目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン

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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た

73. 突然の別れ。そして……

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「……私なら、彼の能力をすべて『取消』することができるかもしれません」
 
「えっ……そんなことが、できるのですか?」

 思ってもみなかった話に、まじまじとザムルバさんを凝視してしまう。

「はい。私は、『召喚者の権限』を持っておりますので」

「召喚者の権限……ですか?」

「今までずっと黙っておりましたが、あなた様を召喚したのはジノムではなく……この私なのです」

 それから語られたのは、ザムルバさんの懺悔だった。
 きっかけは、『勇者召喚魔法』が記載された書物を偶然手に入れてしまったこと。
 勇者を召喚したのは、個人的な理由……直接会って話をしたかったから。
 国にも内緒でこっそり召喚し、話を終えたらすぐに元いた世界へ帰すつもりだった。
 ところが、召喚地点がずれ勇者は行方不明に、自分は魔力欠乏症でひと月ほど意識を失ってしまう。
 意識を取り戻したときには、ジノムが自分を召喚者だと偽り、国を挙げての捜索にまで発展していた。

「……だから、一人で俺を捜し出し、元の世界へ帰そうとしたのですね」

「あなた様がこの世界で生きることになったのも、このような事態になったのも、すべて私の軽はずみな行動のせいなのです。本当に、本当に申し訳ございませんでした!」

 頭を地面にこすりつけ、ザムルバさんが俺へ謝罪をしている。
 憧れの勇者に会って話がしたい……ただ、それだけの理由で俺は召喚された。
 ここで、「ふざけるな!」と激怒するべきか、「この人、何をしてくれたんだ……」と心底呆れるべきかなのか、頭の中がぐちゃぐちゃでそれすらもわからない。

「……事情はわかりました。でも、とりあえず今はそれどころではないので、この件は一旦保留とします」

 まずは、目先の問題を片付けることが優先だ。
 俺は、強引に気持ちを切り替えた。

「それで、その『取消』というのは?」

「書物の最後の頁に、その呪文が載っておりました。召喚者だけが行使できる権限を持っているそれは、召喚勇者の暴走を阻止するための切り札です」

 なるほど。
 万が一、ジノムのような勇者が現れた場合に備えて、対処方法が明記されていたのか。

「『取消』すると、スキルも何もかもなくなるのですか?」

「書物には『一般人に戻る』とありましたので、おそらく……」

 これには魔法陣などは必要なく、相手に直接触れて呪文を唱えるだけとのこと。
 いつでも行使可能です!と言われた。

「申し訳ないですが、少々待ってもらえませんか? 実は、一つだけどうしても取り戻したい固有スキルがあるのです」
 
「取り戻すための、なにか具体的な方法はあるのでしょうか?」

「それは……」

 固有スキルをすべて奪われてしまった俺では、どうすることもできない。
 でも、他は消えてしまっても構わないから、どうかマホーだけは……
 転がされているジノムへ目を向ける。

「マホー、聞こえているか? 俺はどうしても、おまえだけは取り戻したい。だって、俺たちは家族だろう?」

 何か方法はないか?
 必死に頭を働かせていた俺は、あることを思い出す。
 そうだ! マホーが言っていた方法なら、もしかするかも……

「こいつの血を取りこんだら、俺のところに自力で戻って来られるか? 俺にスキルがなくても、おまえならできるだろう? マホーは、大魔法使いなんだからさ!」
 
 傍から見れば、この場にいない人物に一生懸命話しかけている頭のおかしな俺を、ザムルバさんは目を丸くして、アンディはただ黙って見ている。
 ジノムは口を塞がれた状態でも、相変わらずモゴモゴと騒ぎ暴れている中、プーンと耳障りな羽音が俺の耳元をかすめていった。

 ん? もしや、これは……
 すぐに探知と鑑定をすると、それはやっぱり『蚊』だった!
 そうか、マホーが召喚したんだな。

「ザムルバさん、ジノムから離れてください!」

「えっ? あっ、はい!」

 間違って血を吸われてしまったら、困るからな。
 蚊は、ジノムの顔近くを執拗に飛び回っている。
 マホー、ジノムの血を吸った蚊は必ず俺が取り込んでやるから、絶対に戻ってくるんだぞ。


 ◇


 今か今かと待ち構えているけど、ジノムはなかなかにしぶとい。
 手足を縛られているのに、転がりながら暴れ回り、血を吸わせない。

「おまえ、いい加減おとなしく『蚊』に血を吸われろ!」

「モゴモゴ!」

 蚊がいるため、暴れるジノムを遠巻きに眺めることしかできないのがもどかしい。
 そんな中、ジノムは顔を自ら打ち付け、口を塞いでいる氷を割るという行動に出た。

「ざまあみろ! これで始末してやる!」

 血だらけの口で詠唱し、ジノムは蚊を火で燃やす……と同時に意識を失った。
 えっ……何が起きたんだ? 

≪父上、無事か?≫

「そうか、アンディが……」

 よく見ると、泥団子が落ちている。
 ジノムがまた魔法を行使したから、これをぶつけて気絶させたらしい。
 俺が教えた、敵を殺さず戦闘不能にする方法。
 アンディへ油断するなよと言ったくせに、俺自身が油断をしていた。
 息子よ、心配をかけてごめんな。
 そして、ありがとう。

≪父上が無事であれば、それで良いのだ≫

 アンディが抱きついてきて、猫型トーラもそれに加わる。
 一人と一匹を抱きしめながら、やっぱり家族っていいなとしみじみ思う。
 今回は失敗したけど、時間をおいてジノムの魔力を回復させてから何度でも挑戦する。
 もう一人の家族を、俺は絶対に諦めない。

「あの……勇者様、ジノムの能力が一般人以下になっているようですが、これも作戦の一つなのでしょうか?」

「……はい?」

 『一般人以下』って、どういうことだ?
 戸惑いを隠せないザムルバさんに促されるまま、俺はジノムを鑑定する。


      【名称】  ジノム・エンドルア/25歳
      【種族】  人族
      【職業】  ---
      【レベル】 100
      【魔力】  100
      【体力】  100
      【攻撃力】 魔法 100
            物理 100
      【防御力】 100
      【属性】  ---
      【スキル】 飛行
      【固有スキル】 吸血取込


 たしか、一般人が1000くらいのはずだけど……これは、その十分の一。

「これは……『(召喚)蚊』の能力かもしれません」

 職業と属性が空欄で、『飛行』と『吸血取込』を持っている。
 うん、間違いない。
 俺の懸念は当たっていたんだな。

「どういうことでしょう?」

「えっと……ざっくり説明しますと、手軽に能力を強化できることに対する『代償』とでも思ってもらえば」

 やはり、旨い話には裏があったということ。
 勇者は『蚊奪取』を使用して他人の能力を簡単に手に入れることができるが、その能力は入れ替え(もしくは上書き)となる。
 しかし、ジノムは誰の能力も取り込んでいない蚊を成敗してしまったから、蚊そのものの能力が取り込まれてしまったのだ。

「では、ジノムはもう脅威ではないと?」

「はい。ただし、彼が今も所持している固有スキルは、能力を簡単に強化することができます」

 『蚊奪取』は能力の総入れ替えだけど、『吸血取込』は上位互換の仕様だからね。

「えっ!? それでは……」

「……ただし、強者の血を取り入れる必要がありますので、それができない状態であれば問題はありません」

 おそらく彼は、今後要注意人物として幽閉されることになるだろう。
 万が一自由の身になったとしても、『蚊奪取』がないから自分で戦って強者の血を手に入れる必要がある。
 でも、このレベルでは誰にも勝つことはできない。
 だって、一般人以下だもんな。
 
 それは良かったけど……

≪父上が言っていた固有スキルは、どうなったのだ?≫

「一緒に…消えちゃったよ。もう……二度と…戻って来ない」

 まさか、こんな唐突に別れが来るなんて、思ってもいなかった。
 マホーとは俺がこの世界に召喚されたときからずっと一緒で、お互い言いたいことを言い合いつつ、仲良くやってきた。
 強制送還だって、二人で乗り越えたのに……
 
  
 俺がおまえを家族の一員だと言ったら、⦅能力スキルの儂も、家族の一員なのか?⦆と喜んでいたのは誰だよ?
 
 蘇生薬だって、まだ完成していないぞ。
 俺に⦅目玉を入れよ!⦆と強制したんだから、最後まで面倒みろよ…… 

 俺はまだまだ未熟者で、これからも師匠の教えが必要な弟子だ。
 その弟子を通して⦅孫弟子を育てるのじゃ!⦆と張り切っていたよな?

 それなのに……


「……なにが、⦅儂は絶対に消えぬから、大丈夫じゃ⦆だよ。⦅儂は、そう簡単に消滅なぞせぬ!⦆じゃなかったのかよ……」

≪父上……泣いておるのか?≫

 アンディ、トーラ、情けない姿を見せるけど許してくれ。
 今は、泣きたい気分なんだ。

「マホーの……嘘つき」

 絶対、俺のもとに帰ってくるって信じていたのに……
 目を閉じると、これまでのことが走馬灯のようにまぶたに浮かぶ。

「……誰が、嘘つきじゃと?」

 映像だけでなく、幻聴も聞こえてくる。
 マホーの残滓が、まだ脳内に残っているんだろうな。
 声は若いような気がするけど、でも、何でもいい。
 もう少しだけ、話をしたい。 

「誰って、マホーだよ。儂は、大魔法使いじゃ!って言う爺さん……」

「おぬしは、またそんなことを言うておるのか? 『どこの世界でも、年寄りは敬うように! 間違っても、大魔法使いを『爺さん』呼ばわりするでないぞ』と言ったはずじゃがのう……」

「でもさ、本当に大魔法使い様なら、消える前に自力で戻ってこられただろう?」

「だから、儂は戻ってきたではないか?」

「戻ってきたって、どこに?」

「ここにおるぞい。そろそろ拘束を解いてくれんかのう……さすがの儂でも、身動きが取れぬ」 

 ん? 拘束を解けって、まさか……
 恐る恐る目を開ける。
 地面に転がされて気を失っていたはずのジノムが、俺をじっと見ている。
 その顔は、ジノムのようで、ジノムではない気がした。

「もしかして……マホーなのか?」

「儂じゃい。おぬしの体は乗っ取れなんだが、こやつの体は乗っ取れたみたいじゃのう……」

「ハハハ……嘘だろう? 本当に乗っ取ったのかよ……」

「儂を、誰だと思っておる。大魔法使いのマホーじゃぞ!」

「うん……知ってる」

 マホーのドヤ顔は、目が潤んで残念ながらよく見えなかった。
 


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