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第2話:婚約者(仮)たちとの再会
しおりを挟む──「婚約者だ」
その言葉が耳に届いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
目の前にいる二人は、ルシアンとカイル。どうやら、僕の幼馴染らしい。
ルシアン・ヴェルナー。
王城に仕える大魔法使いで、氷のように澄んだ青い瞳を持つ男。
一見穏やかで理知的だが、その奥に秘めた冷徹さを感じる瞬間がある。
カイル・エバンス。
王国の騎士で、鍛え上げられた体躯を誇る寡黙な男。
冷静沈着なその表情の奥には、隠しきれない誠実さが滲んでいる。
──そんな二人が、僕の婚約者?
「……どういうことですか?」
思わず口をついて出た言葉に、ルシアンはふっと微笑みながら答える。
「おかえり、レオン」
まるで、僕がここに戻ることが決まっていたかのような優しい声。
「君が帰ってきてくれて……本当に、よかった」
その言葉には、深い安堵が込められている。しかし、微かに響く強さにも気づかずにはいられなかった。
そして、ルシアンがそっと手を伸ばしてきた。
指先が、僕の頬に触れようとしたその瞬間──
「ルシアン」
カイルの低く鋭い声が、それを遮った。
ルシアンは一瞬動きを止め、ゆっくりと手を引く。その仕草には、未練が滲んでいるように見えた。
「……私は、ただレオンに安心してほしかっただけだよ」
「お前のやり方が、レオンを動揺させているのが分からないのか?」
カイルの声に、隠しきれない怒気が感じられる。
ルシアンは肩をすくめ、少し諦めたように微笑んだ。
「相変わらずだな、カイル」
「お前もな」
二人の間に、静かな火花が散る。言葉は少ないが、互いをよく知る者同士のやり取りだと分かる。
だが、それよりも──
「待ってください」
思わず声が漏れた。少し混乱しながら、二人を見つめる。
「……僕は、あなたたちのことを覚えていません。本当に僕の婚約者なのですか?」
ルシアンとカイルが、同時に視線を交わす。
「そうだ」
「そういうことだね」
──いや、待って。
記憶が戻らない以上、何が本当で、何が嘘なのかすら分からない。
けれど、二人の言葉からは、それぞれが「本物」だと確信しているように見えた。
「……」
何かが、おかしい。
でも、その疑問を口にする前に、カイルが静かに言葉を紡いだ。
「レオン。お前の記憶が戻らない限り、この状況は理解しにくいかもしれない」
「……そうですね」
「だが、一つだけ覚えておいてくれ」
カイルの緑色の瞳が、まっすぐに僕を射抜く。その視線には、揺るぎない決意が込められていた。
「俺は、お前を守ると誓った」
その言葉に、騎士としての誠実さと強い覚悟が込められているのを感じる。
僕は何も言えず、ただ頷くしかなかった。
すると、ルシアンが小さくため息をついた。
「カイル、君がそう言うと、まるで私がレオンを傷つけるみたいに聞こえるよ?」
「事実だろう」
「……」
ルシアンは、少しだけ視線を落とし、そして再び僕を見た。
「レオン。君がどう思うかは自由だ」
その言葉には、どこか優しさと痛みが込められているように感じた。
「でも、私は……君の婚約者だよ」
そう言って微笑むルシアンの表情には、何か切実なものが宿っていた。けれど、それが何かは分からない。
──分からないことだらけだ。
ただ、この二人がただの幼馴染ではないことだけは、嫌でも伝わってきた。
「……」
僕は無言で、二人を交互に見つめる。
本当に、二人とも僕の婚約者なのか?
それとも──嘘をついているのか?
答えの見えない問いが、胸の奥に重く沈んでいく。
ただ、一つだけ分かることがある。
──この二人は、僕のことを譲る気がない。
その事実だけが、痛いほどに伝わってきた。
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