化石の鳴き声

崎田毅駿

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7.夢と現実

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 おじいちゃんの方は、落ち着いたもの。できるだけ、おだやかに話を収めようと努力します。
「そうだ。太田仁一郎おおたじんいちろうと言えば、分かるだろう」
 男の人は、胸をそらしました。何だか嫌な態度です。
「いや、あい、すみませんですな。私はこの土地の者じゃないので、存じません」
「……ふん」
 太田は鼻を鳴らすと、仕方がないなという具合に腕組みをしました。それから、じろりと、純子達の方をにらんできます。
 少し恐かったのですが、純子も中森君達も、目をそらしません。
(いきなり怒鳴るなんて、ひどい。いくら、自分の土地だからって……)
 純子は、そんな反感を抱いていました。
 太田は、おじいちゃんの方へと顔を戻しました。
「自分で言うのも何だがね。この町の開発を一手に引き受けているのだよ、我が太田開発は。山林なども、ほとんどがうちの物なんだ」
「それはそれは……」
「ところで、あんた、何をしていたんだ?」
 じろじろとおじいちゃんの全身を眺め、さらには純子達の様子も探るように見てくる太田。
「発掘ですよ」
 おじいちゃんの返答に、太田は首をひねります。
「発掘? 何かね、お宝でも埋まっているのか?」
「まあ、宝と言えば宝ですが……」
 おじいちゃんは、純子達の方を見やってきました。
 そのとき、我慢できなくなったかのように、中森君が叫びました。
「化石だよ! 恐竜の化石があるんだ」
「化石だって?」
 理解できないという風に、太田は首を何度も横に振っています。
「あんた、学者か何かか?」
「学者には違いありませんが……化石は専門外でして」
 素直に、おじいちゃんは打ち明けました。
 太田は、ほっとした表情になって、声を大きくしたようです。
「はっ! 素人か。全く、あんたらみたいなのが、一番、質が悪い。――大昔の動物の骨なんか、探してどうするんだ?」
「それだけで、充分に素晴らしいことじゃありませんかな」
 おじいちゃんは、両手を広げました。
「太古、我々の全く知らぬ巨大生物が生きて、この地球を我が物顔に独占していた。その証拠である化石が、この下に眠っているかと想像するだけで、楽しくなってくるんですがね、私なんかは。この子供達だってそうですよ」
 純子達五人を示すおじいちゃん。
「どうか、ここを発掘する許可をいただけないものでしょうかな」
 おじいちゃんが頭を下げました。
 ところが、太田は鼻で笑ったのです。純子は、ますます腹が立って、仕方がありません。
(何よ。どうして、分からないの。恐竜や化石の素晴らしさを!)
「残念ながら、私は現実主義でね」
 口元をゆがめながら、太田は続けます。タバコを取り出すと、口にくわえてから、火を着けました。
「そんな金にならない化石なんて物に、興味はない」
「恐竜の化石が見つかれば、この町も有名になりますよ、きっと」
「見つかればの話じゃないか。あやふやな話に、耳を貸す余裕はない」
「根拠はあるんですぞ」
 さすがのおじいちゃんも、段々と熱くなってきたみたいです。表情が厳しくなり、額に浮かぶ汗は、夏の日差しのせいばかりではないでしょう。
「ここで見つかったアンモナイトの化石……そこには、恐竜の歯型と思われる穴があったのです」
「いい加減にしてくれ」
 有無を言わさぬ態度とはこのことです。太田は、一喝してきました。
「何と言われようとも、ここは私の土地だ」
 タバコの灰をまき散らしながら、太田は強く主張します。
「私が全ての権利を握っているのだ。その私がだめだと言ったらだめなんだ。いいですかな、今後、ここへの立ち入りは一切、認めない。まあ、すでに持ち出した、アンモ何とかの化石ぐらい、差し上げましょう」
 これで充分だろう。太田の表情は、そんな風に見えました。
「どうしても、ですか」
 おじいちゃんは粘ります。背中から、純子達も応援です。
「どうしても、だ」
 太田はタバコの吸殻を地面に落とすと、足で踏み消しました。
「そんなに反対するからには、この土地には、差し迫った開発の予定があるのですか?」
 おじいちゃんは顔をしかめながら、聞きます。
「……いや、差し当たってはない。いずれ、立派な建物を建てるつもりだがね。何にしても、あんたらみたいな素人に掘り返されるのは、我慢ならないんだよ。昔、開発中に、こんなことがありましてねえ。土地をならしているときに、何とか時代の古ふんが見つかって、そこの教育委員会が開発にストップをかけてきた。おかげで我が社は大損害をこうむった。もう二度と、あんな目にあうのはごめんだね」
「文化、あるいは社会に貢献したことは、世間が認めていますよ」
「そんなこと、一文にもならない。百の尊敬よりも、一円の方がありがたいね、私にとったら」
 とりつく島がありません。太田は、純子達を追い払う仕種を始める始末です。
「さあさあ、帰ってくれ。あんまりしつこいと、警察を呼びますよ。不法侵入には違いないんだ」
「何よ、人を泥棒みたいに!」
 とうとう、純子も堪忍袋の緒が切れました。
「あなたなんか、偉そうにしたって、本当はちっとも偉くないって分かるわ。恐竜の化石が見つかるなんて、特に日本では、すごいことなんだから。それが分からないなんて!」
 太田の顔色が変わりかけました。
 そのとき、おじいちゃんが――。
「やめなさい、純子」
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