいのかなって思ったもので、今さらながらですが問い合わせをしたい」
<それは内密に?>
サイレント真実のその台詞は渡りに船だった。できることなら、他のチームの面々には聞かれたくない。
「ぜひ。中断させる行為に対してディテクを払わなければならないのなら、いくらか出してもいいよ」
<そんなルールはないからいいんだけど。――おっ、許可が出たよ。じゃあこっちからそっちに行くからね。他のみんなはもうちょっとだけ待っていて>
女性司会者のアバターはそう言うが早いか、次の瞬間には桐生の目の前に立っていた。
「はい、来ましたよ。桐生君のわがままを聞きに」
いかにも駆け付けたという風に、ドレスのたるみがたなびいている。それ以上に、実体感のある造形に桐生はしばし見とれた。
「桐生真也君?」
「あ、悪い。こういうのが探偵ゲームでも出て来るんなら、色々と小細工ができそうだなと思って」
「言いたいことはそれじゃないでしょ? 早く用件を」
無駄口を叩いた途端に不機嫌な顔をされた。感情が分かり易くてある意味助かる。
「まずはお礼を。要望を聞いてくれてありがとう」
「どういたしまして。早くしてね」
「単刀直入に言うよ。僕のパートナーは片薙すみれさんだと思ってたんだけど、途中で僕が知らない内に交代するなんてことは、まさかないよね?」
つづく
桐生は進行役の声が甲高い割に耳障りではないなと感心しつつ、入札について、このゲームについて考えていた。
「桐生さん、どうする?」
「ああ、一応、ずっと考えていた作戦がある」
「ふうん? 聞かせてちょうだい。時間がないわ」
「ほしいカード一種のみに対し、全額百万ディテクを入札する」
「……何を言っているのかしら」
相談相手からの小馬鹿にしたような物言いに、桐生は思わず微苦笑を浮かべていた。
「百万しかないのにそんな入札、許されるはずないでしょう」
「これまでの入札ゲームならね。でも今回から導入された新ルールでは、入札額イコール支払額じゃあない。実際に支払う額は二番目の値だ。それは二位である限り、僕らの入れる百万ディテクより確実に少ない数値だから、支払える。さらに入札ゲームのこれまでの常識を当てはめると、カード一枚に対する相場は下はだいたい二十万から高くても六十万ぐらいだろ? 八十万や九十万を付けることはまずない。だから百万入札をすれば、ほぼいつも通りの落札額でほしいカードがゲットできる。あくまで可能性だけど」
「……そういうこと。なるほどね」
時間がない中、少し考える様子を見せる。アバターでの表現はどこまで現実を投影しているのか知らないが、首を傾げる様が愁いを帯びていて悪くはない。
「桐生さんに比べて、他の人達はどのくらい劣っていると思います?」
「へ? いや劣ってるなんて。それぞれ得意分野があるだろうし」
「この入札ゲームに限ったら? 今あなたの言ったのと同じ思考に辿り着くと思いますか?」
「……ああ、そうか。百万ディテクで被る恐れが生じるってことだね。それはあり得るなあ。でもそうなったとしたって無効になるだけで、やり直しが利く。失う物はないんだからとりあえずこの作戦でいいんじゃないかと思うんだけど」
「……二チームのみが被って、残り一チームが漁夫の利を得ることも考えられるのでは?」
「うーん。意外と心配性だね、片薙さん。アイドルなんて浮き沈みが激しい仕事を選んだ割に」
「ち、違う、違います。今はこのゲームに勝つために言っているのであって」
「はいはい、分かっているよ。時間が迫ってきたし、決めなくては。で、二チーム被りのケースだけど、そのときはそのとき。カードは取られてしまうけれども、ディテクは丸々残るんだから御の字じゃないかな?」
「……分かりました。お任せするわ」
「どうも~」
元々そのつもりだったけどねと、桐生は心の中で付け足した。
(何せ、探偵ゲームでのキャリアは僕の方が圧倒的に上なんだし、文句は言わせない)
そして彼は慣れた手つきで入力を行い、送信した。スタジオではタイムリミットまで残り十五秒のカウントダウンが始まっていた。
<――はい、タイムアップ! 入札ゲームのラスト、四枚目の“ノーライ、ノーライフ”のカードへの入札はただいまをもって締め切りとさせていただきましたー>
司会のサイレント真実は手元のパネルを見る仕種をすると、<これから結果を確定するためのチェックに入りまーす>と続けた。
<本当はね、入札が全部終了した段階で結果は出ているんだけれども、念のために人の手を介していこうっていうね。機械を信用してるんだかしてないんだか。ま、この時間を取ることで、見ている人達や参加している皆さんをはらはらどきどきさせようっていう魂胆も、あるにはあるんですけど。
ああっと、そうこうしている内に結果が確定したみたいですよ。気を持たせることなく、ちゃっちゃっと発表しちゃいましょうか>
「ちょっと待ってくれ」
桐生は流れにストップを掛けるべく、鋭く言って手を挙げた。尤も、まだボックス内にいるのだから、主催者側に彼の仕種が伝わったのかどうかは定かじゃない、が、声が届けば充分だろう。
<何でしょうか、桐生真也君>
「えーっとどう言えばいいのかな。今回のゲームって、本当に入札だけでいいのかなって思ったもので、今さらながらですが問い合わせをしたい」
<それは内密に?>
サイレント真実のその台詞は渡りに船だった。できることなら、他のチームの面々には聞かれたくない。
「ぜひ。中断させる行為に対してディテクを払わなければならないのなら、いくらか出してもいいよ」
<そんなルールはないからいいんだけど。――おっ、許可が出たよ。じゃあこっちからそっちに行くからね。他のみんなはもうちょっとだけ待っていて>
女性司会者のアバターはそう言うが早いか、次の瞬間には桐生の目の前に立っていた。
「はい、来ましたよ。桐生君のわがままを聞きに」
いかにも駆け付けたという風に、ドレスのたるみがたなびいている。それ以上に、実体感のある造形に桐生はしばし見とれた。
「桐生真也君?」
「あ、悪い。こういうのが探偵ゲームでも出て来るんなら、色々と小細工ができそうだなと思って」
「言いたいことはそれじゃないでしょ? 早く用件を」
無駄口を叩いた途端に不機嫌な顔をされた。感情が分かり易くてある意味助かる。
「まずはお礼を。要望を聞いてくれてありがとう」
「どういたしまして。早くしてね」
「単刀直入に言うよ。僕のパートナーは片薙すみれさんだと思ってたんだけど、途中で僕が知らない内に交代するなんてことは、まさかないよね?」
つづく
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