化石の鳴き声

崎田毅駿

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2.石になった大昔のこと

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 純子をちゃんと立たせてくれてから、中森君は言いました。純子を見るとき、彼は笑顔を絶やしません。
「あんなところで、何を見ていたんだ?」
 さっき純子がかくれていた岩を指差しながら、四人目の男子が聞いてきます。この男子の名前も、純子は覚えていました。川上かわかみ君です。下の名前は忘れていたけれど。
「あ、あの、何をしているのかなと思って」
 どぎまぎして答える純子。四人の男の子に囲まれる形になったのだから、無理もありません。前の学校では、純子は活発な子で通っていたのですが、こちらにはまだまだ、なじめていないのです。
「どうしよう?」
 中森君が他の三人を見ました。
「秘密の場所だぞ、ここ」
 一人が言いました。
(あれだけ騒ぎ声を出していたのに、秘密だなんて……)
 純子はおかしくなってしまいます。
「別にいいんじゃない、教えても」
「秘密にするって、約束したろ」
「そりゃあさあ、他の男には教えないって決めてたけど、女子に教えないなんて、一言も約束していないよ」
 にっこりと笑ったのは、中森君。
「あのときは、まさか、女子がこんなところに来るとは思ってなかったんだ」
 そういう具合に反対するのもいましたが、結局、中森君の意見が通りました。
「あのね、石原さん。これから言うこと、他の人には一応、ないしょにしといてほしいんだけど」
 頭に片手をやりながら、中森君。
「いいわよ、約束する。今んとこ、おしゃべりする相手も少ないし」
 純子のこの答に、男子全員が苦笑いするみたいな顔になりました。
「そうかもしれない。それじゃ、言うけど、ここ……ほねが出るんだ」
「ほ、ほね?」
 中森君の言い方がどことなくおどかす調子だったので、純子は思わず、自分の腕を抱きしめ、身ぶるいしてしまいます。
「そんな言い方じゃ、だめだ」
 声の方を見れば、川上君が、笑いをこらえるようにしています。
「石原さん、恐がることなんか、これっぽちもない。明弘が言ったほねっていうのは、化石のことなんだ」
「化石……」
「そう。化石って、分かるだろ?」
「え、ええ」
 うなずく純子。その目は、新しい興味を見つけて、かがやいているようです。
「化石が、ここにあるの? すごい!」
 手を合わせて、大声で叫んでしまった。
 とたんに、男子みんながしーっ。
「大声、出すなって。聞こえたらこまる」
 男子の一人が言いました。
「ご、ごめんなさい。で、でも、私、中森君達が騒いでいる声を聞いて、こっちに来たんだけれど……」
 これには、男子全員、顔を見合わせてしまいました。
「おい、木下きのした。人のこと言えないじゃないか。おまえの声がでかいんだな、きっと」
 中森君が、さっき純子をたしなめた男の子――どうやら木下という名前みたいです――に対し、からかうように言いました。
「お、俺だけじゃないったら。川やんも、鳥井とりいも、それに明弘、おまえだって」
「まあ、それはお互いの責任だよ」
 なだめるように、川上君。彼のあだ名は、川やんというみたいです。
 それから不意に、川上君は純子の方を振り返りました。
「他に誰もいなかった?」
「うん……多分」
 純子の答に、みんな安心した様子です。純子も何だかほっとしました。仲間に入れてもらえたからかもしれません。
「ね、どんな化石が見つかるの?」
 純子は、彼らが掘り返していた場所を見ながら、聞いてみた。
 やり残した仕事を思い出したみたいに、みんなも掘っていた場所を見つめます。その中で、川上君が答えました。
「目標は恐竜の化石だけど」
「恐竜が見つかるの?」
「だから、それは目標で」
 慌てたように否定する川上君です。
「だったら、何が見つかっているの? 見せてもらいたいなあ」
 純子が頼むと、川上君は中森君達に目で合図を送るようなそぶりを見せました。木下君ともう一人の鳥井君は、仕方ないという顔です。中森君は、ただ笑ってうなずくばかり。
「現在、見つかっているのは……」
 川上君が、半ズボンの後ろポケットの中をごそごそとやり始めました。さほど待たずに、その手は、純子の前に差し出されてきました。
「これだけなんだ」
 彼の右手が開かれると、そこには、トランプぐらいの大きさの、平べったい感じの石がありました。その表面の大部分には、巻き貝みたいな模様が入っています。石全体の色はクリーム色に近く、巻き貝の模様の方は、こげ茶色と言えるでしょうか。
「これ……アンモナイトね?」
 純子が答えてみせると、川上君も中森君も、みんなびっくりした表情をしています。
「知ってるの?」
 中森君が、身を乗り出すようにしてきました。
 純子は、ほめられたような気がして、うれしさで顔がほころびました。
「うん。ブームって言われる前から、恐竜とか化石とか、興味あったの」
「へえ」
 感心したような声が上がります。
 純子をあまり歓迎していなかったらしい、木下君と鳥井君の二人も同様です。
「誰が見つけたの、この化石?」
「川やんさ」
 中森君に手で示されると、川上君は少し、照れたような表情を見せました。
「どんな風にして? 教えて!」
「聞かれても、特別なことはなくて……。いきなり、こんなところを意味もなしに掘り返すわけない。七月の最初の頃の日曜日だったと思うけど、何となく、探険のつもりで歩いていたんだ。そしたら、ふっと目が行って……。よく見てみたら、これがあったというだけなんだ」
「それでもすごいわ。地面に落ちていた石の中から、これを見つけるなんて」
 感激して、手を叩く格好をする純子です。
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