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第一章 どうやら、異世界に転移したらしい
17. ……えっ、俺?
しおりを挟むこの日、俺の家には早朝から村の少年たちが押しかけていた。
俺は起きていたが、いつものように腹を出して寝ていたトーラは寝ぼけまなこで慌てて小さくなったから、いつもよりもサイズが多少大きいような気がする。
⦅普段の、1.2倍じゃな⦆
だよね……。
まあ、ソウルたちは気付いていないようだからいいけど。
真剣な表情で椅子に座っているのは、ソウル、リード、ロンの三名。
ゴブリンに襲われてケガを負った、あの三人組だ。
「なあ、頼むよカズキ、一度だけでいいから俺たちと冒険者パーティーを組んでくれ!」
「カズキさん、お願いします!!」
「頼みます!!」
とりあえず理由を聞くと、店を開店させる資金を調達したいとのこと。
温泉の正式オープンを来週に控え、村はかつてないほどの活気に満ちている。
観光客相手に新たな商売を始めようと、村に戻ってきた若者たちがいたり、プレオープン時に温泉を体験した商人や冒険者たちから話を聞き、まだオープンもしていないのに入浴しにわざわざやって来た人もいるほど。
自分たちもその波に乗って屋台を開業させたいが、資金がまだ足りない。
しかし、全員が未成年者(十四歳、成人は十五歳)であるため、冒険者登録ができないのだという。
冒険者パーティーの中に一人でも成人がいれば活動(売買)はできるため、俺に白羽の矢が立ったのだった。
⦅この村の中で、冒険者ができる暇そうな成人といえば、おぬしくらいしかおらんでのう……⦆
俺だって、温泉の開業準備の手伝いで忙しかったんだよ!
村の住人のようにこれから新たに何かを始めるわけではないから、現在の俺は手が空いているけどね。
だから、彼らへ手を貸すこともやぶさかではない。
しかし……
「俺さ、ギルドに登録していないんだよな」
「えっ……じゃあ、カズキはどうやって生活をしているんだよ?」
「魔物を狩ってきて、物々交換をしていることが多いかな……あと、家の清掃の仕事とか」
トーラの食事を兼ねて森へ行き、肉の美味しい魔獣を狩る。
それを村の肉屋に持ち込んで、捌いてもらう代わりに肉を卸し、捌いてもらった肉を、野菜を栽培している農家で交換してもらう。
肉屋のおじさんが喜ぶ。農家のおばさんも喜ぶ。肉も野菜も手に入って、俺も喜ぶ……ということ。
現金が欲しいときは、家の清掃を請け負って稼いでいた。
ここ最近は店からの依頼が多く、店内だけでなく外壁や外構もだから結構な収入となっているんだよね。
「今日もさ、二件ほど清掃の依頼が入っているから、それを手伝ってくれたら報酬を出すぞ」
「本当か?」
「店の中のテーブルとか椅子などの家具を移動させてもらいたいんだ。ああ、報酬だけでなく昼食も付けてやる」
「「「やったー!」」」
「ソウルは、リラも連れておいで。トーラのおんぶ係をしてくれたら、リラにも昼食とお小遣いをあげるから」
トーラは、俺が清掃の仕事で出かけるときに一緒に連れていかないと、つぶらな瞳で「留守番はイヤだ!」と必死に訴えかけてくる。
あの悲しそうな顔を見てしまうと、とても置いてはいけないのだ。
それで仕方なく連れて行くのだが、小脇に抱え片手が塞がると何かと不便でしょうがない。
だから、この世界に来てからずっとアイテムボックスに収納していたリュックに入れて運ぶことにした。
毎日トーラを赤ん坊のように背負っている俺を奇異な目で見る人もいるが、気にしない。
気にしたら、そこで負けだから。
⦅おぬしも考えたものじゃな。これなら、ギルドへ登録しなくとも彼らへ仕事と報酬を与えられる⦆
ギルドで売買するにも王都までの交通費(馬車代)がかかるから、それなら、この村でできる仕事をやってもらったほうがいいだろう?
まあ、この村に冒険者ギルドの支部ができれば、諸々のことは解決するんだけどね。
どうすれば支部を作ってもらえるか、調べてみようかな。
あっ、一度ドレファスさんへ聞いてみよう。
あの人は、こういうことに詳しそうだから。
ソウルたちに手伝ってもらったおかげで、とてもスムーズに仕事は片付いた。
だって、家具を移動させながらの清掃活動は、ホント大変だったから。
昼食は大サービスで肉を焼いてやったら、食べるは食べるは……あっという間に俺の晩メシ分の肉まで食べられてしまったのだった(涙)
◇◇◇
村役場へ行くと、ゴウドさん、ルビー、ドレファスさん、そして各温泉浴場で働く従業員たち、警備担当者たちが打ち合わせをしていた。
今回の開業に合わせて村民の中からと王都から、サービス業経験者と元冒険者を新たに雇用したと聞いている。
言い出しっぺの俺としても、ぜひ成功してほしいと思っているし、何より、成功を確信しているけどね。
◇
「カズキさん、ちょっとよろしいですか?」
打ち合わせが終わるのをトーラと一緒に待っていたら、ドレファスさんのほうから声をかけられた。
二人きりで話がしたいとのことで、応接室で向かい合う。
トーラは、リュックごとルビーへ預けてきた。
「まずは、あなたへ礼を申し上げなければなりません。この度はトーアル村の観光開発にご尽力いただき、ありがとうございました」
ドレファスさんの口から真っ先に飛び出したのは、俺に対する感謝の言葉だった。
「えっと……そんな改まって言われると、びっくりするというか……」
貴族が庶民へ頭を下げるなんて、あり得ないことだと思うんだけど。
「私がこんなことを言うのは、意外でしたか?」
「その、ドレファスさんは貴族ですよね? それなのに……」
「私は貴族といっても、下位貴族の三男ですから、フフフ…あなた方と何ら変わりませんよ」
ドレファスさんは、自虐的に笑う。
家の跡取りでもなくスペアでもない彼は、自分の力で未来を切り開いていかなければならなかった。
剣の才能はなかったから騎士になることは諦め、代わりに勉学に励み、国の役人になる。
王都勤務ではなく近郊の村や町へ派遣される監査人となり、経理上の不正はないか、国に対する不満・要望などを確認するだけの単調な日々。
そんな中、突然トーアル村に現れた俺が、変化をもたらしたのだった。
「開発の許可がほしいと言われたときは、部外者が何をしでかすつもりなのかと不信感しかありませんでした」
「ハハハ……たしかに、そう思われるのも仕方ないですよね」
俺がドレファスさんの立場だったら、同じように感じると思う。
「しかし、出来上がったものを見て、素人の気まぐれなお遊びではないと気付いたのです。国に依存している村や町が多い中、このトーアル村は経済的に自立できるかもしれないと思いました」
部外者の俺に一任するのではなく、村人自らが行動を起こし、だんだんと形になっていく。
その過程を見守るのが楽しかったとドレファスさんは語る。
「カズキさんにはまだしばらくこちらに滞在していただき、結果を見届けていただけると有り難いのですが……」
「はい、もちろんそのつもりです。まだ、やりたいことがいろいろとありますので」
「ほう…たとえば、どんなことですか?」
「一番は、この村に冒険者ギルドの支部を作ってもらうことです。そうすれば、王都より家賃や物価の安いこちらに移住してくれる冒険者が増えますし、住民が増えれば王都へ向かう馬車も増便されて、行き来が楽になります。王都に店を構える商店も、支店を出してくれるかもしれません」
「なるほど……目先のことだけでなく、先を見据えているのですね」
つい調子に乗って偉そうにペラペラと喋ったけど、ドレファスさんは笑わずに聞いてくれた。
話の流れで、「どうすれば、村に冒険者ギルドの支部を作ってもらえるのか?」と尋ねたら、少し考えたあと彼は口を開いた。
「もちろん、ギルドへ登録する冒険者が大勢いることも大事なのですが、村に核となる人物が定住していなければ話になりません」
「『核となる人物』ですか?」
誰のことだろうと考え込む俺に、ドレファスさんはフフッと笑う。
「高難度の依頼を引き受けてくださる高ランクの冒険者……つまり、カズキさん、あなたのことです」
「……えっ、俺ですか?」
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