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8、薪割り
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一ヵ月ほど泊まると言い張るレオフェリスだったが、ノエルには領主としての仕事があった。一日中付きっきりで相手ができない旨を伝えると、その辺を散歩などして過ごすとレオフェリスは答える。
数日はつつがなく過ぎていった。話ができる時はレオフェリスと会話をし、ノエルが仕事をしている時はレオフェリスは護衛と外に出て行く。食事は一緒にとり、夜は同じ寝台で眠った。
何とも奇妙な日々が始まってしまったわけでが、誰も不満に感じていないので問題はなさそうだ。
しかしノエルは、レオフェリスのある行動に頭を悩ませている。今日も窓から外をのぞくと、裏庭には薪割りをしているレオフェリスの姿があった。
薪割りはジェフリーの仕事だが、彼は長年腰痛を患っており、近頃は特にしんどそうなのである。ノエルが少し手伝っているのだが、それを知ったレオフェリスがいつの間にか薪割りを始めたのだ。気づいた時には腰を抜かすかと思った。
いいと言うのに、またやっている。ノエルはため息をつくと、廊下に通りかかった王子の護衛の一人に声をかけた。
「あなた達の主が、薪を割っているぞ。止めなくていいのか」
護衛はどちらも壮年で、レオフェリスの父が王であった時代から王家に仕えていたようである。おそらく身分は高いだろうと思われるので、接し方に悩んだノエルだったが、面倒になってその辺は適当にしていた。
「殿下は刃物の扱いは慣れておられますから」
「斧が危ないなどと心配はしていない。王子が、下働きの仕事などするべきではないのでは?」
体面の問題だ、とノエルは言った。
「それはミラリア卿も同じでは? あなたも全ての薪割りを下男に任せてはいないでしょう」
「ジェフリーは腰痛持ちだからだよ。私はいいさ。薪を割ったって恥ずかしいなんて思わない」
本当は自分が全部やってやりたいくらいなのだが、それはそれでジェフリーを傷つけてしまう。だから少しだけにしていた。下男には下男の、領主には領主の仕事があるのはわかっているが、体がしんどい時に手を貸すくらいは許されるだろう。あの男爵は貴族のくせに薪なんて割って、と笑う者もいるかもしれないが、別に笑われたところでノエルの中で損なわれるものなど何もない。ジェフリーの健康の方が大切だ。
護衛の男はノエルのそんな言い分にじっと耳を傾けていた。何を思うのか少しの間沈黙していたが、軽く頷く。
「レオフェリス殿下もそのように思われるでしょう。問題はありません」
「そうかな……」
いくらなんでも、田舎の貧乏男爵と大国の次期国王では立場が違いすぎないか? とノエルは心の中で反論するが護衛の男はあくまで止めるつもりはないらしい。
「散歩だけでは体がなまると仰っておりましたから」
「それはそうかもしれないが」
レオフェリスは武芸もたしなむそうだから、常に体を鍛えているのだろう。どの道、王位につけば薪を割る機会などほとんどないでしょうから、一種の遊技だと捉えていただければ、と言って護衛は去っていった。
いいのか、と悩んだノエルだが、納得することにした。ジェフリーはといえば、最初こそ恐縮して困っていたが、そのうち「あんな立派なお方に割ってもらって、薪も幸せでしょうなぁ。燃やすのがもったいないですよ」とのんきに感動していた。
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