侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku

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46、求めてくれる子がいたから

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 地上に降り立ったレーヴェは、踏ん張って思い切り鎖を引いた。術で出した鎖は随分伸びたが、ある程度のところで止まる。
 竜はじれったそうに身動きをして、鎖から逃れようとしていた。

 フィアリスの生み出した捕縛の鎖は強力だ。フィアリスは攻撃以上に防御や捕縛といった魔法が得意なのだ。
 けれどこれほどのデカブツ相手となるとどこまで抑えられるかはわからない。

(引き寄せて……ぶった斬るかな。どこもかしこも硬そうだし、核の正確な位置がわからん。いけるとすれば一番細い首か)

 魔物は核を破壊すれば確実にしとめられる。防御力が高かったりする手強い相手ならそこを狙うのが定石だ。
 核の場所が不明な場合は、真っ二つにするに限る。おそらく竜は形態からいって再生能力は低そうだから、切り離せば動かなくなるだろう。

 問題は、やたら硬そう、という点だ。
 とにかく今とどめられているのはこの鎖があるおかげで、何があっても手を離すわけにはいかない。

 そしてこんな窮地だというのに、さらに状況は悪くなった。
 片手に鎖を握ったレーヴェを取り巻くように、怪しげな黒い服をまとった男達がぞろぞろ現れたのだ。

「今、立て込んでんだけど。どちら様?」

 尋ねても答えは返ってこない。が、予想はつく。
 ウェイブルフェン家の手のものだろう。考えてみれば、ギリネアスが大仕事をするのに一人でこんなところへ来るわけがない。取り巻きを連れてきて当然だ。

「レーヴェルト・エデルルーク。貴様を倒せば名が揚がるな」

 男の一人が言う。
 こんなやり方で名が揚がるもクソもあるか、とレーヴェは内心毒づいた。

「恥ずかしくねぇのかよ、これで俺に勝って。卑怯だとは思わないのか?」
「戦では卑怯も何ももない。試合ではないのだからルールはない。殺し合いはそういうものだ。どんな汚い手を使おうが、勝者は勝者」
「まあね。そりゃ、お前が正しいけどさ」

 お上品な試合よりは殺し合いの方がレーヴェだって慣れているから言い分は理解できる。
 舐めた理想も立派な矜持も、命を奪い合う場面になれば身を守る足しになりはしない。
 一人に何人でかかろうが、後ろから切りつけようが、騙そうがはめようが、何でもしなければ生き残れない場面はある。

 レーヴェもそうやって生きてきた。

「じゃあ、まあいいよ。かかって来い。殺せるもんなら殺してみな」

 レーヴェは首からさげてシャツの中に隠してあった小さな笛を取り出して、口にくわえる。
 吹いても音は伝わらなかったが、すぐに口から離した。
 それから目つきを鋭くして剣士の顔つきになり、剣を構えた。


 一撃、二撃、三撃と、執拗にギリネアスの攻撃は続く。やや距離をとって、矢を放つ。
 フィアリスは動くことも出来ずに防ぐ一方だった。どうもこの男相手だと、思い切り戦えない運命にあるのかもしれない。

 特殊な矢は弓を構えると出現し、一度に数十本も放つことが可能だ。防御を破るのに特化した魔道具らしく、度々防壁を破られるフィアリスはかすり傷を増やしていった。
 一級石がこれ以上砕けないよう力をそそがないとならず、動きがとれない。集中力が半々になってしまうので、反撃の威力は弱まって、ギリネアスに避けられてしまっていた。

「ギリネアス様。お願いですから引いて下さい。あなたの嫌がらせで、どれだけの人間が命を落とすことになるとお思いですか」
「面白ければ俺はなんでもいいんでね。近頃王都は平和だし、阿鼻叫喚に逃げ惑う人間の姿を見るもの悪くない。祭りは退屈を紛らわせる」

 この男の堕落の程度は救いようがないほどらしい。話したところでわかってはもらえなさそうだ。

 ――ギャアア、ォオオ、オオ……!

 はっとしてフィアリスが目を転じると、歪んだ魔法陣の表面に魔物が溢れ出していた。一体、ニ体と、もがきながら出て来ては地上へ向かって跳び上がっていく。

(いけない。あれを一掃しなくては……)

 一度石に力を送るのを中止して、魔法陣に向かって杖を掲げ、術を発動させようとする。
 しかし、ギリネアスに斬りかかられて中断せざるをえなかった。
 どうにかかわすが、体勢を戻した途端に一級石の軋む音を耳にしてまた力をそそぐために手をかざさなくてはならなくなった。

「よそ見をする余裕があるのか、フィアリス!」

 剣を構えてギリネアスが飛びかかってくる。杖で剣を受け流し、逆に体当たりをして押さえ込んだ。二人で地面に倒れこみ、杖を持ち上げたフィアリスは魔法陣に向かって光を放つ。
 溢れそうになっていた魔物の一部は魔法によってかき消える。

 フィアリスの下敷きになっていたギリネアスがすかさず弓を構えて、一級石に向かって矢を放った。
 フィアリスも応戦し、矢を弾き飛ばして石を守るが、至近距離で矢を放たれたので何本かをまともにくらって腕に深手を負ってしまった。

「殺してやるよ、フィアリス。もっともっと遊んでからだけどな。お前は死にたがりなんだろう? だから体を粗末にして、痛みを与えられるのを待っている」
「……あなたには殺されたくないな」

 死にたがっていたのかはわからない。ただ、死んでもいいとは思っていた。
 辱められて苦痛を受け、耐えてはいたけれど、いつ消えても構いはしなかった。
 居場所を見つけてしまってからは、自責の念は消えなかったけれど、死んでもいいという気持ちは薄らいでいった。

 自分より生かしたかった人がいたから。
 それに、自分を求めてくれる子がいたから。
 その人達のために命をなげうつなら平気だが、役目も果たさずこんなつまらない男の慰みのために死ぬのは御免だ。

 ――目眩が、する。

 覚悟していた以上に消耗が激しいらしかった。あちこち気を配るのも楽ではない。せめてギリネアスが倒れてくれたらと思うのだが、簡単にしとめられるほど甘い相手ではなかった。
 しかし、なんとしてでも解決しなければ。ギリネアスを片づけ、魔物を退け、竜も倒す。――集中しなければならない。

「さて、覚悟はいいか? 俺が手加減しない男だというのは知ってるだろうな」

 ギリネアスが駆け出した。
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