【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理

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二章

何があっても

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「……あ」
 ーー授業。
 学園の授業をすっかりさぼって、ここ……魔獣の森に来てしまったのだった。

「ほら、行くよ。ソフィア」

 リッカルド様が、私の手を握って、走り出す。

「はい!」

 私も、その手を強く握って、駆け出した。





 ーーその後。
「ねぇ、ソフィア」
「……うーん」

 やっぱり、ここの刺繍糸の色は、黒……いや、青かしら。

「ソフィアったら」
「ううーん、やっぱり紫」

 紫にしよう。
 紫の方が、映えそうだし。

「なにが紫なの?」
「うわぁ!?」

 突然耳元で囁かれ、思わず手に持っていた刺繍用のハンカチを取り落とした。

「りりりり、リッカルド様!?!?」

 ど、どうしてここに!?

「……うん、君のリッカルドだよ」

 リッカルド様は機嫌が良さそうに、ニコニコと微笑んでいる。

「君の、って……」
「そうでしょ?」

 リッカルド様は、私の左の薬指に視線を落とした。

 そこには、私たちが正式に婚約を結んだ証である婚約指輪がはまっている。
 リッカルド様の指にも、似たデザインの指輪がはまっていた。


「……そ、そう……ですね?」
 
 なんというか。
 リッカルド様は、あの日以来、私に対する好意を隠さなくなった。
 特に婚約してからは、それが、顕著だ。

 私は、そんなに甘い言葉に耐性がないので、すぐに赤くなったり、照れたりしてしまう。

「うん。……髪、伸びたね」

 リッカルド様が、私の髪に、触れる。
 今の私の髪は、背中を覆うまで伸びていた。
 学園の卒業まで後少し。

 私は、魔獣騎士科から、淑女科に転科していた。

 くるくると私の伸びた髪を弄ぶリッカルド様は、楽しそうだ。

「リッカルド様は本当に、私の髪がお好きですね」
「? 僕が好きなのは、ソフィアだよ」
「!!!!」

 また、すぐ、そういうことを言う。
 頬が熱い。

「……ふふ。ほんとかわいい」


 リッカルド様は、目を細めて微笑むと、続けた。
「……ほら、もうすぐ卒業式でしょう。パーティーの件で話し合いたくて」

 そういえば、卒業式後にパーティーがあるんだっけ。前は、ひたすら、メリア様と踊るリッカルド様を見つめてたら終わってたな。

「……というわけで、ソフィアを連れ出してもいいかな、マリー嬢」
「はい、もちろんですわ!」

 マリーは、どうぞ、どうぞ、とジェスチャーをした。
 放課後にマリーと一緒に刺繍をしようと、教室に残って、刺していたのだ。

「ありがとう。では、行こうか、ソフィア」
「は、はい!」

 慌てて、ハンカチや刺繍の道具を鞄に片付けて、立ち上がる。

 リッカルド様のエスコートで、廊下を歩く。

「……?」

 そういえば、卒業式のパーティーの話し合いって、なんだろう。

 もう、リッカルド様から、パーティーのドレスなどは贈ってもらったし。
 他に話し合うことなどあったかしら。

「あの、リッカルド様?」

 リッカルド様が、立ち止まった。

「ねぇ、ソフィア」

 夕方の日差しを受けて、リッカルド様の髪が輝く。

「僕のこと、どんなことがあっても、信じてくれるーー?」

 リッカルド様のことを信じるか。
 そんなの、答えは決まっていた。

「はい、もちろん」

 すぐに頷く。

「……ありがとう」

 リッカルド様は微笑んだ。

「ところで、話し合うことって?」
「もう終わったから、デートしようか」

 えっ!?!?
 もう終わったの?

 驚いて目を白黒させる私の手を、リッカルド様は握った。

「愛してるよ、ソフィア」


 リッカルド様、もしかして、卒業パーティーで何かをするつもりなのだろうか。

 でもーー、リッカルド様が、何をするつもりでも。何があっても。

「私も。……私も、リッカルド様を愛しています」

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