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初めてのデート編
やっぱりデートと言えば映画でしょ
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「ねえねえ! 見てよこれ! 可愛くない!?」
莉乃が手に取ったのは人気キャラクターの絵柄がプリントされたマグカップ。2匹の子熊が木の下で眠っている様子は確かに可愛らしいと思った。
「でもこれ……結構な値打ちだぞ? 本当に買うの?」
同じようなサイズのマグカップはいくつも陳列されているが、莉乃が手に取っているものは一際異彩を放つ程の値段だった。
「え、買わないけど」
「え、買わないの? 欲しいものがあるからお店に入ったんだとばかり……」
棚に商品を戻す莉乃にそう聞くと、莉乃はため息交じりに答える。
「拓海、そんな調子だと彼女に嫌われちゃうよ? いい? 欲しい物だけ買ってすぐに退散するのは男の悪い所! 彼女と二人でいるなら、一緒に共感してくれないと!」
「それは、そうかもしれないけど……でも何も買わずに店を出るのは良くないと思う」
「大丈夫だよ、未来のお客さんへの投資って聞いたことあるし」
「いや、その考え方は偏り過ぎだろ……」
莉乃は店員側の気持ちを勉強した方が絶対良い。こんな世間知らずでは先が思いやられる。
……今度バイト先の店長に相談でもしてみようか。
「ほら拓海、ボーっとしない! そろそろ時間だから行くよ!」
いつの間にか一足先に店を出ていた莉乃は、明るく言った。
「時間って……この後どこかに行くの?」
「もちろん! そのために今日ここに来たんだから! ほら、急ぐよ!」
「だからどこに……って、おい莉乃、走るなよ……!」
質問を無視し、足早に去ろうとする莉乃。
でも、莉乃は楽しそうに笑っていた。
「…………ま、別にいいか」
振り回されるのはいつものこと。今更気に病むことじゃない、か。
仮初めの恋人だとしても、関係が急に変わる訳じゃない。
莉乃は幼馴染。家族同然なんだから――――――
ーーー
「ここって……映画館だよな?」
「ご名答。やっぱりデートと言えば、映画鑑賞でしょ?」
確かにデートと言えば、映画が挙げられる。でも……
「莉乃、映画ならこの前行ったばかりだろ? もう忘れたのか?」
高校生になる前の準備と称して買い物に付き合わされた時、莉乃がどうしても見たいと言って聞かなかったので一緒に映画を観たばかりだった。
「いや、あの時はまだ付き合ってなかったでしょ? 今日は恋人として観に来たの。お分かり?」
「お分かりもなにも、そもそも俺達本気で付き合ってないだろ。意識が変わっただけで結局いつもと同じじゃん」
「ああ――!? また雰囲気壊した! ほんとに拓海は風情というかなんというか……」
「ぐ、悪かったよ……で、今日は何を観る予定なの? アクション? ミステリー?」
そう言いながら券売機に向かおうとすると、袖を掴まれる。
「ちょいちょい待ちなって、ストップストップ。チケットは事前に買ってあるから大丈夫」
「え、珍しい……」
いつもなら映画館に着いてから観るものを吟味するのに、今日は特別らしい。
「初めてのデートは準備も念入りにって言うし、私もそうしないと」
「? ……そうか」
違和感を感じたのは気のせいか。
「ちなみに今日は恋愛邦画を観ます。ほら、あのポスターのやつ」
「どこ指してんだよ……あれ全部ポスターじゃん」
「だからあれだよ、今話題のアイドルグループのメンバーの人。最近よくテレビに出てるよ」
「俺アイドルとか詳しくないからなぁ……」
「まあ引き籠ってるから仕方ない……って、ちょっ、なに……!?」
その声と同時に、横腹に鈍い衝撃が走る。
「痛―――!?」
思考が停止した。
「え、なんで肩に触った……!? そういうのはセクハラだって知らなかったの……!?」
「えぇ……ちょっと手を置いただけじゃん……」
「……デリカシーない男は彼女に嫌われるよ? いや、だから友達もまともにいないのか」
「ねえ、なんで傷口に塩を塗るのかなぁ!? デリカシーないのはどっちだよ!」
「今回は拓海が悪い。寧ろ私に謝れ。もしくは誠意を見せろ」
莉乃は不機嫌そうに言っているつもりだが、口元が僅かに綻んでいる。演技か。
「……はあ、分かったよ。ほら、飲み物買ってきてやるから欲しいもん言ってくれ」
「やった! じゃあ、ポップコーンのキャラメル味よろしく!」
「飲み物っつったろ……まあ、いいけどさ」
そう言って財布を取り出し、中身を見る。札が二枚、十分足りるだろう。
「じゃあ私はチケットを――――」
隣で財布を取り出そうとする莉乃。小さい手提げバッグに手を突っ込んでいた。
「…………あれ」
「ん? どうした? やっぱ違う味にするか?」
「…………」
「……莉乃?」
名前を呼んでも返事をしない。それどころか、表情が見るからに真っ青だった。
「拓海……ごめん」
小さく呟き、そして震える声で、莉乃は告げた。
「チケット……忘れてきちゃった…………」
莉乃が手に取ったのは人気キャラクターの絵柄がプリントされたマグカップ。2匹の子熊が木の下で眠っている様子は確かに可愛らしいと思った。
「でもこれ……結構な値打ちだぞ? 本当に買うの?」
同じようなサイズのマグカップはいくつも陳列されているが、莉乃が手に取っているものは一際異彩を放つ程の値段だった。
「え、買わないけど」
「え、買わないの? 欲しいものがあるからお店に入ったんだとばかり……」
棚に商品を戻す莉乃にそう聞くと、莉乃はため息交じりに答える。
「拓海、そんな調子だと彼女に嫌われちゃうよ? いい? 欲しい物だけ買ってすぐに退散するのは男の悪い所! 彼女と二人でいるなら、一緒に共感してくれないと!」
「それは、そうかもしれないけど……でも何も買わずに店を出るのは良くないと思う」
「大丈夫だよ、未来のお客さんへの投資って聞いたことあるし」
「いや、その考え方は偏り過ぎだろ……」
莉乃は店員側の気持ちを勉強した方が絶対良い。こんな世間知らずでは先が思いやられる。
……今度バイト先の店長に相談でもしてみようか。
「ほら拓海、ボーっとしない! そろそろ時間だから行くよ!」
いつの間にか一足先に店を出ていた莉乃は、明るく言った。
「時間って……この後どこかに行くの?」
「もちろん! そのために今日ここに来たんだから! ほら、急ぐよ!」
「だからどこに……って、おい莉乃、走るなよ……!」
質問を無視し、足早に去ろうとする莉乃。
でも、莉乃は楽しそうに笑っていた。
「…………ま、別にいいか」
振り回されるのはいつものこと。今更気に病むことじゃない、か。
仮初めの恋人だとしても、関係が急に変わる訳じゃない。
莉乃は幼馴染。家族同然なんだから――――――
ーーー
「ここって……映画館だよな?」
「ご名答。やっぱりデートと言えば、映画鑑賞でしょ?」
確かにデートと言えば、映画が挙げられる。でも……
「莉乃、映画ならこの前行ったばかりだろ? もう忘れたのか?」
高校生になる前の準備と称して買い物に付き合わされた時、莉乃がどうしても見たいと言って聞かなかったので一緒に映画を観たばかりだった。
「いや、あの時はまだ付き合ってなかったでしょ? 今日は恋人として観に来たの。お分かり?」
「お分かりもなにも、そもそも俺達本気で付き合ってないだろ。意識が変わっただけで結局いつもと同じじゃん」
「ああ――!? また雰囲気壊した! ほんとに拓海は風情というかなんというか……」
「ぐ、悪かったよ……で、今日は何を観る予定なの? アクション? ミステリー?」
そう言いながら券売機に向かおうとすると、袖を掴まれる。
「ちょいちょい待ちなって、ストップストップ。チケットは事前に買ってあるから大丈夫」
「え、珍しい……」
いつもなら映画館に着いてから観るものを吟味するのに、今日は特別らしい。
「初めてのデートは準備も念入りにって言うし、私もそうしないと」
「? ……そうか」
違和感を感じたのは気のせいか。
「ちなみに今日は恋愛邦画を観ます。ほら、あのポスターのやつ」
「どこ指してんだよ……あれ全部ポスターじゃん」
「だからあれだよ、今話題のアイドルグループのメンバーの人。最近よくテレビに出てるよ」
「俺アイドルとか詳しくないからなぁ……」
「まあ引き籠ってるから仕方ない……って、ちょっ、なに……!?」
その声と同時に、横腹に鈍い衝撃が走る。
「痛―――!?」
思考が停止した。
「え、なんで肩に触った……!? そういうのはセクハラだって知らなかったの……!?」
「えぇ……ちょっと手を置いただけじゃん……」
「……デリカシーない男は彼女に嫌われるよ? いや、だから友達もまともにいないのか」
「ねえ、なんで傷口に塩を塗るのかなぁ!? デリカシーないのはどっちだよ!」
「今回は拓海が悪い。寧ろ私に謝れ。もしくは誠意を見せろ」
莉乃は不機嫌そうに言っているつもりだが、口元が僅かに綻んでいる。演技か。
「……はあ、分かったよ。ほら、飲み物買ってきてやるから欲しいもん言ってくれ」
「やった! じゃあ、ポップコーンのキャラメル味よろしく!」
「飲み物っつったろ……まあ、いいけどさ」
そう言って財布を取り出し、中身を見る。札が二枚、十分足りるだろう。
「じゃあ私はチケットを――――」
隣で財布を取り出そうとする莉乃。小さい手提げバッグに手を突っ込んでいた。
「…………あれ」
「ん? どうした? やっぱ違う味にするか?」
「…………」
「……莉乃?」
名前を呼んでも返事をしない。それどころか、表情が見るからに真っ青だった。
「拓海……ごめん」
小さく呟き、そして震える声で、莉乃は告げた。
「チケット……忘れてきちゃった…………」
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