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10、買い物
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丸一日、レオフェリスの護衛の姿が見えないと思っていたのだが、彼らはある日何台もの馬車や荷車を連れて男爵邸に戻ってきた。乗っていたのは商人や荷運びの男達で、何やら屋敷に運び込んでいく。
「何の騒ぎだ?!」
書斎で帳簿を前にし、虚空を見つめていたノエルだったが、物音を聞きつけて玄関まで走っていった。ジェフリーとメイベルも困惑顔で、出入りする人々を見守っている。
「坊ちゃん、この方々が、寝台を持って来たそうで……」
誰が手配したかは考えるまでもない。ノエルは近くに立っているレオフェリスに言った。
「レオ、お前だろう? 困るよ、こんなことは」
「ノエル様、私の護衛が使う物ですよ。ミラリア卿のご都合も聞かずにいきなり押しかけてしまって、失礼なことをしたと反省したのです。一ヵ月近く滞在するのですから、使う物を用意しなければならなかったのですよ」
ノエルは心の中で「そうか」と納得しかけたが、「いや、だからって寝台を購入するか?」と疑問にも思った。とはいえ、護衛達が未だに長椅子で寝ているのは事実であり、ノエルは心を痛めていたのだ。寝台で眠ってもらえるのならそうしてもらいたい。
使用人達にも負担をかけた詫びにと、ジェフリーとメイベルの古びた寝台も新調してくれた。でも、と断ろうとするノエルだったが、二人が喜んでいるので言い出しにくかった。
「私からの、二人への礼ですから。大して高価なものではありませんよ」
ノエルがまごついている間に、搬入は終わってしまった。寝台の他に、食堂の椅子も新しくなる。これも数が足りてないから、との理由だ。
次に持ち込まれたのは鉄の鍋だった。我々の料理を作ってもらうのだから、調理器具を差し入れるのは当然だとレオフェリスは主張する。食器も足りないだろうと持ってきたのは、新品の錫製のものだった。
銀製なら絶対に突き返そうとしていたノエルだが、錫製は高級でもないからとレオフェリスに押しつけられる。木の皿は一部がカビていたし、陶器は欠けていたし、丁度良くはあった。
人数が増えたので、という理由で食材も届けられる。これも特に高級品ではなくて、ここらでよく食べられるものばかりだった。それでも出費が抑えられるのだから、大助かりである。
メイベルが歓声をあげるので何かと思えば、銀のスプーンやナイフがあった。
「銀なんていけない、貴族が使うものだぞ!」
言いながら、自分も貴族であることを思い出してノエルは恥じ入った。だが、とにかくこれは受け取れない。レオフェリスは置いていくつもりだろうが、ノエルはいつか――たぶんすぐに、これを金に換えてしまうはずだ。
「ノエル様、これは私の部下の、エヴラードとルーファスのためなのです。二人も貴族でして、銀の食器で食事をするのが恋しいと言い出したのですよ。貴族は昔から、毒を感知すると言われる銀食器で食べるのが習わしですからね。実際、銀では毒などほとんどわかりませんが……。大丈夫です、ここから去る時には持って行きますからね。皆で使いましょう」
銀皿とセットであれば、そんな重たいものを持って帰るはずがない、置いていく気だろう、と言い返したのだが、スプーンやナイフなら、まあ持って帰れるか? とノエルは首を傾げる。
悩んでいるうちに、メイベルが「銀製なんて、久しぶりでございます」と感激してスプーンを抱きしめていたから、取り上げにくくなってしまった。
メイベルは、ノエルは貴族であるし、領主として、ある程度立派なものを使ってほしいと願っていたのだ。
「メイベルも喜んでいるではないですか」
とレオフェリスは言い、さらに続けた。
「あなたが施しを嫌っておられるのはわかりますよ。けれど、これは施しではなく、お礼です。あなたは私の命の恩人ですから、これくらいはさせていただけるでしょうね?」
大金と違って、断りづらい。メイベルとジェフリーのためになるのなら、素直に受け取ってもいいのかもしれないと思った。
「ありがとう、レオ」
ノエルの言葉に、レオフェリスは嬉しそうに笑みを浮かべた。
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