化石の鳴き声

崎田毅駿

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5.決まりごと

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「これね、内緒なんだけど」
「内緒なら、おじいちゃんも誰にも話さない。約束しよう」
「ここって、近くに山がいっぱいあるでしょう?」
「うん、あるねえ」
 おじいちゃんは、窓の外の景色を眺めました。
「それで、その中の一つの、ある場所で、私達、化石を掘ってるの」
「化石だって。そりゃあ、すごいなあ」
 目も口も丸くして、驚いている様子のおじいちゃん。
 純子はうれしくなって、続きをしゃべろうとしました。けれど、おじいちゃんの口の方が早かったのです。
「先に、聞かせておくれ。今、『私達』と言ったね。純ちゃんの他に、誰々さんがいるのかな?」
「えっと、中森君に川上君、木下君、鳥井君。私を入れて五人だけの秘密なの」
「ほほう、純子の他は、男の子ばかりなんだ。ずいぶん、活発に遊んでいるみたいで、結構結構」
 女の子らしくしなさいと口うるさいお母さんと違って、おじいちゃんは感心してくれました。こんなところも、純子がおじいちゃんを好きになる理由の一つです。
「それでね、おじいちゃん。川上君が最初、アンモナイトの化石を見つけたの。それに恐竜の歯型みたいなのが残っていて、きっと、恐竜の化石があそこにはあると思うわ」
 純子の話を、最初は笑って聞いていたおじいちゃんでしたが、段々と真剣な表情になってきたようです。
「本当かね?」
「嘘じゃないもん」
 純子がふくれてみせると、あわてたようにおじいちゃんは声をおろおろさせました。
「いやいや、疑ってるんじゃないんだ。許しておくれ、純ちゃん」
「別に怒ってないよ」
 純子の言葉に、おじいちゃんはほっとした表情。
「ありがとう。それで、その化石、今はどうしているんだい?」
「川上君が持っているわ。見つけた人が持っているのが、当然でしょう?」
「うん、まあ、そうだね。大人の人――先生とかには見せなかったのかな?」
「見せてないみたい。秘密だから」
「そうか」
「それで、私、その化石をおじいちゃんに見てもらおうと思って」
 純子は、いよいよ言いたいことを口に出しました。
「ほほう?」
「おじいちゃんだったら、よく地面を掘っているんだし、化石とか恐竜とかについて、私に教えてくれたから、詳しいんじゃないかなって、そう思ったの」
「それは、光栄だなあ」
 目を細めるおじいちゃんです。
「まあ、おじいちゃんはいせきとか古ふんが主で、そちらは専門家じゃないんだけど……独学でやっていたからね」
「『どくがく』って?」
 意味が分からない難しい言葉に、純子は質問をはさみました。
「毒薬の勉強をすること?」
「あはは、それは違うよ。先生には教えてもらわずに、自分の力で勉強すること。これを独学と言うんだ」
「ふうん。大変そう……」
 自分だけで勉強するというのが、純子には想像もつきません。
「確かに、大変な点もあるけれど、好きなことだった、楽しくやれるんだ。おじいちゃんもね、考古学――これは、いせきとかを調べる学問だよ――をやる一方で、化石の研究なんかにも未練があって、独学で勉強したんだ。だから、そのアンモナイトの化石を見たって、正式な判断はとても無理だろうけど、何か分かるかもしれないね」
 どうやら、おじいちゃんも乗り気になっているようです。
「だったら、今日の二時に、一緒に出かけましょ。秘密の場所にみんなで集まって、掘っているの。そのとき、川上君が化石を持ってくるはずだから」
「面白そうだ。ぜひ、見たいな。ただし」
 おじいちゃんが引き受けてくれて喜んでいた純子は、緊張しました。
「……ちゃんとした道具を持っていこう。きっと、純ちゃん達は、小さいスコップかなんかで手当たり次第に掘っているんだろう?」
「うん。なかなか進まなくて」
「貴重な化石が本当にありそうなら、それをこわしてもいけないからね。最低限、ハケとか虫めがねとかを用意したい」
「それだったら、家にある」
 純子は立ち上がって、すぐにでも持って来ようとしました。でも、おじいちゃんに止められました。
「秘密なんだろう? だったら、お母さんにも気付かれないように、何気なく道具を集めようね」
 なるほど。純子は納得しました。
「ところで、純ちゃん」
 おじいちゃんは話題をかえたようです。
「本来ならば、大人の人に知らせて、ちゃんとした発掘をしてもらうのがいいんだ。さっきも言ったけれど、化石をこわさないためにもね。それから、掘っている場所が、もし、誰かの持っている土地だったら、その人から許可をもらわないといけないんだ。分かるよね? 純ちゃんだって、お庭を勝手に掘り返されたらいやだろう?」
「いやよ」
 純子は大きくうなずきました。
「山の土地も同じことなんだ。塀とか柵がなくてもね。そういった意味で、大人みんなに知らせたいんだけど……。だめなのかな?」
「……私に言われたって……困る」
 おじいちゃんに見つめられ、下を向いた純子。
「私一人で決められないし」
「他の男の子達は、今のところ、当然、反対するだろうね」
「そう思うわ」
「だったら、純ちゃんがみんなを説得してくれないかな」
「説得……?」
「そう。無理矢理に、純ちゃん達の秘密を明らかにするつもりはないんだよ。みんなでよく話し合って、自分達の考えで。ね?」
「……分かった。うん、やってみる」
 純子は力を込めて返事しました。
 おじいちゃんの表情に、笑顔が戻ります。
「そんなに力を入れなくてもいいんだよ。まあ、とにもかくにも、そのアンモナイトを見せてもらってからにしよう。恐竜の歯型じゃなかったら、少し、状況が変わるかもしれないしね」
 おじいちゃんの言葉に対して、純子は、そんなことないもん、と思いました。
(あれは絶対、恐竜の歯のあとよ、おじいちゃん。私、信じてる)
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