化石の鳴き声

崎田毅駿

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3.夏休みの予定、決まり!

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 川上君は、あいかわらず、照れた様子で話を続けます。
「それで、このことをみんなに話したら、他にもあるかもしれない、掘ってみようってなって、夏休みになってから、ほとんど毎日、ここに来ているんだ」
「ふうん」
 純子は、他の三人の顔を、一通り見渡しました。みんな、得意そうな顔をしている感じに見えます。
「でも……あ、怒らない?」
 途中でせりふを止めて、純子は男子達の顔色をうかがってみました。
「怒らない、よっぽどじゃない限り」
 代表する形で答えたのは、中森君。
「ほんと? じゃあ、言うね。このアンモナイトだけで、いきなり恐竜の化石を目標としているの?」
「無茶だと思う?」
 と、中森君。
「無茶とまでは言わないけれど……。恐竜の化石って、そう簡単に見つかる物じゃないって、本に書いてあったから」
 純子は中森君の顔を見ました。どうしたことでしょう、彼は口元に笑みを浮かべているじゃありませんか。いいえ、彼だけじゃありません。川上君、木下君、鳥井君もゆかいそうなのです。
 純子は、不思議に思って、重ねてたずねました。
「何かおかしいこと、私、言った?」
「そうじゃなくて」
 中森君は、常にやさしい口調です。
「川やんに、もう一度、アンモナイトの化石を見せてもらいなよ。そうしたら、多分、分かるからさ」
 言われるがまま、純子は川上君に化石を出してもらいました。
「持ってみていい?」
「落とさないで」
 そう言われると、かえって緊張してしまうもの。そこで純子は、手にした化石をすぐに地面に置きました。こうすれば、手が震えても関係なく、化石を観察できます。
 じっと見ている内に、純子はあることに気付きました。アンモナイトのところどころが、欠けているのです。それも、小さな穴がいくつか開くような感じなのです。
「――この穴、ひょっとして、歯のあとじゃないの? 恐竜の歯型……」
「ぴんぽーん」
 木下君と鳥井君が、声を揃えて言いました。実に、にぎやかな調子です。
 それを受けて、川上君。
「僕らもそう思っているんだ。ちゃんと調べたんじゃないんだけど、その穴が恐竜の歯型だと信じて、こうして掘ってる。いつか、恐竜の化石を見つけるんだぞってね」
 説明を聞いて、純子も、とてもわくわくしてきました。今、自分が踏みしめている大地の下に、恐竜の化石が眠っているかもしれない。大昔、自由に動き回っていた、大きな生き物が……。
「ね、ね。アンモナイトをかんだってことは、えーっと、モササウルスだったかしら? そういう名前の恐竜になるのよね」
「それか、イクチオサウルスのような種類かもって、僕らは考えてるんだ」
 胸を張るように言う中森君。その一方で、純子が恐竜について思いのほか、くわしいことに、おどろきをかくしていません。
「お昼、食べたの?」
 純子は、自分がまだお昼ご飯を食べていなかったことを思い出して、みんなに聞いてみました。
「あ、そろそろ、家に一回、帰らないと」
 鳥井君が叫びました。どうやら、お母さんが恐いみたいです。
 他の男の子達も似たようなものらしく、あわてて、放り出していたかばんとか手提げに飛び付きます。
「石原さんも、帰るんだろ?」
 純子はうなずきました。
「今日は、二時ぐらいにまた集まるつもりなんだ。よかったら、見に来ない?」
「ぜひ!」
 中森君がさそってくれて、純子は思わず、大きな声で返事しました。
(化石かぁ……何だか、面白くなりそう)
 色々と空想しながら、純子はみんなと一緒に、坂を上り下りし始めました。

 その日の夕方、純子はお母さんから、しかられてしまいました。
「珍しく、外で遊んできたかと思ったら、こんなどろんこにしてくるなんて。いったい、どうしたの? あぶないところに行ったんじゃあ?」
 そうです。お昼ご飯を食べてから、すぐにまた、化石があるかもしれない、あの秘密の場所に行った純子は、一緒になって掘ってみたのです。
 最初、服が汚れないように注意していたんですが、だんだんと夢中になって、気にしなくなったのです。というのも、化石が見つからなくても、ミミズとか虫とか、前の街では簡単には見られなかった生き物が出てきて、あきが来ないというわけです。
 このことを話せば、多分、許してもらえるでしょう。だけど、話してしまうと、秘密の場所がどこなのかも言わなくてはならないかもしれません。そんな考えがあったので、純子は言い出せないでいました。
「どこで何をしていたの?」
 さっきから、お母さんは同じ質問ばかりくり返してきます。お母さんは純子に、「元気よく遊びなさい」と「女の子らしくなさい」という、同時にやるのはとても無理な言いつけをしてくるのです。
「なぜ、答えられないの、純子。だまっていないで、何とか言いなさい」
「……」
 純子がだまり続けていると、助けの声が入りました。
「いいじゃないか。ちゃんと約束の時間には、家に戻って来たんだろう?」
 お父さんです。いっつも、つかれたつかれたと言っていますが、こういうとき、純子の味方になってくれるから、大好きです。
「それはそうですけど……」
「ここは車も前ほど多くないし、外で遊んで、どろんこになって帰ってくるぐらいが、ちょうどいいんじゃないか。君だって言ってたろ、引っ越してくる前は、環境がよさそうで気に入ったって」
「……まあ、いいですわ」
 お母さんは、めんどうになったのか、途中であきらめてしまいました。
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