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27、ドアは閉めてくれ
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「どういうことなんだレーヴェ! あれほど言っておいたじゃないか! エヴァンには見つからないようにしてくれって! 扉を開けてセックスをするなっていつも言ってたのに! どうして守れないんだ!」
ノアの執務室で、フィアリスは机を叩きながら非難の声をあげた。
さすがにエヴァンの前ではこんな話はできないから、魔物駆除から帰ってきて次の日のことだ。憤懣やるかたないフィアリスは、エヴァンが外出した隙を狙い、レーヴェがノアの部屋にいるのを見つけて突撃した。
「気をつけてたよ……気をつけてたけど、扉がちゃんと閉まってない時だってあるだろ」
「ないようにしてくれと私は頼んだんだっ!」
「フィアリス、そういう話を大声でしないでただけますか。今も実際、あなたが飛びこんできたままなので扉が開いていますし」
書類に目を通しているノアは、抑揚のない声でそう注意した。
フィアリスは走って部屋の扉をしっかり静かに閉め、またレーヴェの横に戻ってくる。
「あなたがどれだけ性に奔放でも構わないけれど、子供に悪影響があることは謹んでくれって言ったはずだ」
「悪影響ってそんな大袈裟な……。愛の営みは悪いことじゃないだろう。見られたのは去年だぜ、あいつも大して子供じゃない。健全な青年に健全なセックスを見られてもそんなに問題だとは思わないが。俺なんか童貞卒業したのは十二の時だし、あいつは見ただけなんだから」
「あなたの性交のどこが健全なんですか。あなたはいつも此方の都合を考えない」
ノアが口をはさむ。
この二人がそういう関係にあることはフィアリスも知っていた。何せレーヴェは三大欲求の強い男である。この女性のいない家でひたすらレーヴェの相手をさせられているのは気の毒にもノアなのだ。彼は細身で相当な美貌の持ち主であり、レーヴェの好みの顔をしていることもあって餌食になっている。
「待てよ、俺が悪いみたいな言い方だな。俺はノアのことを思ってやってるんだが」
「よく言いますね。あなたはいつも私が仕事をしている最中に部屋に押し入ってきて始めるのだから、仕事が遅れていい迷惑です。して下さいって、私がいつ頼みました?」
顔色一つ変えず、引き続き書類に目をやりながらノアは不満を訴えた。ここに来る前からの関係だそうで、ノアも周囲に隠したいのは山々だっただろうが、もう諦めている。
「お前を癒してやってるんだろ? それこそ俺が止めてやらなくちゃ、睡眠時間を削ってでも仕事を続けようとするんだからな」
「私のせいにするのはおやめなさい」
「ふーん、じゃあ正直に言おう。お前を押し倒すのが好きで好きでたまらん」
「ならどうぞ、と私が言うとでも思ってるんですか。怪しい薬まで盛って私をいいようにして、あなたは本当にろくでもない人間です」
「またまた……お前だっていつも喜んでるくせに……」
腕に手をかけると払いのけられる。
レーヴェは一応、エヴァンの剣術の師として雇われてはいるが、リトスロード家に忠誠を誓っているわけではない。そもそもはノア・アンリーシャの家にいたのである。
ノアの祖父がリトスロード家の家令を務めていて、その祖父が亡くなって役目を継いだのがノアだ。強い魔力を持つアンリーシャ家はリトスロードに代々仕えており、ノアもその教育を施されている。
ノアが今より若かった頃、彼は暴漢に襲われて窮地に陥っていた。そこへ出くわして、救ったのがレーヴェだったのだ。
レーヴェはノアを気に入って、しばらくアンリーシャの館に滞在していた。その後ノアはリトスロード本邸に来たのだが、行くあてのないレーヴェも一緒にくっついてきたのである。
別にノア一筋というわけではなく、町に行けば女も抱くのだが、結局はノアが一番いい、と戻ってくる。
この鉄の仮面をつけたようなノアも、何を思うのかレーヴェをいつも受け入れている。
フィアリスとしては他人の関係に口を出せる立場ではないし、何をしようが構わないのだが、とにかくレーヴェのそれは激しいのでいつかエヴァンに目撃されないかと気が気ではなかったのだ。
「エヴァンが私に迫るのは、あなた達に影響を受けたからじゃないのかな……」
フィアリスは机に手をついて、ぐったりとうなだれた。
きっとそうに決まっている。男同士の交わりを見たものだから、そういうものだと思いこんでしまったのではないだろうか。
「俺はそうは思わないけどなー。何で男が男を抱いたら駄目なんだよ」
「駄目とは言っていない。エヴァンが私を抱きたいと思うのが問題なんだ」
「わからんな。好きだから抱きたいっていうのは自然な発想だ。お前もうじうじ悩んでないで、一発エヴァンとヤッてみてから改めて考えてみたらどうだ?」
なんちゃって、ははは、と愉快そうにレーヴェは大笑する。
そんな彼をすくうように見上げるフィアリスは、疲れ切った顔をしていた。
「とんでもないこと、言わないでくれ」
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