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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た
66. アンディの過去
しおりを挟む≪私は、父上に……見捨てられたのだ≫
「見捨てられたって、どういうことだ?」
≪私は、七歳のときに原因不明の病に罹った。高熱が下がらず、回復魔法もポーションも効かなかった≫
アンディの両親が様々な治療を試したが、どれも効果がないまま日にちだけが経っていく。
そんなある日、熱に浮かされたアンディが耳にしたのは、両親が言い争う声だった。
≪母上は、父上に「行かないで!」と何度も懇願していた。しかし、父上は「行く!」と≫
「お父さんは、どこへ行ったんだ?」
≪どうやら、元の世界へ帰ってしまったようだった。私が父上の姿を見たのは……それが最後だ≫
「そんな……」
病気の我が子を置いて、なぜ帰る必要があったのか。
俺には、さっぱり理解できない。
そして……アンディはそのまま亡くなってしまう。
≪トーアル村で初めて父上を見たときに、ようやく私のもとに帰ってきてくれたのだと思ったのだ≫
そうか。
だから、アンディは父親に対する想いが人一倍強いのか。
普段は強気な態度でも、まだ幼い子供だもんな。
「俺は、アンディとトーラを置いていなくなることは絶対にない。約束する。ただし、寿命が尽きたときだけは許してくれ」
≪フフッ、父上は『人』であるからな≫
アンディは不死のアンデッドだし、メガタイガー(トーラ)も百年くらいは生きると聞いている。
俺が先に逝くのは確実だが、それまでは家族ずっと一緒だと、一人と一匹の前で改めて誓う。
泣いているような顔で笑うアンディを直に抱きしめてやれないことが、つらい。
苦しい気持ちにずっと気付いてやれなくて、本当にごめん。
≪今の私には、父上も弟もいる。だから、問題ない≫
「ハハハ……そうか」
でも、『問題ない』わけがない。
きっと、心は深く傷付いているだろう。
◇
アンディは、父親に見捨てられたと思っている。
でも、彼がわざわざそのタイミングであちらの世界へ帰ったのは、何か理由があるような気がしてならない。
数百年前の出来事を、今からでも確かめる術はないだろうか。
あることを思いついた俺は、宰相さんへ相談をすることにした。
「勇者様のご希望とあらば、すぐに手配いたしましょう。所在はわかっておりますので」
「よろしくお願いします」
どうか、俺の二つの予想が当たっていますように。
◇◇◇
老齢の男性と、同年代と見られる少女の二人に付き添われ離宮へやって来たのは、黒髪の少年。
やや大きめの、明らかに大人用の一張羅を借りてきました!と言わんばかりの恰好をしている。
無理やり着せられた感がありありでつい笑ってしまいそうになるが、そういう俺も、国が用意してくれた貴族っぽい恰好を毎度させられているので人のことは言えない。
「初めまして、勇者様。僕…私は、リョーマ・ソネザキと申します」
「初めまして。俺はサカイと言います」
リョーマは、十三歳。
彼はまだ未成年のため、現在住んでいる帝都郊外の村の村長さんが保護者の代理として同行している。
一緒に付いてきた少女は彼の幼なじみで、村長さんのお孫さんなのだとか。
勇者を前にカチコチに緊張しているお祖父さんとは違い、孫娘はしっかりした子みたいだね。
あまり緊張感のないリョーマを隣からあれこれ注意し、しっかりと目を光らせている。
⦅まるで、おぬしとルビーのようじゃのう⦆
えっ?
ルビーと一緒にいるときの俺って、こんな感じなのか。
⦅自覚がないとは、実に恐ろしいわい⦆
い、今は、俺のことはどうでもいいだろう!
それより、アンディは?
⦅客人が部屋に入ってくるなり、どこかへ行ってしまったようじゃ⦆
そうか……。
⦅それにしても、こやつは珍しい属性を持っておる。さすがは、『勇者の末裔』と言うべきか……⦆
そう。リョーマは、先の勇者の唯一の子孫。
俺がどうしても面会したいと、宰相さんへお願いをしたのだった。
それで、珍しい属性ってなんだろう?
【名称】 リョーマ・ソネザキ/13歳
【職業】 死霊使い/ランプト村
【レベル】 38
【魔力】 40
【体力】 31
【攻撃力】 魔法 39
物理 27
【防御力】 35
【属性】 闇
【スキル】 探知
なるほど、闇属性か。
そして、この歳ですでにBランクの冒険者並みのレベルとは……
それにしても、本当によく似ている。
瞳の色は違うけど、美少年なところがね。
この『死霊使い』という職業は、『先祖返り』というやつなのかな。
⦅では、こやつが……⦆
うん、アンディたちの子孫で間違いない。
というか、時代は違えどこんなにいろんな国に勇者がいたら、ライデン王国でももっと勇者が認知されているはずだろう?
リョーマは、日中に外でも活動できるアンデッドを使役して、畑を耕したり収穫をしたりして生計を立てているそう。
彼にはずっと面倒を見てくれている老人がいて、その人は先祖代々ソネザキ家で従僕をしていた家系の者とのこと。
ソネザキ家が爵位を返上したあとも、唯一付き従っていた使用人だ。
高齢のため、今回帝都へは一緒に来ていない。
「先の勇者様についての記録が残っていればご覧になりたいとのことでしたが、残念ながら数代前の火災で焼失してしまったそうで……」
「そうですか……それは、残念です」
村長さんが申し訳なさそうな顔をしているけど、何百年も前のことだからね。
何か手掛かりがあればと期待したけど、こればかりは仕方ない。
「……ですが、ゆかりの品が一つだけ残っているとのことで、預かってまいりました」
「!?」
村長さんが取り出したのは、布に包まれた物体……色あせてボロボロになった箱だった。
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