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9.中森君からの電話
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「分かっとりますよ」
陽気に受け合うおじいちゃんです。
「それに、今のところ、私一人が動き回るだけですからな。安心しといてください。純ちゃん、おじいちゃんが帰ってくるのは明日になると思うけど、それまで、無茶はしないようにね」
「うん」
おじいちゃんに余計な気をつかわせたくないこともあって、純子は元気よく返事。でも、心の中では、ちょっとぐらい、あの秘密の場所へ様子を見に行きたいなと考えているのですが。
電話で呼んだタクシーに乗って、おじいちゃんは駅へと向かいました。
その車を見送ってから、純子は一人、部屋に入りました。おじいちゃんに言われた通り、大人しくしていようと思うんですが、どうにも落ち着きません。その内、居ても立ってもいられなくなってきました。
(こうしている間も、あそこの土が、もう掘り返されてるんじゃないかって、思えてきちゃう)
学級名簿を調べて、純子は一人の名前を見つけました。中森明弘君の名前です。指をすっと横にずらし、電話番号を確認。その数字を暗記してから、純子は、そっと電話のある廊下へと出ました。お母さんに内緒で、電話したい。話を聞かれると、ややこしいかなと考えたからです。
受話器を取り上げ、ゆっくりとボタンを押していきます。ボタンを押すたびに、小さな音がします。聞こえるはずないんですが、その音さえお母さんに聞こえるんじゃないかと、びくびくしてしまいました。
加えて、初めての家に電話するというのが、緊張を呼びます。
とぅるとぅる。呼出し音が何回か続いたあと、がちゃっ耳障りな音が。
「あ、あの、中森さんですか」
あわてて言った純子の言葉と、向こうの、
「はい、中森ですが」
という言葉が重なって、わけが分からなくなります。その次の瞬間には、つい、二人ともだまってしまいました。
「……あの、中森君?」
さっきの聞き覚えある声から、中森明弘君本人が出たのだと判断し、純子はそう聞いてみました。
「そうだけど……」
すぐに返事がありました。そして続けて、聞いてきます。
「……ひょっとして、石原さん?」
「あ、そうよ。分かる?」
声だけで気付いてくれた。純子はうれしくなりました。
「分かるよ、もちろん。それで、何?」
「あれからおじいちゃん、専門家の人を呼びに、出かけていったの」
「素早いなあ」
「それで、帰ってくるまでは無茶なことしないようにって言われてるんだけど、やっぱり、心配になってきちゃって」
「太田って人が、予定を早めるかもってことかい?」
「そう。だけど、ずっと見張るわけにもいかないでしょ。どうすればいいのかなって、相談したくて」
ここで純子は、一度、お母さんのいる部屋の方を振り返りました。何も気付いた様子はありません。これで安心して、話を続けられます。
「相談と言われても……難しいなあ。でも、多分、大丈夫だよ」
「どうして、そう言えるの?」
「だって、太田開発の人は、僕らが大人しく引き下がったと、信じていると思うんだ。信じている内は、予定を早めるなんて、しないんじゃないか」
「言われてみれば……それもそうね」
目の前に中森君がいるかのように、純子はうなずきました。けれど、少しだけ、不安は残ったままなのですが。
「あんまり、心配したって、しょうがないよ。今はさ、君のおじいちゃんが専門の人を連れて来てくれるのを、待つしかないと思う。そのあと、工事中止になるように、僕らも力を合わせなきゃ。ね?」
「うん、そうよね」
純子が言ってから、しばらく静かになりました。
「……石原さん、もう、慣れた?」
「え?」
「い、いや、学校には慣れたのかなって」
電話を通じて、中森君の照れた様子が伝わってくるようです。
ほほえみながら、純子は答えます。
「ありがとう。うん、もう慣れたよ。もう少し、友達、増やしたいんだけど」
「僕らがいる」
「あは、そうじゃなくて、女の子の方の友達。何だか知らないけど、うまくいかなくて」
「女子のことは……分からないや」
多少、ぶっきらぼうな台詞。でも、こちらのことを考えてくれる気持ちは、
充分、伝わってきました。
「まあ、もうしばらく、がんばる。友達は作るんじゃなくて、なるものだって、テレビのドラマでやっていたし」
「あ、そのドラマ――」
中森君も同じドラマを見ていたようです。それからしばらく、ドラマの話題で盛り上がってから、話は終わりました。
最初、かけようと思った目的とは別の意味で、純子は、電話してよかったと、楽しい気分になれたのでした。
そのあと、純子は、わずかに残っていた不安を吹き飛ばそうと、頭を強く振りました。
夜です。純子みたいな小学生にとっては、もう寝る時間。
ここに越してきたばかりの頃、純子はなかなか寝付けない夜が続きました。前と比べて、あまりにも静かすぎるからです。意識していなかったのですが、少しぐらいの騒音があった方が、ぐっすりと眠ることができるみたいなのです。
それも、最近になって、純子も慣れました。以前と同じように、普通の日ならば、ベッドにもぐり込んでから十分以内に、たいてい眠たくなってきます。
ところが、今夜は違いました。なかなか、眠たくなりません。夏休みに入って、少し不規則な生活になっていること、それに恐竜の化石のことの二つが、眠れない原因なのでしょう。
それでも、目をつむっていると……。
陽気に受け合うおじいちゃんです。
「それに、今のところ、私一人が動き回るだけですからな。安心しといてください。純ちゃん、おじいちゃんが帰ってくるのは明日になると思うけど、それまで、無茶はしないようにね」
「うん」
おじいちゃんに余計な気をつかわせたくないこともあって、純子は元気よく返事。でも、心の中では、ちょっとぐらい、あの秘密の場所へ様子を見に行きたいなと考えているのですが。
電話で呼んだタクシーに乗って、おじいちゃんは駅へと向かいました。
その車を見送ってから、純子は一人、部屋に入りました。おじいちゃんに言われた通り、大人しくしていようと思うんですが、どうにも落ち着きません。その内、居ても立ってもいられなくなってきました。
(こうしている間も、あそこの土が、もう掘り返されてるんじゃないかって、思えてきちゃう)
学級名簿を調べて、純子は一人の名前を見つけました。中森明弘君の名前です。指をすっと横にずらし、電話番号を確認。その数字を暗記してから、純子は、そっと電話のある廊下へと出ました。お母さんに内緒で、電話したい。話を聞かれると、ややこしいかなと考えたからです。
受話器を取り上げ、ゆっくりとボタンを押していきます。ボタンを押すたびに、小さな音がします。聞こえるはずないんですが、その音さえお母さんに聞こえるんじゃないかと、びくびくしてしまいました。
加えて、初めての家に電話するというのが、緊張を呼びます。
とぅるとぅる。呼出し音が何回か続いたあと、がちゃっ耳障りな音が。
「あ、あの、中森さんですか」
あわてて言った純子の言葉と、向こうの、
「はい、中森ですが」
という言葉が重なって、わけが分からなくなります。その次の瞬間には、つい、二人ともだまってしまいました。
「……あの、中森君?」
さっきの聞き覚えある声から、中森明弘君本人が出たのだと判断し、純子はそう聞いてみました。
「そうだけど……」
すぐに返事がありました。そして続けて、聞いてきます。
「……ひょっとして、石原さん?」
「あ、そうよ。分かる?」
声だけで気付いてくれた。純子はうれしくなりました。
「分かるよ、もちろん。それで、何?」
「あれからおじいちゃん、専門家の人を呼びに、出かけていったの」
「素早いなあ」
「それで、帰ってくるまでは無茶なことしないようにって言われてるんだけど、やっぱり、心配になってきちゃって」
「太田って人が、予定を早めるかもってことかい?」
「そう。だけど、ずっと見張るわけにもいかないでしょ。どうすればいいのかなって、相談したくて」
ここで純子は、一度、お母さんのいる部屋の方を振り返りました。何も気付いた様子はありません。これで安心して、話を続けられます。
「相談と言われても……難しいなあ。でも、多分、大丈夫だよ」
「どうして、そう言えるの?」
「だって、太田開発の人は、僕らが大人しく引き下がったと、信じていると思うんだ。信じている内は、予定を早めるなんて、しないんじゃないか」
「言われてみれば……それもそうね」
目の前に中森君がいるかのように、純子はうなずきました。けれど、少しだけ、不安は残ったままなのですが。
「あんまり、心配したって、しょうがないよ。今はさ、君のおじいちゃんが専門の人を連れて来てくれるのを、待つしかないと思う。そのあと、工事中止になるように、僕らも力を合わせなきゃ。ね?」
「うん、そうよね」
純子が言ってから、しばらく静かになりました。
「……石原さん、もう、慣れた?」
「え?」
「い、いや、学校には慣れたのかなって」
電話を通じて、中森君の照れた様子が伝わってくるようです。
ほほえみながら、純子は答えます。
「ありがとう。うん、もう慣れたよ。もう少し、友達、増やしたいんだけど」
「僕らがいる」
「あは、そうじゃなくて、女の子の方の友達。何だか知らないけど、うまくいかなくて」
「女子のことは……分からないや」
多少、ぶっきらぼうな台詞。でも、こちらのことを考えてくれる気持ちは、
充分、伝わってきました。
「まあ、もうしばらく、がんばる。友達は作るんじゃなくて、なるものだって、テレビのドラマでやっていたし」
「あ、そのドラマ――」
中森君も同じドラマを見ていたようです。それからしばらく、ドラマの話題で盛り上がってから、話は終わりました。
最初、かけようと思った目的とは別の意味で、純子は、電話してよかったと、楽しい気分になれたのでした。
そのあと、純子は、わずかに残っていた不安を吹き飛ばそうと、頭を強く振りました。
夜です。純子みたいな小学生にとっては、もう寝る時間。
ここに越してきたばかりの頃、純子はなかなか寝付けない夜が続きました。前と比べて、あまりにも静かすぎるからです。意識していなかったのですが、少しぐらいの騒音があった方が、ぐっすりと眠ることができるみたいなのです。
それも、最近になって、純子も慣れました。以前と同じように、普通の日ならば、ベッドにもぐり込んでから十分以内に、たいてい眠たくなってきます。
ところが、今夜は違いました。なかなか、眠たくなりません。夏休みに入って、少し不規則な生活になっていること、それに恐竜の化石のことの二つが、眠れない原因なのでしょう。
それでも、目をつむっていると……。
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