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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た

72. 第二の召喚勇者

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 半信半疑のまま、俺はジノムを鑑定する。


      【名称】  ジノム・エンドルア/25歳
      【種族】  人族
      【職業】  召喚勇者
      【レベル】 9236
      【魔力】  9497
      【体力】  8513
      【攻撃力】 魔法 9025
            物理 3284
      【防御力】 8892
      【属性】  火、水(氷)、土
      【スキル】 製薬、鑑定、探知、空間、風操作
            飛行
            回復、召喚
      【固有スキル】 蚊奪取、蚊召喚
              吸血取込、マホー
      

『……どうして、おまえまで『召喚勇者』になっているんだ?』

『だから言っただろう。俺の固有スキル『複写』は、対象に触れることでそいつの能力をコピーすると』

 『複写』されたのは本当だった。
 しかも、固有スキルまで。
 これも、異世界転生者が持つチート能力なのか?
 マホーまでコピーされているなと思ったところで、ステータスの表示がおかしいことに気付く。
 数値の桁がいつもより多くて、まるで水晶玉から公式の画面を見ているみたいだ。

 『……おまえ、固有スキルがなくなっているぞ』
 『固有スキルだけは奪えたらしい』

 俺の固有スキルを奪ったと、ジノムは言った。
 そういえば、この部屋に来てから一度も声を聞いていないけど、まさか……

 マホー、ずっと静かだけど何をしているんだ?

 (…………)

 お~い、聞こえているんだろう?

 (…………)

 冗談は終わりにして、いい加減に返事をしろ。

 (…………)

 マホー、頼むから返事をしてくれ!

 (…………)

 何度呼び掛けても、反応がまったくない。

「嘘だろ……」

 水晶玉で確認するまでもない。
 マホーが……
 マホーが奪われてしまった。

「あの……勇者様?」

 ショックを受けている俺に声をかけてきたのは、ザムルバさんだった。

「先ほどから、ジノムとどのようなお話をされているのでしょうか?」

 そうだ。
 すっかり二人の世界に入っていたけど、この部屋には他にも人がいたんだった。

「じゃあ、俺はもう行くぜ。固有スキルを確認したいし、この世界にいるはずの『ヒロイン』たちを探し出して『ハーレム』を作るんだからな」

「待て! そんなことはさせない」

 こんな奴を野放しにしたら、この世界がめちゃくちゃになってしまう。
 ある意味、『魔王』と言うべき悪しき存在だからな。
 俺は、重い体に力を振り絞ってどうにか立ち上がる。
 ルビーたちを、絶対に守らなければ……

「あはは! おまえ、まだ魔力が回復していないだろう? そんな状態で、この俺に勝てるというのか?」

 ジノムは、いきなり火球を投げつけてきた。
 すぐに土壁で防いだけど、威力が半端なくすごい。
 やっぱり勇者って強いんだな…と改めて実感。
 防御しただけなのに、回復不十分の魔力をかなり削られた。
 体に力は入らないし、頭もクラクラするけど、俺以外に勇者と互角に戦える人物なんて……

「勇者様!」

 間髪入れずに、今度は氷の矢が大量に飛んできた。
 ザムルバさんが幾つかは排除してくれたけど、全部は無理だよね。
 これは、ヤバいかも……

≪……おまえ、父上に何をするのだ?≫

 ひんやりとした声と共に、俺に刺さる寸前だった氷の矢が一瞬にして消滅する。
 あっ!
 俺より強い子を忘れていた!!

「アンディ、ジノムを捕まえてくれ! ただ、こいつはこれまでの奴らとは違いかなり強いから、油断するなよ」

≪わかった。トーラ、父上を頼んだぞ≫

 アンディに抱っこされていたトーラが元のサイズに戻り、再び俺を守るように傍に来た。
 氷の微笑みを浮かべたアンディが、ジノムの前に立ちふさがる。

≪父上の代わりに、私がおまえの相手をしてやろう≫

「なんだ? 今度は従僕のガキが俺の相手をしようってか。今の俺は、おまえのご主人さまより強いんだぞ?」

≪言いたいことは、それだけか?≫

「あはは! この『覚醒勇者』さまに勝つ気でいるのか。おもしろい。相手になってやる」

 ジノムは、次々と火球や氷の矢を打ち出してくる。
 彼の目は血走っていて、己の能力に陶酔しているようだ。
 膨大な魔力、並外れた攻撃力、数々のスキル……これが、力に溺れるということなのか。
 感覚がおかしくなって、見境がつかなくなる暴走状態。
 一歩間違えれば、俺もこうなっていたのかもしれない。
 
 でも俺には、釘を刺してくれる頼もしい相棒…マホーがいた。
 師匠であり、大切な俺の家族。
 今、ジノムの中にはマホーがいるはずだけど、どうしているのだろうか?
 意識が定着するまでには、時間がかかると言っていたけど……

≪そんな攻撃が、私に通用すると思っているのか?≫

「な、なんで効かねえんだよ!!」

 闇雲に攻撃を続けるジノムには、焦りの色が見える。
 もしかして、アンディがアンデッドだと知らないのか?
 俺が唖然としている間に、ジノムは縛り上げられ地面に転がされた。

「アンディは、アンデッドだぞ。おまえ、そんなことも知らなかったのか?」

「そんなこと、知るわけねえだろ! こんな『キャラ』を作った覚えはねえし! とにかく、離せ!! 俺は勇者さまだぞ!!!」

 大声で喚き叫ぶジノムは、≪静かにしろ≫と氷で口を塞がれた。
 うん、さすがは先の勇者の子供だね。
 召喚勇者よりも強いって、もう世界最強じゃないか。
 とにかく、まずはジノムを捕まえることができてホッとする。

「アンディ、ありがとう。ザムルバさんも、助かりました」

「いえ、私はほとんどお役に立てず申し訳ございません。ところで、ジノムが自分を勇者だと言っていたのは……」

 そうだよな。
 ザムルバさんとアンディには事情を説明をしないといけないけど、あの副師団長に聞かれるのはマズいな…って、そういえば彼女はどこだ?

≪手が痛いと騒いで煩わしかったから、隣の倉庫に閉じ込めてある≫

 そ、そうなんだ。
 全然気付かなかったけど、丁度よかったかも。

「詳細は省きますが、俺の能力がジノムへ複写されました。固有スキルは、彼に奪われたままです」

≪あの者も、勇者になったいうことか?≫

「そういうことだな。だから、今は召喚勇者が二人存在している状態だ」

「なんですと!」

「勇者の持つ固有スキル自体で、人を攻撃することはできません。ですが、今後悪用することは可能です」

 『蚊召喚』や『蚊奪取』は魔力等の問題で使用制限があるが、『吸血取込』ならお手軽だし、ジノムなら躊躇なく取り込みそうで怖い。
 でも、固有スキルを奪い返すことは、今の俺にはできないし……

「……私なら、彼の能力をすべて『取消』することができるかもしれません」

 これからのことに頭を悩ます俺に、ザムルバさんは意外な言葉を口にした。



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