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15.色々と変
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「――」
桐生は戸惑いを強く覚えた。その心の動きが多少表情に出たらしく、目の前の片薙すみれそっくりのアバターは小さくだがにやっと笑って、「冗談ですよ」と言ってのけた。
何はともあれ落ち着いたところで、桐生は自らのアバターがどうなっているのかを見ようとした。鏡がある訳ではないので、見下ろすくらいしかできないが、白い服を着ているのが分かった。
「おかしいな、いつの間にこんな服……そもそも選ぶ機会なんてなかったのに。女子だけの特典だったのかな? ああ、だから女子だけ時間が掛かって、なかなか出て来なかったのかな」
独り言を聞こえるように言ったつもりだったが、片薙すみれからは何の反応も返ってこなかった。
(まさか、ボタンを押しながらでないとパートナー間のやり取りはできない――いや、ついさっき喋れていたんだから、それはない。機械の調子が悪いとかじゃないだろうな。接触不良みたいな不具合なら笑ってしまう)
そんなことを考えている内に、入札がスタートした。
<はい、入札ゲームを担当するサイレント真実です。しばらくお付き合いくださいませ。皆さ~ん、元気ですかー?>
突然の司会進行交代に戸惑いの空気が流れる。最前までいたスタジオの中央付近には、こぶのある杖を持ち、真珠めいた光沢のある純白ドレスを着た女性のアバターが立っている。ただ、服はサイズがだいぶ大きめらしく、ぞろっとした印象があった。これでもしフードを被り、色味が暗色系だったのなら魔法使いか占い師に見えるかも。
キャラクターとしては西洋の若い女性で、金髪碧眼というやつだ。肌は、ドレスの真珠色とはまた別の白さがある。
(それにしても何ゆえ、ここに来て司会交代?)
バーチャルな世界に入る前はテーリン吹田、入ったあとはサイレント真実が受け持つということならまあ理にかなっているが、その辺りの説明が一切なしに進行していく。
(そもそも誰だよ、サイレント真実って。以前の吹田と同じく、無名のタレントか? もしかしたら作り物で、声も吹田が喋っているのを変換している、とかじゃないだろうか)
アバターでしか見ていないとそんな疑いも生じる。きりがない。ゲームに関係ないのであれば、切り捨てる方が効率的だろう。
<現在残っているカード、つまりこれからオークションに掛けられるカードを確認しておくね。はい、ぽん、と>
声に合わせて文字が表示される。仮想現実の世界に入っているからそれらしくということなのか、顔の前、手の届く距離に文字が出た。そこに透明なスクリーンでもあるかのようだ。
・二枚舌:二度解答できる権利
・クローズド:関係者を十名まで絞り込める
・検死観:被害者の死亡時刻を正確に知ることができる
・ノーライ、ノーライフ:事件に無関係な嘘を見抜ける
<各チーム、意中のカードがあるかもしれないけれども、ここで重大情報を発表しちゃうね。入札のヒントにしてね。このあとみんなが競う探偵ゲームにおいて、全く役に立たないくずカードがあるんだよねー>
これは確かに重大な意味を持つ情報だ。
「全く役に立たないということは……」
桐生は喋りながら考えを整理した。
「二度解答できる権利はいつだって有用だろうし、事件と関係のない嘘を把握できる“ノーライ、ノーライフ”も同様。となると事件関係者が最初っから十人未満か、殺人が衆人環視の中で行われたので死亡時刻が明々白々だとか、そういう場合が想定できるね」
「ええ。当たり前のことを言っていないで桐生さん、続きがあるみたいだから集中しなくちゃ」
ちゃきちゃきした調子で諭されてしまった。
(何だよ、素っ気ないな。まあ、音声が通じているのは確かめられたからいいか)
首を捻りながらも、桐生は司会進行の言葉に意識を再度集中させた。
<それから入札方法だけど、各チームとも男性が操作を行ってくださいね。相談するのはもちろん自由ですが、操作は男性のみの権利とさせていただきます。男尊女卑とかじゃありませんからね。何なら女王様の決定に下僕のように従って、入札してください。
えー、実際のところ、両者ともに入札できるシステムを装備しようとしたらバグが出ちゃって、修正が間に合わなかったので、こういうことになりました。はい、ここカットね。え? 無理?>
おちゃらけた調子で説明があったが、事実そうなのだろう。他に説明のしようがない。
(……いや、待てよ。チームの内のどちらか一人しか入札できないとしたって、男子に限る必然性はないんじゃないか)
桐生の脳裏に疑問が浮かんだ。が、これに対する納得のいく理由を見付ける前に、ゲームは先へ先へと急ぐ。
つづく
桐生は戸惑いを強く覚えた。その心の動きが多少表情に出たらしく、目の前の片薙すみれそっくりのアバターは小さくだがにやっと笑って、「冗談ですよ」と言ってのけた。
何はともあれ落ち着いたところで、桐生は自らのアバターがどうなっているのかを見ようとした。鏡がある訳ではないので、見下ろすくらいしかできないが、白い服を着ているのが分かった。
「おかしいな、いつの間にこんな服……そもそも選ぶ機会なんてなかったのに。女子だけの特典だったのかな? ああ、だから女子だけ時間が掛かって、なかなか出て来なかったのかな」
独り言を聞こえるように言ったつもりだったが、片薙すみれからは何の反応も返ってこなかった。
(まさか、ボタンを押しながらでないとパートナー間のやり取りはできない――いや、ついさっき喋れていたんだから、それはない。機械の調子が悪いとかじゃないだろうな。接触不良みたいな不具合なら笑ってしまう)
そんなことを考えている内に、入札がスタートした。
<はい、入札ゲームを担当するサイレント真実です。しばらくお付き合いくださいませ。皆さ~ん、元気ですかー?>
突然の司会進行交代に戸惑いの空気が流れる。最前までいたスタジオの中央付近には、こぶのある杖を持ち、真珠めいた光沢のある純白ドレスを着た女性のアバターが立っている。ただ、服はサイズがだいぶ大きめらしく、ぞろっとした印象があった。これでもしフードを被り、色味が暗色系だったのなら魔法使いか占い師に見えるかも。
キャラクターとしては西洋の若い女性で、金髪碧眼というやつだ。肌は、ドレスの真珠色とはまた別の白さがある。
(それにしても何ゆえ、ここに来て司会交代?)
バーチャルな世界に入る前はテーリン吹田、入ったあとはサイレント真実が受け持つということならまあ理にかなっているが、その辺りの説明が一切なしに進行していく。
(そもそも誰だよ、サイレント真実って。以前の吹田と同じく、無名のタレントか? もしかしたら作り物で、声も吹田が喋っているのを変換している、とかじゃないだろうか)
アバターでしか見ていないとそんな疑いも生じる。きりがない。ゲームに関係ないのであれば、切り捨てる方が効率的だろう。
<現在残っているカード、つまりこれからオークションに掛けられるカードを確認しておくね。はい、ぽん、と>
声に合わせて文字が表示される。仮想現実の世界に入っているからそれらしくということなのか、顔の前、手の届く距離に文字が出た。そこに透明なスクリーンでもあるかのようだ。
・二枚舌:二度解答できる権利
・クローズド:関係者を十名まで絞り込める
・検死観:被害者の死亡時刻を正確に知ることができる
・ノーライ、ノーライフ:事件に無関係な嘘を見抜ける
<各チーム、意中のカードがあるかもしれないけれども、ここで重大情報を発表しちゃうね。入札のヒントにしてね。このあとみんなが競う探偵ゲームにおいて、全く役に立たないくずカードがあるんだよねー>
これは確かに重大な意味を持つ情報だ。
「全く役に立たないということは……」
桐生は喋りながら考えを整理した。
「二度解答できる権利はいつだって有用だろうし、事件と関係のない嘘を把握できる“ノーライ、ノーライフ”も同様。となると事件関係者が最初っから十人未満か、殺人が衆人環視の中で行われたので死亡時刻が明々白々だとか、そういう場合が想定できるね」
「ええ。当たり前のことを言っていないで桐生さん、続きがあるみたいだから集中しなくちゃ」
ちゃきちゃきした調子で諭されてしまった。
(何だよ、素っ気ないな。まあ、音声が通じているのは確かめられたからいいか)
首を捻りながらも、桐生は司会進行の言葉に意識を再度集中させた。
<それから入札方法だけど、各チームとも男性が操作を行ってくださいね。相談するのはもちろん自由ですが、操作は男性のみの権利とさせていただきます。男尊女卑とかじゃありませんからね。何なら女王様の決定に下僕のように従って、入札してください。
えー、実際のところ、両者ともに入札できるシステムを装備しようとしたらバグが出ちゃって、修正が間に合わなかったので、こういうことになりました。はい、ここカットね。え? 無理?>
おちゃらけた調子で説明があったが、事実そうなのだろう。他に説明のしようがない。
(……いや、待てよ。チームの内のどちらか一人しか入札できないとしたって、男子に限る必然性はないんじゃないか)
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つづく
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