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第一章 どうやら、異世界に転移したらしい

19. 青い〇〇と書いて……

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 騒動は無事解決し、大浴場を出て持ち場に戻ろうとしたら、先に仕事に戻ったはずのルビーが、また別の客に絡まれている。
 今度は、どんな苦情だ?

「なあ、いいじゃないか。今から俺と……」

「申し訳ございませんが、仕事中ですので」

「相手は俺なんだから、問題ないだろう?」

 はあ? 問題、大有りですけど?
 てか、クレーム客かと思ったら口説き客かよ……
 ルビーにしつこく声をかけているのは茶髪の若い男性で、顔立ちは悪くはないから自分に自信があるんだろうな。

「お客様、恐れ入りますが当従業員への迷惑行為は、ご遠慮いただいております」

「なんだ、おまえ……俺の邪魔をするな」

 ルビーの腕を掴もうとしたから、俺の後ろにサッと隠す。
 おまえこそ、汚い手で触ろうとするな。

「聞き入れていただけないようでしたら、条令に従い強制的にお帰りいただくことになりますが?」

「フン! 俺に手を出したらどうなるか、おまえは知らないのか?」

「はい、存じません(即答)」

「なっ!?」

 なんだ、この人。
 ひどく驚いた顔をしたけど、俺はあなたのことは全然知らないし、そもそも興味もないので。

「……カズキ、これ以上はダメよ」

 そうだね。
 こんなのでも、一応客だもんな。

「では、スコット様。失礼いたします」

 ルビーは会釈すると、俺を連れてこの場を離れた。
 どうやら、知り合いだったみたい。
 あの人、俺をすごい顔で睨んでいたし「おまえ、覚えておけよ!」とか言われたけど無視無視!

⦅あやつは、貴族のようじゃ。アーチー・スコット……レベル29のDランク。属性やスキルはないが、冒険者パーティーのリーダーじゃと⦆

 貴族なのに、冒険者?
 そういえば、遠巻きにお仲間がいたような気もするな。
 
⦅優秀な手下どもを集めておるのじゃな⦆

 貴族のお坊ちゃまが、冒険者ごっこをしているわけね。
 マホーいわく、彼が一番レベルが下とのこと。
 それにしても、手下まで鑑定済みとは、さすがだな。
 

 ◇


 持ち場まで戻るついでにルビーを役場まで送り届けたら、「一緒に休憩しない?」と誘われた。
 喉も渇いていたし、お言葉に甘えようかな。

「カズキ……さっきは、ありがとう」

 ルビーが淹れてくれたお茶を受け取ったら、礼を言われた。

「ルビーは毅然きぜんとした態度で、立派だったぞ。ああいう連中は、相手にしないのが一番だからな」

「きっとカズキが助けに来てくれるって、信じていたから……」

 テーブルにもう一つカップを置くと、ルビーは隣に座った。

「何かあったら、すぐに呼んでくれ。俺が助けてやるから」

「うん」

 微笑んだルビーはお茶を一口飲んだあと、少し視線を落とす。

「ねえ……カズキは、いつまでこの村に居てくれるの?」

「ルビーたちさえ良ければ、しばらく滞在させてもらうつもりだけど」

 他に行く当てもないし、それに、トーアル村は俺にとってとても居心地が良いからね。

「ホント?」

「うん。まだまだ、やりたいこともあるし……」

 この村をこれからも発展させていくためには、温泉だけでなく別の観光資源となるようなものを考えないといけない。
 何より、村民を増やさなければ。

「でも、学校はいいの?」

 あっ……忘れてた。
 自分が学生(という設定)だったことを。

「もう、休暇は終わるんじゃない?」

 そうだよな。
 もう一か月以上も村に居るから、どう言い訳しようか……

「実は……修行のために、休学しているんだ。だから、まったく問題はない!」

「そっか、まだカズキは居てくれるのね」

 良かった…とルビーが笑う。
 その笑顔が眩しすぎて、俺の目はそのうち潰れるかもしれません。
 あの、ルビーさん。美人さんからそんな嬉しそうな顔をされたら、男は勘違いしちゃいますよ?
 そんなに自分と一緒に居たいのか?って。
 もちろん、俺は勘違いはしない。
 ルビーは、俺のことは仕事仲間として信頼してくれていると知っているから。

「……カズキには、その…恋人とか婚約者はいないの? ほ、ほら、国に待っている人がいるなら、あまり引き留めるのも悪いじゃない?」

「ハハハ……残念ながら、いないよ」

「えっ?」

「そもそも、俺に恋人がいるように見える?」

「……カズキは、たまにオジサンっぽいところがあるからね」

「…………」

 ……ルビーさん、それは『見えない』という全肯定と受け取ってよろしいですか?
 あっちの世界でも、「年齢の割に、落ち着いている」とよく言われたけど……(涙目)

「だよな……」

 俺の言動がおっさんっぽいのは、じいちゃん・ばあちゃんと一緒に暮らしていたからだ!…と、そっと自分を慰める。
 もし、あっちの世界に付き合っている彼女がいれば、俺は何としても帰ろうと帰還方法を模索したんだろうな……(現実逃避)

「フフッ、いないのね……」

「あっ! ルビー、いま笑ったな?」

「わ、笑っていないわよ!」

「いいや、鼻で笑っていたぞ」

 俺が目を細めてジトーっと抗議の視線を送ると、ルビーは慌てて顔を背ける。
 ルビーは仕事中は髪を一つにまとめているから、制服と同じくらい赤くなった顔と耳がよく見えた。
 あれ? そういえば、どうして今日は隣同士で座っているんだ?
 いつもは向かい合っているのに……
 
「そ、そうだ、恋人のいない可哀想なカズキに、私がごちそうを作ってあげる! 助けてもらったお礼もしたいから、今晩うちに来て。トーラのお肉も用意しておくわね」

「わかった。楽しみにしている」

 話をはぐらかされたような気もするけど、ルビーは何だか楽しそうだし、まあいいか。
 俺は休憩を終え、役場を出る。

⦅こういうのを、『青い春』と言うんかのう……⦆

 マホーは、何を言っているんだか……
 本当に、俺のどこの記憶からこんな言葉を覚えてくるんだろうな。


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