【12話完結】自分だけ何も知らない異世界で、婚約者が二人いるのですが?

キノア9g

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第1話:目覚めと違和感

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 ──暗闇の中で、誰かの声が聞こえた。

「……レオン……」

 優しく、どこか懐かしい響き。それでも、僕にはその名前に覚えがない。
 まぶたが重く、体に力が入らない。微かな香り──乾いた草木のような、落ち着く匂いが漂っている。

「レオン、起きてくれ」

 今度は別の声がした。
 深く、落ち着いた響き。けれど、どこか焦りが滲んでいる。

 ──レオン? 誰なんだ、それは……?

 二人の声に呼ばれているような気がする。でも、レオンそれが自分の名前なのかどうか、確信が持てない。

 目を開くと、見知らぬシャンデリアが天井に揺れていた。
 黄金色の装飾が施された天蓋付きのベッド。ふかふかの枕に沈み込む自分の頭。
 視線を巡らせると、彫刻が施された豪華な家具が並び、窓の外には美しい庭園が広がっている。

 ──ここは……どこ?

 混乱したまま身を起こそうとすると、頭に鈍い痛みが走った。

「大丈夫か?」

 隣に座っていた金髪の男性が、そっと肩を支えてくれる。
 氷のように澄んだ青い瞳が、じっとこちらを見つめていた。

「レオン……」

 名前を呼ぶ声が震えている。その表情は安堵と、何か別の感情が入り混じったように見えた。

「あなたは……誰ですか?」

 言葉にすると、男性の瞳がほんの僅かに揺れた。

 ──僕は、この人を知っているのか? いや、それすらもわからない。

 すると、今度は部屋の入り口で立っていたもう一人の男性が、ゆっくりと近づいてきた。

「ルシアン、少し下がれ。動揺させるな」

 深い緑の瞳をした、黒髪の男性。
 鋭い視線の奥に、じっとこちらを見据えるような強さがある。

「……カイル?」

 無意識に口をついた名前に、自分でも驚く。
 けれど、記憶にあるわけではない。ただ、自然と出てきた。

「覚えているのか?」

 問いかけるカイルに、ルシアンが小さく息を呑んだのが分かった。

「……分からないです。でも、そう呼ぶべき気がして」

 ルシアンが悲しげに微笑む。カイルは難しそうな顔をした。

「記憶が……ないのか?」

「そうみたいです」

 自分の名前も、人の顔も、ここがどこかもわからない。
 頭の中に霧がかかったような感覚だけが残っている。

 そんな混乱の中、ルシアンがそっと手を握ってきた。

「レオン、大丈夫だ。私がいる」

 その手は温かかった。けれど、どこか震えている。

「お前はレオン・フィオーレ。フィオーレ領の次期領主だ」

 カイルが静かに告げた。

「……僕が?」

 思わず聞き返すが、すぐには答えが返ってこない。
 それが事実だというように、ただ見つめられるだけだった。

「それと……」

 ルシアンが少し言いにくそうに言葉を続ける。

「君には、婚約者がいる」

「……は?」

 思考が一瞬、止まった。

「婚約者……?」

 まさか、そんなことになっているなんて思わなかった。だって、これは──

「……もしかして、僕、別の世界に来たとか?」

 ぽつりと呟いた自分の声が、静かな部屋に響く。

 ルシアンとカイルが、驚いたようにこちらを見つめていた。

「レオン、お前……?」

「別の世界……?」

 ──いや、違う。

 そんな確信があるわけじゃない。ただ、どうしてもこの世界に馴染めない気がする。
 この感覚は、なんだ?

「婚約者って、誰のことですか?」

 恐る恐る尋ねると、ルシアンが口を開いた。

「私と……カイルだ」

「……」

 言葉を失った。

 いや、待て。

 婚約者が二人?

 それも、目の前のこの二人?

 ──何かの冗談?

「俺たちは、幼馴染だ」

 カイルが真剣な表情で続ける。

「そして、お前の婚約者だ」

 信じられない。そんなおかしな話がある?

 なのに、ルシアンもカイルも、本気の顔をしていた。

 ──どういうことなんだ?

 何も分からない。
 ただ、一つだけ分かることがある。

 ──僕は、この二人の視線を向けられるたびに、ひどく落ち着かなくなる。

 それが、不安なのか、それとも別の感情なのか──今は、まだ分からなかった。
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