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「それって珍しい? 私が昔ファミレスでバイトしたとき、割とあったわよ。フォークに限らず、灰皿とか塩なんかがなくなった。記念品のつもりかしら」
「確かに。でもね、そのフォークが殺人に使われたなら、珍しいでしょうが」
殺人と聞いて、しばらく言葉に詰まる伊之上。珍しいと言うよりも、今後まずないんじゃないだろうか。
「まだ確認されてないから、公式発表を控えてるそうなんだけど、あんただけに教えてあげるね」
「無理に教えてもらわなくても。それに、喋っちゃだめなんじゃない?」
「いいから、いいから。K浜駅、知ってるでしょ? 割と近くだし」
「ええ。そういえば、K浜駅の近くで殺人事件が起きたとニュースでやってた」
事件が起きたのも有森と会った日の夜だった、と思い起こす伊之上。
「それよ。それの凶器が、うちのフォークらしいのよ」
「人殺しのために、フォークを持ち去ったお客さんがいるってこと?」
「お客さんとは限らないって、警察は思ってるみたいよ。私達も疑われたから」
理屈から言えば、それは致し方ない。怒りにまかせての突発的な犯行じゃあるまいし、わざわざ仕事場のフォークを凶器に使う犯人がいるとは考えにくいが、絶対にないとも言い切れまい。計画的にバイトに入り、フォークをくすねて殺しに用いるというケースも想定可能なのだから。
「事件後すぐ、バイトをやめた人っていないの?」
「そんなあからさまに怪しい奴なんて、どこにもいないわよ」
「じゃ、やっぱりお客さんの中かあ……私も疑われてる訳?」
「だったら面白いんだけど、そう単純じゃないみたいなのよ」
冗談めいた口吻の大澤。得意げに続けた。
「当日盗まれたフォークがそのまま使われたのかどうか、はっきりしないのよ。今までも何本かフォークがなくなってるから、そっちが使われた可能性も捨て切れないとか何とか」
「……ねえ、人を刺すなら、フォークよりもナイフを選ぶんじゃないかしら」
「うーん、人によりけりじゃない? うちのステーキ用ナイフ、大して鋭くないもの。見たことあるでしょ」
被害者がフォークでどのように殺されたのか、具体的には発表されていない。
「それにしても、フォークで人を殺すなんて、普通なら考え付かないわ」
「同感」
レストランで、声高に人殺しの話をする客は、さぞかし迷惑な存在だろう。
約ひと月後、伊之上は有森と再び会った。またも偶然の巡り合わせだったが、時刻の方は午後三時。今回おごる番の伊之上はコーヒー代だけで済んだ。
「あなたがフォークを盗んだんじゃないでしょうね。殺し屋だなんて言っていたし、怪しいよ」
初めて入った小さな喫茶店のコーヒーを味わいながら、未だ解決しない例の事件の話をしたあと、伊之上は相手に尋ねた。無論、冗談だ。
だが、有森は真顔が一層引き締まって、しばらく言葉が出ないでいた。
「有森君?」
「あ、いや、そいつのこと、知っているかもしれない」
「えっ、犯人を?」
「犯人そのものを知っている訳じゃないが、ネットの某掲示板でね。戯殺神――戯れに殺す神――と名乗り、他愛のない書き込みをする奴がいたんだ。もう一年以上前になるんじゃないかな。確か、レストランでくすねたフォークで人を殺した云々という内容もあった。当時、そんな殺人事件は起こっていなかったから、誰もが馬鹿にして相手にしなかったけど……」
「い、今はどうなの? その掲示板に戯殺神の書き込み」
「一年ほど前のその騒ぎを最後に、姿を消したよ。別の名前で居続けたってことも、なきにしもあらずだがね」
「とにかく、警察に言わないと……」
心配顔になった伊之上に対し、有森は首を横に振った。
「そんな古いログを保管してる掲示板じゃないからな。たとえあったとしても、犯罪の証拠になる訳でなし。掲示板を読んだ奴が、影響を受けて真似たという仮定もできる。君も通報はやめとけ」
疑問に感じないでもない伊之上だったが、よくよく考えてみると、かつて大げさにも戯殺神と名乗った人物が、実際に殺人を行って自己顕示せずにいられるとは思えない。便乗犯だとすれば、なおのこと戯殺神を名乗るであろう。
有森は軽く手を打って音を立てると、
「折角の再会に、人殺しの話が長々と続くのは似合わないと思う。異論は?」
と意向を尋ねた。
「これで異論あるなんて答えたら、まるで私が変人じゃない」
「いや、要するに、関係のない面倒に首を突っ込むのは、得てしてよくない結果をもたらすものだから、やめた方がいいってことさ」
「……じゃあ、小学生のあのときも、遠藤君に再勝負のお願いなんかせずに、『私はてんとう虫を助けたかっただけよ』って言えばよかったのかしらね」
「そこを突かれると、ちょっと痛いな」
有森は渋い表情を作って、コーヒーを飲み干した。そして水を向ける。
「それならせめて、君の好きな虫の話にしないか?」
――終&『戯殺神』To be continued.
「確かに。でもね、そのフォークが殺人に使われたなら、珍しいでしょうが」
殺人と聞いて、しばらく言葉に詰まる伊之上。珍しいと言うよりも、今後まずないんじゃないだろうか。
「まだ確認されてないから、公式発表を控えてるそうなんだけど、あんただけに教えてあげるね」
「無理に教えてもらわなくても。それに、喋っちゃだめなんじゃない?」
「いいから、いいから。K浜駅、知ってるでしょ? 割と近くだし」
「ええ。そういえば、K浜駅の近くで殺人事件が起きたとニュースでやってた」
事件が起きたのも有森と会った日の夜だった、と思い起こす伊之上。
「それよ。それの凶器が、うちのフォークらしいのよ」
「人殺しのために、フォークを持ち去ったお客さんがいるってこと?」
「お客さんとは限らないって、警察は思ってるみたいよ。私達も疑われたから」
理屈から言えば、それは致し方ない。怒りにまかせての突発的な犯行じゃあるまいし、わざわざ仕事場のフォークを凶器に使う犯人がいるとは考えにくいが、絶対にないとも言い切れまい。計画的にバイトに入り、フォークをくすねて殺しに用いるというケースも想定可能なのだから。
「事件後すぐ、バイトをやめた人っていないの?」
「そんなあからさまに怪しい奴なんて、どこにもいないわよ」
「じゃ、やっぱりお客さんの中かあ……私も疑われてる訳?」
「だったら面白いんだけど、そう単純じゃないみたいなのよ」
冗談めいた口吻の大澤。得意げに続けた。
「当日盗まれたフォークがそのまま使われたのかどうか、はっきりしないのよ。今までも何本かフォークがなくなってるから、そっちが使われた可能性も捨て切れないとか何とか」
「……ねえ、人を刺すなら、フォークよりもナイフを選ぶんじゃないかしら」
「うーん、人によりけりじゃない? うちのステーキ用ナイフ、大して鋭くないもの。見たことあるでしょ」
被害者がフォークでどのように殺されたのか、具体的には発表されていない。
「それにしても、フォークで人を殺すなんて、普通なら考え付かないわ」
「同感」
レストランで、声高に人殺しの話をする客は、さぞかし迷惑な存在だろう。
約ひと月後、伊之上は有森と再び会った。またも偶然の巡り合わせだったが、時刻の方は午後三時。今回おごる番の伊之上はコーヒー代だけで済んだ。
「あなたがフォークを盗んだんじゃないでしょうね。殺し屋だなんて言っていたし、怪しいよ」
初めて入った小さな喫茶店のコーヒーを味わいながら、未だ解決しない例の事件の話をしたあと、伊之上は相手に尋ねた。無論、冗談だ。
だが、有森は真顔が一層引き締まって、しばらく言葉が出ないでいた。
「有森君?」
「あ、いや、そいつのこと、知っているかもしれない」
「えっ、犯人を?」
「犯人そのものを知っている訳じゃないが、ネットの某掲示板でね。戯殺神――戯れに殺す神――と名乗り、他愛のない書き込みをする奴がいたんだ。もう一年以上前になるんじゃないかな。確か、レストランでくすねたフォークで人を殺した云々という内容もあった。当時、そんな殺人事件は起こっていなかったから、誰もが馬鹿にして相手にしなかったけど……」
「い、今はどうなの? その掲示板に戯殺神の書き込み」
「一年ほど前のその騒ぎを最後に、姿を消したよ。別の名前で居続けたってことも、なきにしもあらずだがね」
「とにかく、警察に言わないと……」
心配顔になった伊之上に対し、有森は首を横に振った。
「そんな古いログを保管してる掲示板じゃないからな。たとえあったとしても、犯罪の証拠になる訳でなし。掲示板を読んだ奴が、影響を受けて真似たという仮定もできる。君も通報はやめとけ」
疑問に感じないでもない伊之上だったが、よくよく考えてみると、かつて大げさにも戯殺神と名乗った人物が、実際に殺人を行って自己顕示せずにいられるとは思えない。便乗犯だとすれば、なおのこと戯殺神を名乗るであろう。
有森は軽く手を打って音を立てると、
「折角の再会に、人殺しの話が長々と続くのは似合わないと思う。異論は?」
と意向を尋ねた。
「これで異論あるなんて答えたら、まるで私が変人じゃない」
「いや、要するに、関係のない面倒に首を突っ込むのは、得てしてよくない結果をもたらすものだから、やめた方がいいってことさ」
「……じゃあ、小学生のあのときも、遠藤君に再勝負のお願いなんかせずに、『私はてんとう虫を助けたかっただけよ』って言えばよかったのかしらね」
「そこを突かれると、ちょっと痛いな」
有森は渋い表情を作って、コーヒーを飲み干した。そして水を向ける。
「それならせめて、君の好きな虫の話にしないか?」
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