化石の鳴き声

崎田毅駿

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11.大ピンチ!

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 純子は、人影の正体を知りました。
 まず最初に、あの人がここにいるのなら、何も不思議じゃないなと思いました。自分の土地に入っても、誰も文句を言うはずありません。
 でも、すぐに変だなと、純子は感じました。
(どうして、あの人が地面を掘っているのかしら? こんな夜中に、一人で……。工事を始めた? まさか。あの人自身が働くんじゃないんだろうし、こんな夜に掘り返すなんて、信じられない。
 だったら……。あの人、口ではあんなことを言っておきながら、本当は化石もほしかったのかな? だからこんな夜になってから、こっそり掘りに来た……)
 そこまで考えた純子でしたが、すぐに首を振りました。
(ううん、そんなのって、ないわ。それなら、この場所を工事するのをやめればいいのよ。たとえ、化石を自分一人の物にしたいとしても、工事さえ中止すれば、こんな真似しなくてすむもの。絶対、おかしい)
 どう考えても、太田がこんなことをする理由が見つかりません。純子は、わけが分からなくなりました。
 頭の中が混乱してしまったためでしょうか、ふっと、心にすきが生まれていました。かすかに動かした左足が、小石を蹴飛ばしてしまったのです。
(また、やっちゃった!)
 心の中、叫ぶ純子。
 運悪く、小石の音は、太田に気付かれてしまいました。
「誰だ? 誰かいるのか?」
 太田は、意外と低い声で言いました。人目を気にしているのかもしれません。そして、言いながら、懐中電灯を向けてきました。
 純子は身体を小さくしたつもりでしたが……。
「おい、そこにいるの、誰だ?」
 簡単に見つかってしまったようです。
 身体が震え始めました。我慢しようと思っても、できません。かたかた、音が聞こえてくるほど、震えが続きます。
「顔を見せろ」
 冷たい声がしました。
 純子は、叫びたくてたまりません。だけど、声が出せないのです。
(逃げなきゃ。とにかく、ここから逃げないといけない!)
 強く念じる純子。それがおまじないとして効いたのかもしれません。身体の震えは収まり、自由に動けるようになったのです。
 ばっ、と、一気にかけ出す純子。
 その背中で、何か金属的な音がしました。続けて、あわてたような声で、
「ま、待て!」
 という叫び。
 高いところと低いところとの差が激しい坂を、純子は転がるように上り下りし、必死に逃げます。そのすぐ後ろ、足音がどんどん近付いてくるようで、たまりません。
 その恐い気持ちをおさえて、あそこを越えれば、という位置まで来た純子。ところが、大人の歩幅は、やはり違います。
「きゃっ!」
 急に、右足を引っ張られるのを感じました。純子が恐る恐る振り返ると、太田の手が、純子の足首をつかんでいるのです。
「いや、放して!」
「おまえは……昼間の子供だな」
 太田の顔が、みにくくゆがんだようです。と同時に、純子の足首をつかむ手に、一気に力が加わりました。純子の身体は引っ張られ、ずるずると下ろされてしまいました。
 太田は顔を近付けてくると、気味の悪い笑みを浮かべて言いました。
「一人だけで来たのか。恐いもの知らずだな。まあ、好都合だが」
「……な、何をしてたのよ!」
 必死に声を振り絞る純子。だけど最後の方は、かすれてしまいました。
「さあてね。何かな。君らみたいに、化石を探していたんじゃないことだけは、確かさ」
 純子は、だまって考えました。何か知らないけれど、悪いことをしている! そんな直感がありました。どうにかして、逃げ出さないと。
「……一人で来たんじゃないもん」
「何だと?」
 純子が考え抜いた台詞に、太田は面食らった様子です。
「そ、そうよ。お、お父さんやお母さんが、許してくれるわけないでしょ。一人じゃない。ちゃんと、大人も一緒よ」
「くそっ。本当か? どこにいる?」
 太田は、純子の服の胸の辺りをつかんできました。まるで、引きちぎらんばかりの力です。何をこんなに焦っているのでしょう?
「知らないわ。で、でも、私の声を聞いて、すぐに来る、きっと」
 太田は舌打ちすると、少し、思い悩む顔つきになりました。
「……悪く思うな。こうするしか」
 太田は純子の服を手放したかと思ったら、いきなり、その手を今度は、純子の首に持って来ました。
(こ、殺す気?)
 瞬間、純子は判断しました。懐中電灯のスイッチを入れ、遠くの方を照らすと同時に、声を限りに叫びます。
「あ、おじいちゃん! 助けて!」
 それを聞いて、太田は気を取られたのでしょう。純子が照らした方を振り向きました。もちろん、おじいちゃんがいるはずありません。
 でも、太田にすきができました。そのすきを突いて、純子は太田の指にかみつくと、そのまま最後の坂をかけ上ります。下の方で、太田のうめき声がしていました。
(は、早く、誰か、人がいるところに行かないと)
 息を切らしながらも、純子は懸命に考えています。どうすればいいのか。早くしないと、また追い付かれてしまいます。そして、もう二度と、同じ手は通用しないことでしょう。
「見つけたぞ!」
 太田の声。もはや、普通の大人の声じゃありません。何かにとりつかれたように、鬼気迫る響きがあるようです。
「車の事故に見せかけてやるからな。せいぜい、逃げることだ!」
 恐ろしい宣言すると、太田は坂のすぐ横にとめてあった乗用車に乗り込みました。そして、ドアを閉めようとした――。
 ドアは閉まりませんでした。急に現れた、新たな人影が、それをさせなかったのです。
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