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第一章 どうやら、異世界に転移したらしい
18. それって、口にしたらダメなやつ
しおりを挟む俺がこの村に定住することが、支部設立の一つの条件となる……か。
「高難度の依頼達成率は、どの地域でも低いのです。なんせ、AランクはまだしもSランクの冒険者の数が少ないですから」
どこの国でもSランクの冒険者には国内に留まっていてほしいようで、いろいろと優遇しているのだという。
有事の際には、騎士団に次ぐ戦力となりますからね…と、さらっとドレファスさんは恐ろしいことも口にした。
だから、入国税を高額にすることでギルドへの登録を促し、免税や身分証などと引き換えにどのランクの者が国内にどれだけ居るのか国が把握するのだろう。
「でも、俺は冒険者ギルドどころか、どのギルドにも登録をしていないのに、どうして高ランクの冒険者だと言い切れるのですか?」
スモールウルフやゴブリンの討伐はしたが、それだけでは高ランク冒険者とは断定できないはずだよな。
「先月、あなたは役場で使用している魔石四つに魔力を注入されましたよね? それ以外に、村長宅の三つにも」
「はい。でも、それが何か?」
「あの大きさの魔石一つで、魔力は大体『500』ほど消費します。ですので、消費魔力は合わせて『3,500』くらいです」
『500』や『3,500』を俺が認識している数値に変換すると『5』と『35』くらいってことか。
⦅……これは、マズいのう⦆
今までずっと沈黙していたマホーが、急に反応した。
うん? 何が、マズいんだ?
⦅こやつ、頭が良いわい。おぬしの最低レベルがバレたぞ⦆
あっ、そうか!
個々の『レベル』『魔力』『攻撃力』の数値は大体近いものだから、俺の最低レベルは35前後と確定。
しかも、残量がギリギリだと魔力欠乏症になってしまうから、余裕をもってプラス『10』。
つまり、この時点で『レベル45』前後のAランクの冒険者に匹敵することが判明したわけだ。
「これは、あくまでも私の推測です。しかし、あなたをSランクの冒険者だとする決定的な証拠があるのです。ジェイコブ先生が、あなたを鑑定できませんでしたから……」
先生が鑑定できなかったから、Sランクの冒険者だと断定……はて?
⦅『鑑定できなかったから、それが証拠となる』か。儂としたことが、気付くのが遅かったのう……⦆
マホーはわかったようだが、俺にはさっぱりわからんぞ。
「ジェイコブ先生は、元Sランクの冒険者なのですよ……レベル4,900(49)の」
「…………」
ハハハ……ようやく理解したよ。
レベル49の人が鑑定できるのは、レベル49の人まで。
つまり、俺を鑑定できなかった時点で、俺のレベルが最低でも50前後であることが確定したわけね。
高ランクの人に鑑定されれば、すぐにバレると。
誰にも鑑定できないからといって、安心はできないんだな。
「なぜ、あなたほどの方がギルドに登録をされないのか、その理由を詮索するつもりはありません。しかし、この村に冒険者ギルドを誘致したいのであれば、それが必要不可欠になると申し上げたかったのです」
「貴重な意見をありがとうございました。一度、よく考えてみます」
それがいいですね、とドレファスさんが微笑んだ。
礼を述べ席を立とうとすると、もう一つだけ話がと言われた。
「来週、オンセン開業日に合わせて騎士団がこの村へ定期巡回に来ます。大勢の観光客が見込まれますので、無法者の取り締まりを兼ねております」
「それは、大変有り難いですね」
「彼らは一日滞在し、宿泊をせずに王都へ戻りますが、その間はトーラさんは表に出されないほうがよろしいかと。あと、あなたも」
「俺も、ですか?」
「騎士団の中には血気盛んな方もいらっしゃいますので、念のためです。おそらくは、大丈夫だと思いますが」
『……大丈夫だと思いますが』
ああ、ドレファスさん言っちゃった……
⦅なるほどのう……これが噂の『フラグ』というやつじゃな⦆
マホー、それを言うな。
口にしたら、回収不可避なんだからね。
◇◇◇
開業日は、雲一つない晴天となった。
そして、観光客は……もうびっくりするくらい、押し寄せてきた。
どうやら臨時便の馬車を運航しているようで、来るわ来るわ、嬉しい悲鳴を上げている。
俺はドレファスさんの言いつけを守って家の中に……というわけにはもちろんいかず、観光客の案内をしていた。
トーラは、今日だけは留守番をしてもらっている。
騎士団が来るからって事情をきちんと説明したら、ちゃんとわかってくれたよ。
やっぱり賢い子だな。
従業員は、観光客にわかりやすいように制服を着用している。
草木染めの布地で作られた制服は配属先によって上着が色分けされているのだが、たとえば俺が着ているものは藍色。
村の観光案内役 兼 警備担当者用だ。
外にいることが多い俺たちは鍔の広い帽子もかぶっていて、まるでボーイスカウトにでもなった気分。
ルビーが着用しているのは、紅色のもの。
観光客の対応をする者たち用だ。
ルビーの明るい緑髪によく似合っているな!と伝えたら、「そういう言葉は、恋人に言うものよ」と言われてしまった。
恥ずかしそうにしていたから、皆の前で言ったのがダメだったのだろうな。
ルビーへは思ったことをつい口に出してしまうけど、これからは気を付けないといけないね。
◇
騎士団の方々が巡回をしているからか、心配していた無法者たちは現れない……が、姑息なことをする連中はいた。
「……だから、この物入れに入れてあった財布が無くなっているんだよ。俺はきちんと鍵を閉めたから、きっとここの従業員が合いカギで盗んだに決まっている!」
「物入れに合いカギはございません。貴重品の管理は自己責任でと事前に説明をさせていただいておりますので、当方では責任を負いかねます」
「じゃあ、なんで兄貴の財布がねえんだよ! おかしいだろうが!!」
大浴場の従業員の報せで駆けつけると、受付でルビーが男性客二人と揉めていた。
やれやれと思いつつ、俺は間に割って入る。
「失礼します。確認ですが、お客様が無くされたという財布は、どのような素材・形状ですか?」
「ブラックサーペントの革で作られた、四角い高級財布だぞ。あれだけで、銀貨五枚もする代物だ」
「では、黒色の財布ということですね。中身は、幾らほど入っていますか?」
「金貨五枚に、銀貨八枚だ。見つからなかったら、弁償してくれるのか?」
「弁償はいたしません……見つかりましたので」
「「はあ?」」
口をあんぐりと開けマヌケ面をしている男たちを一瞥し、俺は野次馬の中から一人の男を指さす。
「お客様の財布は、あちらの方がお持ちのようですよ」
「わ、私は……」
俺から急に名指しされ、男が慌てている。
「そのお召しになっている上着の中を、拝見してもよろしいですか?」
「こ、断る! 私は関係ない!!」
男は逃げようとするが、それを許す俺ではない。
滑って転んだ男の上着から、何かが飛び出た。
「見て、黒い財布よ!」
「あの客が言っていたものと、同じじゃないか?」
周りの客は騒然としているが、まだこれで終わりでもない。
「お客様、あちらはあなたの財布ですよね?」
「ち、違う。あれは、俺の財布じゃない! そうだ、今日は持ってくるのを忘れ……」
「……詳しい話は、臨時の詰所で聞かせてもらおうか?」
はい、ここで騎士様登場!
俺を呼びに来た従業員に、騎士を呼んでもらうようお願いをしておいたのだ。
営業の邪魔なので、早くこの三人を連行してください。
こういう輩は国家権力でねじ伏せてもらおうと思っていたけど、念のため探知魔法で財布を探したら、もう一人共犯者が見つかった。
逃げようとしたから水で足を滑らせ、ついでに風で証拠となる財布を外に飛ばしておいた。
共犯だと白状しないと、仲間だけが重い刑罰を受けることになると思うけど……どうするのかな?
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