4 / 13
4.興味のきっかけ
しおりを挟む
純子とお父さんは、顔を見合わせて、にっこり。
夕食の時間になりました。こちらに越してきてからは、三人そろって食べられるようになりました。純子だけでなく、みんなうれしいと思っているに違いありません。
「そうそう、おとうさまが来るの、今度の土曜日に決まったわ」
お母さんが箸を止めて言いました。
純子はいつもおかしく思います。お母さんが言う「おとうさま」とは、純子にとってはおじいちゃんなのです。それなのに、お母さんは「おとうさま」と言ったり、「おじいちゃん」と言ったりする。ときどき、純子は頭がこんがらがってしまいます。
「そうか。元気にしてたかな?」
お父さんがお母さんに聞きました。お父さんは、食べながら話をします。
「電話がふるえるくらい、大声だったわよ」
「はは、相変わらずだな。まあ、何よりだ」
「おじいちゃんが来るのね?」
割って入る純子。二人で勝手に話をされて、少し、面白くなかったせいもあります。だけど、おじいちゃんが好きだから、早く、そのことを確かめたい気持ちもありました。
「おお、そうだよ。いつもの通り、一週間ぐらい、いられるはずだ。だから、精一杯、甘えなさい」
お父さんは笑っています。
(おじいちゃんにとっては、いい迷惑じゃないかしら)
と、純子は覚えたばかりの言葉を、心の中で使ってみました。
それはともかくとして、おじいちゃんが来るなんて、タイミングがいいわと、純子は思いました。
なぜって、おじいちゃんは、色々と古い物について知っているのです。若いころ、「いせき」とか「古ふん」とかいう勉強もしていたんだと、教えられています。
「古ふん」と化石は違うことぐらい、純子も分かっていましたが、同じ地面を掘り返すのだから、何か教えてもらえるかもしれないと、今から期待してしまって仕方がありません。そもそも、純子が化石や恐竜に興味を持ったのだって、おじいちゃんが話をしてくれたからなのです。
土曜日が来るのが、待ち遠しくてたまらない。純子は、その日まで、中森君達には内緒にしておこうと、決めたのでした。
金曜日、別れ際に、純子は中森君に断っておくことにしました。
「今度、大人の人を連れて来てもいい?」
「大人?」
手をはたいていた中森君は、その動きを止めました。そして、視線を向けてきます。いつもより、ちょっとだけきびしいように感じられました。
「誰だい、その大人って」
「私のおじいちゃん」
視線をそらして答える純子。そして、そろそろと視線を戻し、相手の顔色をうかがってみます。
「おじいちゃん……。どうして、石原さんは連れて来たいの、その人を?」
「私に恐竜とか化石のことを教えてくれたの、おじいちゃんなの。川上君が持っているアンモナイトの化石を見てもらったら、何か分かるかもしれないし」
「そういうことなら、いいと思う。他のみんなも文句ないだろう」
中森君が笑って受け入れてくれたので、純子もほっとしました。どたんばぎりぎりだったけど、確認しておいて、やっぱりよかったと思います。
そして、待ち望んでいた土曜日が来ました。その朝、約束していた九時ちょうどに、純子のおじいちゃんは、純子の家にやって来たのです。
「大きくなったなあ」
純子が姿を見せると、おじいちゃんはそう言って、手を大きく広げました。胸に飛び込むと、軽々と抱きかかえられてしまいます。六十いくつになるおじいちゃんですが、元気いっぱいで、髪もひげも黒々としています。特に、ひげはお父さんのと違って、ふわふわしていて、くすぐったいくらい。
「おじいちゃん、お願いがあるんだけれど……」
来たばかりなので、さすがに遠慮がちに純子は言いました。
「ほお、何だね?」
純子を下ろしてくれながら、おじいちゃんは笑みを浮かべて聞いてくれます。
「これ、いきなり何を、わがまま言ってるんです」
お母さんから注意されてしまいました。味方になってくれるお父さんは、今日も会社で、今はいません。
「休んでもらわないと、おじいちゃんが疲れちゃうでしょうが」
「私はかまわないんだが、礼子さん」
おじいちゃんは、純子のお母さんを名前で呼びました。こういうときの呼び方にも、純子は何か変な感じがしてしまいます。ですが、今はそれどころじゃありません。
「おじいちゃんも言ってる」
お母さんへ抗議。
でも、今朝のお母さんは、簡単には引き下がりませんでした。
「休んでいただかないと、あとで何を言われるか分かりませんから。さあ」
お母さんはおじいちゃんの肩と手をにぎると、強引に家の中へと招き入れてしまいました。
「もうっ」
玄関先に一人残された純子は、ほっぺたをふくらませました。けれど、もうどうしようもなかったので、仕方なく、自分も家の中へと戻りました。
お母さんが家事に取りかかるまでの間、それは長かったです。お茶を出したり、世間話というものをしてみたりと、おじいちゃんと一緒にいようとしているみたいに思われてくるほどでした。
お母さんが部屋を出て行き、おじいちゃんが一人になったところを見はからって、純子は行動を開始しました。
「おじいちゃん、さっきの続きだけど……」
「おお、純ちゃん」
おじいちゃんは、純子のことをいつもそう呼びます。
「聞いてあげるよ。さあ、話してごらん」
そしておじいちゃんは、いつまでたっても純子を、小さい小さい子供だと思っているみたいです。純子は、小学校に入る前から、ずっと同じような口の聞き方しかしてもらえません。
(小学四年生になったんだから、もう少し、『おとな』として扱ってほしいわ)
純子はよく、そんな願いをします。口には出しませんが。
夕食の時間になりました。こちらに越してきてからは、三人そろって食べられるようになりました。純子だけでなく、みんなうれしいと思っているに違いありません。
「そうそう、おとうさまが来るの、今度の土曜日に決まったわ」
お母さんが箸を止めて言いました。
純子はいつもおかしく思います。お母さんが言う「おとうさま」とは、純子にとってはおじいちゃんなのです。それなのに、お母さんは「おとうさま」と言ったり、「おじいちゃん」と言ったりする。ときどき、純子は頭がこんがらがってしまいます。
「そうか。元気にしてたかな?」
お父さんがお母さんに聞きました。お父さんは、食べながら話をします。
「電話がふるえるくらい、大声だったわよ」
「はは、相変わらずだな。まあ、何よりだ」
「おじいちゃんが来るのね?」
割って入る純子。二人で勝手に話をされて、少し、面白くなかったせいもあります。だけど、おじいちゃんが好きだから、早く、そのことを確かめたい気持ちもありました。
「おお、そうだよ。いつもの通り、一週間ぐらい、いられるはずだ。だから、精一杯、甘えなさい」
お父さんは笑っています。
(おじいちゃんにとっては、いい迷惑じゃないかしら)
と、純子は覚えたばかりの言葉を、心の中で使ってみました。
それはともかくとして、おじいちゃんが来るなんて、タイミングがいいわと、純子は思いました。
なぜって、おじいちゃんは、色々と古い物について知っているのです。若いころ、「いせき」とか「古ふん」とかいう勉強もしていたんだと、教えられています。
「古ふん」と化石は違うことぐらい、純子も分かっていましたが、同じ地面を掘り返すのだから、何か教えてもらえるかもしれないと、今から期待してしまって仕方がありません。そもそも、純子が化石や恐竜に興味を持ったのだって、おじいちゃんが話をしてくれたからなのです。
土曜日が来るのが、待ち遠しくてたまらない。純子は、その日まで、中森君達には内緒にしておこうと、決めたのでした。
金曜日、別れ際に、純子は中森君に断っておくことにしました。
「今度、大人の人を連れて来てもいい?」
「大人?」
手をはたいていた中森君は、その動きを止めました。そして、視線を向けてきます。いつもより、ちょっとだけきびしいように感じられました。
「誰だい、その大人って」
「私のおじいちゃん」
視線をそらして答える純子。そして、そろそろと視線を戻し、相手の顔色をうかがってみます。
「おじいちゃん……。どうして、石原さんは連れて来たいの、その人を?」
「私に恐竜とか化石のことを教えてくれたの、おじいちゃんなの。川上君が持っているアンモナイトの化石を見てもらったら、何か分かるかもしれないし」
「そういうことなら、いいと思う。他のみんなも文句ないだろう」
中森君が笑って受け入れてくれたので、純子もほっとしました。どたんばぎりぎりだったけど、確認しておいて、やっぱりよかったと思います。
そして、待ち望んでいた土曜日が来ました。その朝、約束していた九時ちょうどに、純子のおじいちゃんは、純子の家にやって来たのです。
「大きくなったなあ」
純子が姿を見せると、おじいちゃんはそう言って、手を大きく広げました。胸に飛び込むと、軽々と抱きかかえられてしまいます。六十いくつになるおじいちゃんですが、元気いっぱいで、髪もひげも黒々としています。特に、ひげはお父さんのと違って、ふわふわしていて、くすぐったいくらい。
「おじいちゃん、お願いがあるんだけれど……」
来たばかりなので、さすがに遠慮がちに純子は言いました。
「ほお、何だね?」
純子を下ろしてくれながら、おじいちゃんは笑みを浮かべて聞いてくれます。
「これ、いきなり何を、わがまま言ってるんです」
お母さんから注意されてしまいました。味方になってくれるお父さんは、今日も会社で、今はいません。
「休んでもらわないと、おじいちゃんが疲れちゃうでしょうが」
「私はかまわないんだが、礼子さん」
おじいちゃんは、純子のお母さんを名前で呼びました。こういうときの呼び方にも、純子は何か変な感じがしてしまいます。ですが、今はそれどころじゃありません。
「おじいちゃんも言ってる」
お母さんへ抗議。
でも、今朝のお母さんは、簡単には引き下がりませんでした。
「休んでいただかないと、あとで何を言われるか分かりませんから。さあ」
お母さんはおじいちゃんの肩と手をにぎると、強引に家の中へと招き入れてしまいました。
「もうっ」
玄関先に一人残された純子は、ほっぺたをふくらませました。けれど、もうどうしようもなかったので、仕方なく、自分も家の中へと戻りました。
お母さんが家事に取りかかるまでの間、それは長かったです。お茶を出したり、世間話というものをしてみたりと、おじいちゃんと一緒にいようとしているみたいに思われてくるほどでした。
お母さんが部屋を出て行き、おじいちゃんが一人になったところを見はからって、純子は行動を開始しました。
「おじいちゃん、さっきの続きだけど……」
「おお、純ちゃん」
おじいちゃんは、純子のことをいつもそう呼びます。
「聞いてあげるよ。さあ、話してごらん」
そしておじいちゃんは、いつまでたっても純子を、小さい小さい子供だと思っているみたいです。純子は、小学校に入る前から、ずっと同じような口の聞き方しかしてもらえません。
(小学四年生になったんだから、もう少し、『おとな』として扱ってほしいわ)
純子はよく、そんな願いをします。口には出しませんが。
0
あなたにおすすめの小説
ゼロになるレイナ
崎田毅駿
児童書・童話
お向かいの空き家に母娘二人が越してきた。僕・ジョエルはその女の子に一目惚れした。彼女の名はレイナといって、同じ小学校に転校してきて、同じクラスになった。近所のよしみもあって男子と女子の割には親しい友達になれた。けれども約一年後、レイナは消えてしまう。僕はそのとき、彼女の家にいたというのに。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
隣のじいさん
kudamonokozou
児童書・童話
小学生の頃僕は祐介と友達だった。空き家だった隣にいつの間にか変なじいさんが住みついた。
祐介はじいさんと仲良しになる。
ところが、そのじいさんが色々な騒動を起こす。
でも祐介はじいさんを信頼しており、ある日遠い所へ二人で飛んで行ってしまった。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる