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7、一つの寝台
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レオフェリスは本気で同じ寝台で眠るつもりらしい。ノエルは、それほど広い寝台ではないからと説得するために、自分の寝室に連れていった。領民から好意で貰った寝具はそれなりに立派で清潔だったが、貴族が使うものほど高品質ではない。
「十分眠れますよ、ノエル様」
「しかしだな……」
寝間着ではないがゆったりとした服に着替えたレオフェリスは、もう寝る気満々である。
いつまで経ってもノエルがぶつくさ渋っていると、レオフェリスはしょんぼりとし始めた。
「許していただけないのなら、私は床で寝ましょう。同じ部屋で眠れるなら、それでいいですから」
と床に膝をつこうとするのでノエルが止めに入った。
「私が床で寝る! お前が寝台で寝ればいいだろう! そうだ、それがいい!」
一応子供の頃から使っている寝台で、男爵邸に残された、由緒あるものの一つではあった。彼を寝かせるとしたらここしかなく、しかし自分が一緒に横になるのは意味がわからない。
だが、レオフェリスは了承しなかった。
「いけません。ノエル様がここで寝てください」
「私は床で寝る! 何と言おうと床で寝るぞ!」
「あなたがそう仰るなら、私は庭で寝ますね。平気です、野宿には慣れています」
何故そうなる!
肩を落として出て行こうとするレオフェリスに、「待て待て!」とノエルは大慌てでしがみついた。リューネフェルトの王子(次期国王)を庭で眠らせる男爵なんて最悪である。どういういきさつがあろうが、ミラリア家末代までの恥だ。
客には最高のもてなしを。それが貴族の常識である。
「わかったから! 一緒に寝よう、お前がそれでいいなら。王子が外で寝るなんて言ってはいけないぞ!」
貴族は矜持を捨ててはならないと教えられている。それは王族とて同じだろう。品位を保つ努力をするのは当然のことなのだ。
悲しそうに尻尾を下げる犬みたいな様子だったレオフェリスの顔が、ぱっと輝いた。いそいそと先に寝台に上がり、ノエルにも横に来るよう催促する。
美しくて品の良い男なのだが、そうしてはしゃいでいるさまは、やはり犬を連想させた。犬だ犬だと本人が言うせいかもしれない。
レオフェリスは変わっているのかもしれないな、と思いつつ、ノエルも寝台に横になった。
向かい合って無言になる。何だこれは、とノエルは心の中で呟いた。子供ならともかく、どうして成人男性二人が一つの寝台で向かい合うことになる? 身分以前の問題では?
「そういえば、レオ。金の指輪をしていたな」
レオフェリスの左手の人差し指には、金の指輪がはまっている。指摘されて、レオフェリスは左手をあげて見せた。薄暗がりの中、金色がわずかに輝いていた。
「これは、王家に伝わるものなのです。リューネフェルトの建国から、代々授かってきて、正当な王位継承者である証にもなります。私は父に託されました」
「大事なものだったんだな」
子供の頃は大きくて指にはめてもすぐに抜けてしまったが、やっと丁度良くなったのだ。それがまた、彼が王位につくに相応しい人間であるのを示しているようでもある。
ノエルはレオフェリスの手首をつかみ、しげしげと指輪を眺めた。刻印などは特になく、細いものなので、説明されなければ特別な指輪だとは気がつかないだろう。
ふと視線を感じた。指輪ばかり見ていたノエルだったが、レオフェリスはノエルの顔に見入っている。
誰かとこうして共に寝るのはいつぶりだろう。そうだ、十年ぶりだ。同じ場所で、同じ人と横になっていると思うと、不思議な心地がする。
「覚えていらっしゃいますか、ノエル様。あなたが私に、こうしてくださったこと」
レオフェリスは手をのばし、ノエルを引き寄せると、足まで絡めてきた。
「レオ……っ?!」
当然だが、体が密着する。抱きしめられて、ノエルはどぎまぎした。今は家族も恋人もいないノエルが誰かに抱きしめられる機会などなかった。慣れていないからか、やたらと緊張してしまう。
手も足も、やんわりと絡んでいるだけなので抜け出そうと思えばできそうだが、体に力が入ってしまってろくに動かない。
「当時の再現ですよ。深い意味はないです」
「そ、そうか。そうだよな」
それにしても、顔がやけに熱い。リンゴ酒を飲み過ぎたのだろうか。今まで酒精に酔った経験など一度たりともないノエルだったが、酒のせいとしか説明がつかない気がした。
私はどうしたらいいんだこれは、と動揺しながら、もしかするとかつてのレオフェリスもこんな気持ちだったのかもしれないと思った。
「どうですか?」
「どう? うーん……。そうだな、覚えている範囲で、私を抱きしめてくれた人は父上だけだった。それも子供の頃だけだ。周りに私を抱擁してくれるような人はいないし……。寂しいと感じたことはなかったが、いいものだな、あたたかくて。気持ちが良いよ」
誰かに見られたら恥ずかしいことこの上ないが、幸い二人きりである。ノエルは正直に感想を述べた。
するとレオフェリスは目を見開いて――顔を近づけると、静かに唇を重ねてきた。
呆然としているノエルに、レオフェリスは微笑みかける。
「これも昔、したでしょう?」
「だが……」
ますます顔に熱が集まってくる。暗くて良かった。まず間違いなく、自分は赤面しているだろう。
「犬のやることです。お気になさらず」
もう一度唇で軽く触れると、レオフェリスはそのまままぶたを閉じてしまう。いくら待ってもそれ以上は喋らず、離れる気配もなかった。
「このまま眠るのか? 眠りにくくないか?」
ノエルが何度か声をかけたが、銀髪の王子は返答せず、すやすやと眠り始めてしまったのだった。
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