【完結済】自分だけ何も知らない異世界で、婚約者が二人いるのですが?

キノア9g

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第2話:婚約者(仮)たちとの再会

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 ──「婚約者だ」

 その言葉が耳に届いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 目の前にいる二人は、ルシアンとカイル。どうやら、僕の幼馴染らしい。

 ルシアン・ヴェルナー。
 王城に仕える大魔法使いで、氷のように澄んだ青い瞳を持つ男。
 一見穏やかで理知的だが、その奥に秘めた冷徹さを感じる瞬間がある。

 カイル・エバンス。
 王国の騎士で、鍛え上げられた体躯を誇る寡黙な男。
 冷静沈着なその表情の奥には、隠しきれない誠実さが滲んでいる。

 ──そんな二人が、僕の婚約者?

「……どういうことですか?」

 思わず口をついて出た言葉に、ルシアンはふっと微笑みながら答える。

「おかえり、レオン」

 まるで、僕がここに戻ることが決まっていたかのような優しい声。

「君が帰ってきてくれて……本当に、よかった」

 その言葉には、深い安堵が込められている。しかし、微かに響く強さにも気づかずにはいられなかった。

 そして、ルシアンがそっと手を伸ばしてきた。
 指先が、僕の頬に触れようとしたその瞬間──

「ルシアン」

 カイルの低く鋭い声が、それを遮った。

 ルシアンは一瞬動きを止め、ゆっくりと手を引く。その仕草には、未練が滲んでいるように見えた。

「……私は、ただレオンに安心してほしかっただけだよ」

「お前のやり方が、レオンを動揺させているのが分からないのか?」

 カイルの声に、隠しきれない怒気が感じられる。
 ルシアンは肩をすくめ、少し諦めたように微笑んだ。

「相変わらずだな、カイル」

「お前もな」

 二人の間に、静かな火花が散る。言葉は少ないが、互いをよく知る者同士のやり取りだと分かる。

 だが、それよりも──

「待ってください」

 思わず声が漏れた。少し混乱しながら、二人を見つめる。

「……僕は、あなたたちのことを覚えていません。本当に僕の婚約者なのですか?」

 ルシアンとカイルが、同時に視線を交わす。

「そうだ」

「そういうことだね」

 ──いや、待って。

 記憶が戻らない以上、何が本当で、何が嘘なのかすら分からない。
 けれど、二人の言葉からは、それぞれが「本物」だと確信しているように見えた。

「……」

 何かが、おかしい。
 でも、その疑問を口にする前に、カイルが静かに言葉を紡いだ。

「レオン。お前の記憶が戻らない限り、この状況は理解しにくいかもしれない」

「……そうですね」

「だが、一つだけ覚えておいてくれ」

 カイルの緑色の瞳が、まっすぐに僕を射抜く。その視線には、揺るぎない決意が込められていた。

「俺は、お前を守ると誓った」

 その言葉に、騎士としての誠実さと強い覚悟が込められているのを感じる。

 僕は何も言えず、ただ頷くしかなかった。

 すると、ルシアンが小さくため息をついた。

「カイル、君がそう言うと、まるで私がレオンを傷つけるみたいに聞こえるよ?」

「事実だろう」

「……」

 ルシアンは、少しだけ視線を落とし、そして再び僕を見た。

「レオン。君がどう思うかは自由だ」

 その言葉には、どこか優しさと痛みが込められているように感じた。

「でも、私は……君の婚約者だよ」

 そう言って微笑むルシアンの表情には、何か切実なものが宿っていた。けれど、それが何かは分からない。

 ──分からないことだらけだ。

 ただ、この二人がただの幼馴染ではないことだけは、嫌でも伝わってきた。

「……」

 僕は無言で、二人を交互に見つめる。

 本当に、二人とも僕の婚約者なのか?
 それとも──嘘をついているのか?

 答えの見えない問いが、胸の奥に重く沈んでいく。

 ただ、一つだけ分かることがある。

 ──この二人は、僕のことを譲る気がない。

 その事実だけが、痛いほどに伝わってきた。
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