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二章
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
ーー卒業式の当日。
今日は、運命の日だ。
以前の私が、一番間違えた日でもある。
でも……。
左の婚約指輪をさする。
「……大丈夫」
私は、この罪を忘れずに、歩いていく。
だから、きっと。
「ソフィア、準備はできたかな?」
控えめなノックと共に、リッカルド様の声がした。
「はい!」
扉を開けて、リッカルド様を出迎える。
「!!」
リッカルド様は、目を見開いた。
どうして、そんなに驚いているんだろう。
「リッカルド様……?」
リッカルド様は、ゆっくりと瞬きをした後、微笑んだ。
「ううん。とてもーー、綺麗だ」
「!! ……ありがとう、ございます」
シンプルな褒め言葉。
でも、だからこそ、本心なのが伝わる。
嬉しい。
リッカルド様にそう思ってもらえて、とっても嬉しい。
「リッカルド様もとっても素敵です」
お世辞抜きに、リッカルド様もかっこよかった。
横に流した髪も。
パーティー用の紳士服もとてもよく似合っている。
「……うん、ありがとう」
リッカルド様が微笑む。
「あの、リッカルド様」
「ん?」
私は背伸びをして、リッカルド様の頬に口付けた。
「愛しています。何があっても、どんなことがあっても」
「!!」
リッカルド様は、ぽかん、と口を開けた。
そんなに、驚いた顔、初めて見るわ。
……初めて、口付けをしたからかな。
じわじわと私にも羞恥心が湧き上がってくる。
「……あの、リッカルドさーー!」
ぎゅ、とリッカルド様に抱きしめられた。
「僕も、ソフィアを愛してる」
「……はい」
私もリッカルド様の背中に手を回した。
リッカルド様の手が微かに震えている。
きっと、リッカルド様がしようとしていることは、大きなことなんだろう。
ーーでも。そのことが、どんなことでも。どんな結果をもたらしても。
「愛しています」
「……うん」
リッカルド様は、もう一度強く私を抱きしめた後、体を離した。
「よし。……行こうか」
差し出された手に、手を、重ねる。
差し出された手にも、私の手にも。
おそろいの婚約指輪がある。
「はい!!」
◇
卒業式は、つつがなく進み、パーティーの時間になった。
リッカルド様と踊る。
以前は、ただ眺めていただけの場所に、私がいるのは、ずいぶんと不思議な気がした。
「ソフィア」
リッカルド様が微笑む。
リッカルド様のエスコートは本当に踊りやすい。
「愛してるよ」
「……はい」
リッカルド様はダンスを終えると、私の手を離した。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい……待ってますね」
リッカルド様が何をしても。
ずっと、待ってる。
◇
ーーワルツの曲が止まり、いよいよ、卒業の最後のイベント……【女神の使い】の発表がある。
……女神は、まず、リッカルド様の名前を呼んだ。
ここまでは、前と同じだ。
ーーでも。
「僕は、【女神の使い】を辞退します」
リッカルド様が高らかに宣言をした。
途端に会場がざわつく。
こんなことは、前代未聞だからだ。
だって、前回の世界でも、私もリッカルド様も理由は尋ねても、辞退はしなかった。
それは。
そんなことをしたら、女神がさってしまうから。
この枯れた国の大地に恵みをもたらす女神が。
「この映像をご覧いただきたい!」
リッカルド様が遠い場所の景色を映す宝珠を使って、映像を映す。
映されたのは、魔獣の森の研究所だった。
「僕は、女神の力を使わずに、植物を育てることに成功しました」
「!!!」
嘘だろ、狂言だ、とリッカルド様の言葉に反論の声が上がる。
「こちらに、その実物の作物の一部を持ってきています」
その言葉と共に、鉢植えに入れられた植物が運ばれてきた。
「これは……!」
「我が国の民ならば、女神の力を使っているかどうかわかるかと」
リッカルド様がサンプルとして選んだのは、この国の国花だった。
みんながこぞって、リッカルド様の育てた花を見ようと、ステージに集まる。
確かに女神を感じないが……、そんなこと可能だったのか……など、口々に驚きの声が上がるのが聞こえる。
「女神」
リッカルド様は、神託のために下界へと降りてきた女神を見つめた。
「これまでの永き間、私共を護り慈しんでくれたこと、感謝申し上げます。あなたがいらっしゃったからこそ、今の私共があります」
「……」
女神は、応えない。
リッカルド様を見つめ返すだけだ。
「ですが、私は私の恋しいひとと。女神の使いだからではなく、愛しいと思うから夫婦になりたいのです」
「……」
女神は、ゆっくりと瞬きをした。
そしてーー。
「わかりました」
小さく、頷いた。
「女神が話した!?!?」
女神が話すのは、使いの名前を言うときだけ。
その法則が崩れたことに、みんな口々に顔を見合わせる。
「……感謝申し上げます」
リッカルド様は、女神に深く礼をした。
やがて、女神の使いを告げるという女神の役割を終えて女神がさっても、ずっと最上級の礼をし続けていた。
◇
女神が去ってしばらくした後。
みんな、リッカルド様に詳しく話を聞きたがった。
「今まで、誰にでも成し遂げられなかったことをしたんだ。彼こそ、神では!?」
なんて、言う人もいた。
でも、リッカルド様は、そんな人混みをかき分けて、まっすぐ。
ただ、まっすぐに、私の元に来てくれた。
「ソフィア」
リッカルド様が私の手を取り、跪く。
「結婚してください」
私たちは、婚約者で。
家同士でも、もう結婚することが決まっている。
でも、今、改めて言ってくれたのは。
「はい……! はい、もちろん。喜んで!!!」
リッカルド様の手を握り、抱きしめる。
リッカルド様。
リッカルド様が、なんのために、こんな大掛かりなこと、してくれたのか。
だって、私たちが女神の使いに選ばれるであろう可能性は高かったから。
本当なら、そんなこと、しなくてよかった。
でも、それでも。
リッカルド様が、そうしてくれたのは。
それは、これ以上ない、愛の証明だった。
私の罪を背負うといった、その言葉の。
他の誰でもない、私を愛しているという、証だ。
「……リッカルド様」
リッカルド様は、涙をこぼした私の目元をそっと拭い、微笑んだ。
「ソフィア、君を愛してる」
ーーもう、悪魔もいないこの世界では、やり直すことなんてできない。
……でも、リッカルド様と想いを通わせたあとも私の人生という物語は続いていく。
この先、泣くこともあるかもしれない。
挫けたくなることもあるかもしれない。
それでも、……それでも。
リッカルド様に、微笑み返す。
「……わたしも。私も、リッカルド様を愛しています」
今日、握った手の温度を、決して忘れず。
離さずに。
あなたと一緒に、歩んでいく。
だって、それは私の望みでもあり、あなたの望みでもある。
きっと、これこそが、悪役令嬢だった私が、あなたのためにできるたった一つのことなのだ。
※※※
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
また近いうちに、悪魔側の事情的な番外編をあげようかなと考えていますが、これにて本編は完結です。
本当にありがとうございました!
あとTwitter(X)に改めてどうだったのかなーと聞きたいアンケートがあるので、よろしければご回答いただけたら嬉しいです!
今日は、運命の日だ。
以前の私が、一番間違えた日でもある。
でも……。
左の婚約指輪をさする。
「……大丈夫」
私は、この罪を忘れずに、歩いていく。
だから、きっと。
「ソフィア、準備はできたかな?」
控えめなノックと共に、リッカルド様の声がした。
「はい!」
扉を開けて、リッカルド様を出迎える。
「!!」
リッカルド様は、目を見開いた。
どうして、そんなに驚いているんだろう。
「リッカルド様……?」
リッカルド様は、ゆっくりと瞬きをした後、微笑んだ。
「ううん。とてもーー、綺麗だ」
「!! ……ありがとう、ございます」
シンプルな褒め言葉。
でも、だからこそ、本心なのが伝わる。
嬉しい。
リッカルド様にそう思ってもらえて、とっても嬉しい。
「リッカルド様もとっても素敵です」
お世辞抜きに、リッカルド様もかっこよかった。
横に流した髪も。
パーティー用の紳士服もとてもよく似合っている。
「……うん、ありがとう」
リッカルド様が微笑む。
「あの、リッカルド様」
「ん?」
私は背伸びをして、リッカルド様の頬に口付けた。
「愛しています。何があっても、どんなことがあっても」
「!!」
リッカルド様は、ぽかん、と口を開けた。
そんなに、驚いた顔、初めて見るわ。
……初めて、口付けをしたからかな。
じわじわと私にも羞恥心が湧き上がってくる。
「……あの、リッカルドさーー!」
ぎゅ、とリッカルド様に抱きしめられた。
「僕も、ソフィアを愛してる」
「……はい」
私もリッカルド様の背中に手を回した。
リッカルド様の手が微かに震えている。
きっと、リッカルド様がしようとしていることは、大きなことなんだろう。
ーーでも。そのことが、どんなことでも。どんな結果をもたらしても。
「愛しています」
「……うん」
リッカルド様は、もう一度強く私を抱きしめた後、体を離した。
「よし。……行こうか」
差し出された手に、手を、重ねる。
差し出された手にも、私の手にも。
おそろいの婚約指輪がある。
「はい!!」
◇
卒業式は、つつがなく進み、パーティーの時間になった。
リッカルド様と踊る。
以前は、ただ眺めていただけの場所に、私がいるのは、ずいぶんと不思議な気がした。
「ソフィア」
リッカルド様が微笑む。
リッカルド様のエスコートは本当に踊りやすい。
「愛してるよ」
「……はい」
リッカルド様はダンスを終えると、私の手を離した。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい……待ってますね」
リッカルド様が何をしても。
ずっと、待ってる。
◇
ーーワルツの曲が止まり、いよいよ、卒業の最後のイベント……【女神の使い】の発表がある。
……女神は、まず、リッカルド様の名前を呼んだ。
ここまでは、前と同じだ。
ーーでも。
「僕は、【女神の使い】を辞退します」
リッカルド様が高らかに宣言をした。
途端に会場がざわつく。
こんなことは、前代未聞だからだ。
だって、前回の世界でも、私もリッカルド様も理由は尋ねても、辞退はしなかった。
それは。
そんなことをしたら、女神がさってしまうから。
この枯れた国の大地に恵みをもたらす女神が。
「この映像をご覧いただきたい!」
リッカルド様が遠い場所の景色を映す宝珠を使って、映像を映す。
映されたのは、魔獣の森の研究所だった。
「僕は、女神の力を使わずに、植物を育てることに成功しました」
「!!!」
嘘だろ、狂言だ、とリッカルド様の言葉に反論の声が上がる。
「こちらに、その実物の作物の一部を持ってきています」
その言葉と共に、鉢植えに入れられた植物が運ばれてきた。
「これは……!」
「我が国の民ならば、女神の力を使っているかどうかわかるかと」
リッカルド様がサンプルとして選んだのは、この国の国花だった。
みんながこぞって、リッカルド様の育てた花を見ようと、ステージに集まる。
確かに女神を感じないが……、そんなこと可能だったのか……など、口々に驚きの声が上がるのが聞こえる。
「女神」
リッカルド様は、神託のために下界へと降りてきた女神を見つめた。
「これまでの永き間、私共を護り慈しんでくれたこと、感謝申し上げます。あなたがいらっしゃったからこそ、今の私共があります」
「……」
女神は、応えない。
リッカルド様を見つめ返すだけだ。
「ですが、私は私の恋しいひとと。女神の使いだからではなく、愛しいと思うから夫婦になりたいのです」
「……」
女神は、ゆっくりと瞬きをした。
そしてーー。
「わかりました」
小さく、頷いた。
「女神が話した!?!?」
女神が話すのは、使いの名前を言うときだけ。
その法則が崩れたことに、みんな口々に顔を見合わせる。
「……感謝申し上げます」
リッカルド様は、女神に深く礼をした。
やがて、女神の使いを告げるという女神の役割を終えて女神がさっても、ずっと最上級の礼をし続けていた。
◇
女神が去ってしばらくした後。
みんな、リッカルド様に詳しく話を聞きたがった。
「今まで、誰にでも成し遂げられなかったことをしたんだ。彼こそ、神では!?」
なんて、言う人もいた。
でも、リッカルド様は、そんな人混みをかき分けて、まっすぐ。
ただ、まっすぐに、私の元に来てくれた。
「ソフィア」
リッカルド様が私の手を取り、跪く。
「結婚してください」
私たちは、婚約者で。
家同士でも、もう結婚することが決まっている。
でも、今、改めて言ってくれたのは。
「はい……! はい、もちろん。喜んで!!!」
リッカルド様の手を握り、抱きしめる。
リッカルド様。
リッカルド様が、なんのために、こんな大掛かりなこと、してくれたのか。
だって、私たちが女神の使いに選ばれるであろう可能性は高かったから。
本当なら、そんなこと、しなくてよかった。
でも、それでも。
リッカルド様が、そうしてくれたのは。
それは、これ以上ない、愛の証明だった。
私の罪を背負うといった、その言葉の。
他の誰でもない、私を愛しているという、証だ。
「……リッカルド様」
リッカルド様は、涙をこぼした私の目元をそっと拭い、微笑んだ。
「ソフィア、君を愛してる」
ーーもう、悪魔もいないこの世界では、やり直すことなんてできない。
……でも、リッカルド様と想いを通わせたあとも私の人生という物語は続いていく。
この先、泣くこともあるかもしれない。
挫けたくなることもあるかもしれない。
それでも、……それでも。
リッカルド様に、微笑み返す。
「……わたしも。私も、リッカルド様を愛しています」
今日、握った手の温度を、決して忘れず。
離さずに。
あなたと一緒に、歩んでいく。
だって、それは私の望みでもあり、あなたの望みでもある。
きっと、これこそが、悪役令嬢だった私が、あなたのためにできるたった一つのことなのだ。
※※※
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
また近いうちに、悪魔側の事情的な番外編をあげようかなと考えていますが、これにて本編は完結です。
本当にありがとうございました!
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