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4.興味のきっかけ
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純子とお父さんは、顔を見合わせて、にっこり。
夕食の時間になりました。こちらに越してきてからは、三人そろって食べられるようになりました。純子だけでなく、みんなうれしいと思っているに違いありません。
「そうそう、おとうさまが来るの、今度の土曜日に決まったわ」
お母さんが箸を止めて言いました。
純子はいつもおかしく思います。お母さんが言う「おとうさま」とは、純子にとってはおじいちゃんなのです。それなのに、お母さんは「おとうさま」と言ったり、「おじいちゃん」と言ったりする。ときどき、純子は頭がこんがらがってしまいます。
「そうか。元気にしてたかな?」
お父さんがお母さんに聞きました。お父さんは、食べながら話をします。
「電話がふるえるくらい、大声だったわよ」
「はは、相変わらずだな。まあ、何よりだ」
「おじいちゃんが来るのね?」
割って入る純子。二人で勝手に話をされて、少し、面白くなかったせいもあります。だけど、おじいちゃんが好きだから、早く、そのことを確かめたい気持ちもありました。
「おお、そうだよ。いつもの通り、一週間ぐらい、いられるはずだ。だから、精一杯、甘えなさい」
お父さんは笑っています。
(おじいちゃんにとっては、いい迷惑じゃないかしら)
と、純子は覚えたばかりの言葉を、心の中で使ってみました。
それはともかくとして、おじいちゃんが来るなんて、タイミングがいいわと、純子は思いました。
なぜって、おじいちゃんは、色々と古い物について知っているのです。若いころ、「いせき」とか「古ふん」とかいう勉強もしていたんだと、教えられています。
「古ふん」と化石は違うことぐらい、純子も分かっていましたが、同じ地面を掘り返すのだから、何か教えてもらえるかもしれないと、今から期待してしまって仕方がありません。そもそも、純子が化石や恐竜に興味を持ったのだって、おじいちゃんが話をしてくれたからなのです。
土曜日が来るのが、待ち遠しくてたまらない。純子は、その日まで、中森君達には内緒にしておこうと、決めたのでした。
金曜日、別れ際に、純子は中森君に断っておくことにしました。
「今度、大人の人を連れて来てもいい?」
「大人?」
手をはたいていた中森君は、その動きを止めました。そして、視線を向けてきます。いつもより、ちょっとだけきびしいように感じられました。
「誰だい、その大人って」
「私のおじいちゃん」
視線をそらして答える純子。そして、そろそろと視線を戻し、相手の顔色をうかがってみます。
「おじいちゃん……。どうして、石原さんは連れて来たいの、その人を?」
「私に恐竜とか化石のことを教えてくれたの、おじいちゃんなの。川上君が持っているアンモナイトの化石を見てもらったら、何か分かるかもしれないし」
「そういうことなら、いいと思う。他のみんなも文句ないだろう」
中森君が笑って受け入れてくれたので、純子もほっとしました。どたんばぎりぎりだったけど、確認しておいて、やっぱりよかったと思います。
そして、待ち望んでいた土曜日が来ました。その朝、約束していた九時ちょうどに、純子のおじいちゃんは、純子の家にやって来たのです。
「大きくなったなあ」
純子が姿を見せると、おじいちゃんはそう言って、手を大きく広げました。胸に飛び込むと、軽々と抱きかかえられてしまいます。六十いくつになるおじいちゃんですが、元気いっぱいで、髪もひげも黒々としています。特に、ひげはお父さんのと違って、ふわふわしていて、くすぐったいくらい。
「おじいちゃん、お願いがあるんだけれど……」
来たばかりなので、さすがに遠慮がちに純子は言いました。
「ほお、何だね?」
純子を下ろしてくれながら、おじいちゃんは笑みを浮かべて聞いてくれます。
「これ、いきなり何を、わがまま言ってるんです」
お母さんから注意されてしまいました。味方になってくれるお父さんは、今日も会社で、今はいません。
「休んでもらわないと、おじいちゃんが疲れちゃうでしょうが」
「私はかまわないんだが、礼子さん」
おじいちゃんは、純子のお母さんを名前で呼びました。こういうときの呼び方にも、純子は何か変な感じがしてしまいます。ですが、今はそれどころじゃありません。
「おじいちゃんも言ってる」
お母さんへ抗議。
でも、今朝のお母さんは、簡単には引き下がりませんでした。
「休んでいただかないと、あとで何を言われるか分かりませんから。さあ」
お母さんはおじいちゃんの肩と手をにぎると、強引に家の中へと招き入れてしまいました。
「もうっ」
玄関先に一人残された純子は、ほっぺたをふくらませました。けれど、もうどうしようもなかったので、仕方なく、自分も家の中へと戻りました。
お母さんが家事に取りかかるまでの間、それは長かったです。お茶を出したり、世間話というものをしてみたりと、おじいちゃんと一緒にいようとしているみたいに思われてくるほどでした。
お母さんが部屋を出て行き、おじいちゃんが一人になったところを見はからって、純子は行動を開始しました。
「おじいちゃん、さっきの続きだけど……」
「おお、純ちゃん」
おじいちゃんは、純子のことをいつもそう呼びます。
「聞いてあげるよ。さあ、話してごらん」
そしておじいちゃんは、いつまでたっても純子を、小さい小さい子供だと思っているみたいです。純子は、小学校に入る前から、ずっと同じような口の聞き方しかしてもらえません。
(小学四年生になったんだから、もう少し、『おとな』として扱ってほしいわ)
純子はよく、そんな願いをします。口には出しませんが。
夕食の時間になりました。こちらに越してきてからは、三人そろって食べられるようになりました。純子だけでなく、みんなうれしいと思っているに違いありません。
「そうそう、おとうさまが来るの、今度の土曜日に決まったわ」
お母さんが箸を止めて言いました。
純子はいつもおかしく思います。お母さんが言う「おとうさま」とは、純子にとってはおじいちゃんなのです。それなのに、お母さんは「おとうさま」と言ったり、「おじいちゃん」と言ったりする。ときどき、純子は頭がこんがらがってしまいます。
「そうか。元気にしてたかな?」
お父さんがお母さんに聞きました。お父さんは、食べながら話をします。
「電話がふるえるくらい、大声だったわよ」
「はは、相変わらずだな。まあ、何よりだ」
「おじいちゃんが来るのね?」
割って入る純子。二人で勝手に話をされて、少し、面白くなかったせいもあります。だけど、おじいちゃんが好きだから、早く、そのことを確かめたい気持ちもありました。
「おお、そうだよ。いつもの通り、一週間ぐらい、いられるはずだ。だから、精一杯、甘えなさい」
お父さんは笑っています。
(おじいちゃんにとっては、いい迷惑じゃないかしら)
と、純子は覚えたばかりの言葉を、心の中で使ってみました。
それはともかくとして、おじいちゃんが来るなんて、タイミングがいいわと、純子は思いました。
なぜって、おじいちゃんは、色々と古い物について知っているのです。若いころ、「いせき」とか「古ふん」とかいう勉強もしていたんだと、教えられています。
「古ふん」と化石は違うことぐらい、純子も分かっていましたが、同じ地面を掘り返すのだから、何か教えてもらえるかもしれないと、今から期待してしまって仕方がありません。そもそも、純子が化石や恐竜に興味を持ったのだって、おじいちゃんが話をしてくれたからなのです。
土曜日が来るのが、待ち遠しくてたまらない。純子は、その日まで、中森君達には内緒にしておこうと、決めたのでした。
金曜日、別れ際に、純子は中森君に断っておくことにしました。
「今度、大人の人を連れて来てもいい?」
「大人?」
手をはたいていた中森君は、その動きを止めました。そして、視線を向けてきます。いつもより、ちょっとだけきびしいように感じられました。
「誰だい、その大人って」
「私のおじいちゃん」
視線をそらして答える純子。そして、そろそろと視線を戻し、相手の顔色をうかがってみます。
「おじいちゃん……。どうして、石原さんは連れて来たいの、その人を?」
「私に恐竜とか化石のことを教えてくれたの、おじいちゃんなの。川上君が持っているアンモナイトの化石を見てもらったら、何か分かるかもしれないし」
「そういうことなら、いいと思う。他のみんなも文句ないだろう」
中森君が笑って受け入れてくれたので、純子もほっとしました。どたんばぎりぎりだったけど、確認しておいて、やっぱりよかったと思います。
そして、待ち望んでいた土曜日が来ました。その朝、約束していた九時ちょうどに、純子のおじいちゃんは、純子の家にやって来たのです。
「大きくなったなあ」
純子が姿を見せると、おじいちゃんはそう言って、手を大きく広げました。胸に飛び込むと、軽々と抱きかかえられてしまいます。六十いくつになるおじいちゃんですが、元気いっぱいで、髪もひげも黒々としています。特に、ひげはお父さんのと違って、ふわふわしていて、くすぐったいくらい。
「おじいちゃん、お願いがあるんだけれど……」
来たばかりなので、さすがに遠慮がちに純子は言いました。
「ほお、何だね?」
純子を下ろしてくれながら、おじいちゃんは笑みを浮かべて聞いてくれます。
「これ、いきなり何を、わがまま言ってるんです」
お母さんから注意されてしまいました。味方になってくれるお父さんは、今日も会社で、今はいません。
「休んでもらわないと、おじいちゃんが疲れちゃうでしょうが」
「私はかまわないんだが、礼子さん」
おじいちゃんは、純子のお母さんを名前で呼びました。こういうときの呼び方にも、純子は何か変な感じがしてしまいます。ですが、今はそれどころじゃありません。
「おじいちゃんも言ってる」
お母さんへ抗議。
でも、今朝のお母さんは、簡単には引き下がりませんでした。
「休んでいただかないと、あとで何を言われるか分かりませんから。さあ」
お母さんはおじいちゃんの肩と手をにぎると、強引に家の中へと招き入れてしまいました。
「もうっ」
玄関先に一人残された純子は、ほっぺたをふくらませました。けれど、もうどうしようもなかったので、仕方なく、自分も家の中へと戻りました。
お母さんが家事に取りかかるまでの間、それは長かったです。お茶を出したり、世間話というものをしてみたりと、おじいちゃんと一緒にいようとしているみたいに思われてくるほどでした。
お母さんが部屋を出て行き、おじいちゃんが一人になったところを見はからって、純子は行動を開始しました。
「おじいちゃん、さっきの続きだけど……」
「おお、純ちゃん」
おじいちゃんは、純子のことをいつもそう呼びます。
「聞いてあげるよ。さあ、話してごらん」
そしておじいちゃんは、いつまでたっても純子を、小さい小さい子供だと思っているみたいです。純子は、小学校に入る前から、ずっと同じような口の聞き方しかしてもらえません。
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