55 / 79
第三章 雨降って、地固まる?
55. 俺の正体は……
しおりを挟む家を訪ねてきたルビーと共に役場へ向かった俺は、大事な話があるからと、ゴウドさん、ドレファスさん、ジェイコブさんに集まってもらった。
「突然ですが、来月俺は村を離れることになりました」
「さっき、ドレファスくんから聞いたけど、学校関係者が迎えに来たそうだね?」
「あっ、えっと、その……」
ドレファスさんの勘違いを否定しなかったから、そういう話のままゴウドさんへも伝わったらしい。
「後のことなら、大丈夫。カズキくんは何も心配せずに、学校へ復学してくれればいいんだよ」
シトローム帝国へはアンディとトーラも連れていくけど、『オバーケ』の営業がもともと今月いっぱいまでと決まっているから、それは問題ない。
他の事業も、もうすでに俺の手は離れているから大丈夫。
村の安全も、正規職員となったエミネルさんと、移住してきた『漆黒の夜』のメンバーたちがいるから安心して任せられる。
「俺は一旦村を離れますが、また戻ってきますので、それまでよろしくお願いします」
「えっ!? カズキは、村に帰ってきてくれるの?」
「うん。ただ、それがいつになるかはっきりしないから、こうして皆さんにお願いをしているんだ」
そうか、ルビーは俺がもう戻ってこないと思っていたんだな。
ずっと深刻そうな顔をしているから、体の具合でも悪いのかと心配したんだぞ。
ドレファスさんやジェイコブさんは、「次期村長が、確定ですね」「これで、この村も安泰だな」と言いながら帰っていった。
◇
「カズキくんが村に戻ってこられるのは、一年後くらいかな? 何にせよ、良かった良かった」
「来年はカズキがいないから、『オバーケ』の代わりの企画を考えないといけないわね」
食事をしながら、ゴウドさんとルビーが話をしている。
あの後、夕食に招待された俺は、一度家に戻りアンディとトーラを連れてきた。
トーラは食事中だから、今、ルビーの膝の上はアンディが独占している。
「実は、大事な話はまだありまして、どちらかというとこっちが本題というか……俺の『本当の正体』についてです」
「本当の正体って、どういうこと? カズキは、カズキじゃないの?」
「それは、以前見せてもらった君の能力についてのことかな? それなら、別に……」
ルビーは俺のステータス画面を見ていないし、画面を見たゴウドさんもグスカーベルさんも、俺の【職業】については一切触れなかった。
つまり、『召喚勇者』自体を知らないのだろう。
「ゴウドさんは、不思議に思いませんでしたか? 俺の能力値が、異常に高いことに」
「ま、まあ、私が初めて見る数値ばかりだったことには、驚いたけどね……」
「俺は……この世界の人間ではないのです。『異世界人』と言ったほうが、理解しやすいでしょうか」
「「異世界人?」」
揃って首をかしげる二人に、俺は順を追って説明を始める。
ある日突然、元いた世界から飛ばされて、この世界へ来てしまったこと。
飛ばされた先が、トーアル村だったこと。
ハクさんが俺の色を見ることができないのも、異常な能力の高さも、すべての理由がこの世界の人間ではないから。
「ルビーは、俺の言動に疑問を持っただろう? 夜に村を出て野宿をすると言い出したり、魔石の使い方を知らなかったり……俺は、この世界の常識をまったく知らなかったんだ」
俺の世界では、魔物なんて存在しない。
魔石を使わなくても、水や火が出る。
その代わり、人は魔力を持っていないし、魔法を使うこともできない。
「でも、カズキは最初から言葉を話せたし、魔法だって……」
「それは、俺がある特殊な職業に就いているからなんだ。俺が魔法使いの弟子であることは本当だけど、魔法学校には通っていない。学生なのは、元の世界での話だから」
「カズキくんの職業って確か、初めて見る名だったような……」
「シトローム帝国が儀式を行い、異世界から召喚した者……『召喚勇者』。これが、俺の本当の正体です」
二人の目を見て、俺ははっきりと告げた。
◆◆◆
―――― 一か月後。
「今日は、晴れて良かったわ」
二,三日降り続いた雨が止んだ晴天の朝、ルビーは預かった鍵で中へ入ると、さっそく家中の窓を全開にした。
日に日に冷たくなってきた早朝の風を感じながら、部屋の拭き掃除を始める。
和樹の家に何度もお邪魔しているうちに、ルビーもいつの間にか家の中で靴を脱ぐ習慣に慣れてしまった。
特にこんな雨上がりの泥だらけの道を歩いた靴は、入り口付近で脱げば部屋の中までは汚れない。
今では、自宅にもこの生活スタイルを取り入れている。
村人の中にも真似をする者が徐々に増え、「清掃の仕事が追いつかない!」と和樹が悲鳴を上げていた姿が思い浮かぶ。
しかし、行商人のフリムは、突如舞い込んだ絨毯の需要に嬉しい悲鳴を上げていたとか。
クスッと思い出し笑いをしたルビーは、日差しが差し込む窓際へ目を向ける。
「今ごろは、どの辺りにいるのかしら……」
和樹たちが村を旅立ってから一週間。
寂しくないと言えば嘘になるが、和樹と再会できる日を、ルビーは指折り数えて待っている。
◇◇◇
和樹が自分の意思ではなく強制的にこの世界へ連れてこられたとの話に、ルビーもゴウドも言葉が出なかった。
もし自分が同じような立場になったら……考えただけで体の震えが止まらなくなったルビーに、和樹は「だから、俺はルビーたちに感謝しているんだ」と笑った。
こんな正体不明の俺を、温かく迎え入れてくれたから、と。
でも、それは『あなただったからよ』……ルビーは、心の中でつぶやく。
和樹は、自分をこの世界に召喚した国へ向かった。
『勇者』としてではなく、『一般庶民』として生きたいという希望を伝えるために。
そして、村に帰ってきたら……
「俺は異世界人で、アンディはアンデッド、トーラはSランク級の魔獣です。こんな俺たちですが、村の住人として受け入れてもらえますか?」
すべてを決着させて戻ったら、正式にトーアル村へ移住したいと和樹は言った。
話し合いがすんなり終わればいいが、おそらくは難しいだろう…とも。
「どうか、カズキたちを守って」
ルビーが服の上から握りしめたのは、あの黒いペンダント。
旅立つ和樹にも、道中のお守りとして渡した……服の下に忍ばせた自分とお揃いであるとは告げないままに。
◇
「ありがとう」
そう言って、和樹はその場ですぐに着けてくれた。
「カズキが戻ってくるまで、皆で頑張るわ。だから……早く帰ってきてね」
「ハハハ……そんな顔をしなくても、用事を済ませたら俺はすぐに帰るよ。でも、ルビーが心配だから、一応アレを作って渡しておくか」
そう言って、和樹は手のひらに土の塊を出した。
「ルビー、ちょっと両手を貸して」と、彼女の指の太さに合わせて何かを形作っていく。
一体何ができるのか、ルビーには想像もつかない。
しばらくして「できた!」と見せてくれたのは、四つの穴が開いた奇妙な道具だった。
「この穴に親指以外の指を嵌めて、拳を握って」と指示通りルビーが指を通し拳を握ると、和樹は満足そうに頷いた。
「これは『ナックルダスター』もしくは『メリケンサック』とも言うけど、とにかく武器の一種だ」
聞き慣れない単語に、和樹の元いた世界の言語だと瞬時に理解する。
「危ない目に遭いそうになったら、これを嵌めて拳で一発殴れ。相手が怯んだ隙に、遠くへ逃げるか誰かに助けを求めるんだぞ。ただし、これはあくまでも護身用だから、間違っても深追いはしないように!」
和樹から何度も念を押されて確認をされたが、もちろん、ルビーにそこまでの闘志はない。
両方の手に嵌めて動作を確かめてみたところ、右のほうがしっくりくるため、こちら側が採用となった。
アニーからは、「ルビーちゃん、今度は指輪を四本ももらったのね!」と茶化されたが、これはルビーの指に合わせて和樹が作ってくれたオーダーメイド。
だから、ルビーにとっては指輪以上に価値があるものなのだ。
◇
和樹とは、握手をして別れた。
ルビーは和樹を困らせないよう必死に涙をこらえ、頑張って最後まで笑顔を見せる。
そんな彼女に、和樹は安心したように微笑み去っていった。
(カズキが戻ってきたら、今度こそ自分の気持ちを伝えよう……)
ルビーは新たな決意を胸に、彼らを見送ったのだった。
5
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜
ルーシャオ
ファンタジー
林間学校の最中突然異世界に召喚された中学生の少年少女三十二人。沼間カツキもその一人だが、自分に与えられた祝福がまるで非戦闘職だと分かるとすみやかにフェードアウトした。『農耕神の手』でどうやって魔王を倒せと言うのか、クラスメイトの士気を挫く前に兵士の手引きで抜け出し、農村に匿われることに。
ところが、異世界について知っていくうちに、カツキは『農耕神の手』の力で目に見えない危機を発見して、対処せざるを得ないことに。一方でクラスメイトたちは意気揚々と魔王討伐に向かっていた。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる